第50話 誰かからの贈り物
「あんた、ライエルだろ?俺たちのパーティに加入しないか?」
そう声をかけてきたのは、俺より少し若い感じの男女4人で構成されるパーティだった。
若そうだが、立ち居振る舞いに隙が無い。腕が立ちそうだ。
最近はこういう風に声をかけられることも増えたな
「新契約システムのことは知ってるだろ?」
「ああ、もちろん」
アルフェリズのギルドと王都の冒険者ギルドが最近始めた新しい契約システムだ。
報酬頭割りには含まないメンバーには一定額を支払う、そして補助メンバーにはギルドから補助をだすらしい。
前から検討はされてたそうだが、今回の戦いでその話が一気に実現したということなんだそうだ。
頭割りの都合で今まで不遇なポジションに追いやられてた錬成術師や、テレーザの様な欠点はあるが強みもあるような魔法使いがパーティに加入しやすくなるかもしれない。
引退した錬成術師達にも声がかかっていると聞いた。
エンリケの言葉を借りれば、戦術の多様性があることは有益ってことだな。
今回の魔族も偶々テレーザがいたから良かったが、前衛を並べたオーソドックスな編成では太刀打ちできなかった。
「アンタの組んでいる魔法使いはいずれいなくなるんだろ?」
彼が言う。その通りだ。
テレーザは今、アレクトール学園に戻っている。
アレクトール魔法学園の生徒であるあいつは一時的にこの街に来て戦っていたに過ぎない。
「ただ、それより今は問題があってな」
「というと?」
「触媒が無い」
そう言うと彼が流石に困ったように顔をしかめた
錬成術師は能力の行使に触媒が必要になる。
俺の場合は風の魔剣だったが、それに派手に亀裂が入ってしまった。なじみの武具店に持ち込んでみたが、修復は無理と言われてしまっていた
一応まだ使えはするが、強い魔法を使えば壊れるだろうと言われている。
ローランとの戦いでの最後の雷撃を使った時だ。
あの魔法が発動しなかったら今ここに居れないんだが、触媒がないという問題は解決してない。
そして、触媒は高いのだ。
一応あの魔属討伐でかなり稼げたが、それでも前と同じ程度の触媒を買うことはできそうにない。
「と言うことで、少し保留にさせてくれ」
「そう言う事なら仕方ない。だが触媒が手に入ったらぜひ俺たちを選んでくれ。
俺はA3、他もB2かB1、同格だ。あんたとしても悪くない話だと思う」
「ああ、ありがとう」
ちょっと前は誰からも必要とされず、パーティ加入をどうするか頭を悩ませていたのに、ずいぶん変わるもんだな
◆
「で、どうするんだ?」
客が帰った後、風の行方亭のマスターが聞いてきた。
「引退はしないんだろ?」
「そりゃ勿論」
この状況で引退なんて考えるはずもない。
どうやら魔族との戦いの噂は結構広範囲に回っているらしくオードリーとメイからも熱烈な手紙が来た。
引退なんて言ったら猛反対をされるだろう。
ただ、触媒の調達は悩みどころではあるが。
「ギルドに借りるか?」
「それが一番かね」
ギルドは装備の調達に便宜を図ってくれたり金を貸してくれたりもする。
現実的にはそれが最良だろうな、今ならダメだともいわれまい。
「失礼いたします」
そんな話をしていたら不意に人が入ってきた。
◆
「いらっしゃい」
入ってきたのは、何処かの店の制服らしきものを着た一人の男だった。
マスターの声に笑顔で会釈してそいつがこっちを向く。
「ライエル様は貴方ですね」
「ええ」
「ではこちらを」
そう言って男が青い布に包まれた長い箱を机の上に置いた。
「これは?」
「あなたにお届けするように言われています」
そう言いながら、勿体ぶったようなしぐさ男が包みを解いた。
布を外すと木の箱が現れる。男が恭しく木の箱を開けると、一本の剣が入っていた
風の属性を感じる、触媒だ。
「どうぞ、お手に取って下さい」
「いいのか?」
言われるがままに黒く塗られた鞘から抜く。
そりのある見慣れない刀身は青い刃と灰色の峰に分かれていて、波のような刃紋が美しい。
刃の付け根には何か異国の文字らしいものが彫り込まれていた。
鍔も渦を巻く風をモチーフにしたらしき凝った装飾がされている。
紫の布が交互に巻かれた柄は少し長くて、柄頭には二つの鈴が付けられていた。
「で、これは?」
「こちらは貴方のものです」
「言っておくが金は無いぞ」
というか、これはあの魔道具屋で見た風の剣だ。
あの時は軽く見ただけだったが、改めて見ると込められた魔力の強さが分かる。
かなりの業物だ。値段も相応にするのは想像に難くない
「既にお支払いいただいております」
「誰だ?」
「それは申し上げない様に言われておりまして……では失礼します」
そう言って男が頭を下げて出て行った。
◆
本当に置いて行ってしまった。改めて手の中の剣を見る。
サーベルの様な細身の片刃剣だが、結構長い。今までの様に腰に挿すのは無理だな。
重心の感じや長めの柄を見て、これは今までの剣やサーベルの様な片手で扱うものではなくて両手で振る物だろうと思う
ただ、両手剣にしてはずいぶん細身の刀身だが。
机の上に置かれた鞘に剣を納める。
その鞘にも青い飾り紐が巻かれていた。武器でもあるがなんというか芸術品のようだな。
「良かったじゃないか、ライエル」
「まあ、そうだな」
当面の最大の問題はこれで解決した。が。
「誰からの贈り物かは……」
「まあ、あいつしかいないだろうが」
こんな高いものをわざわざ贈ってくれる奇特な人間がテレーザしかいまい。
ただ、名前を伏せるのがよく分からんな。
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