第23話 魔族との戦い・下
久しぶりに使ったが、上手く行った。断続的に輝く紫色の稲妻がバフォメットを捕らえる。
バフォメットが怒りの咆哮を挙げた。
バフォメットが甲高い悲鳴を上げて下がる……明らかにダメージはある。武器の攻撃はだめでも魔法なら効くのか。
だが重い疲労感がのしかかってきた。
やはり連発はできない。年かな。
バフォメットの胸の磔にされた女がまた何か詠唱を始めた。
テレーザは詠唱中……風で魔法は止められない。
「詠唱を止めろ!」
「分かってる」
ヴァレンがメイスを振り上げて突撃する。
振り下ろされたメイスがデカい剣とぶつかり合って金属音を立てた。
「黙ってろ、この馬鹿!」
「くそが、死ね!」
剣を横に薙ぐ。
風の弾丸が立て続けにバフォメットをとらえたが、胸の女をかばうようにした腕で弾丸が止められた。
続いて突っ込んだロイドがハルバードでバフォメットを横薙ぎにした。
太い腕が落ちてその向こうの女がざっくり切り裂かれる。悲鳴が上がって詠唱が止まった。
「やるな!」
「この俺だぞ!軽いもんだ!」
ロイドが威勢よく言うが……切り裂かれて焼けただれた女の姿がまた元に戻っていく。
バフォメットが落ちた腕を拾い上げて無造作に傷口につないだ。黒い煙が上がって腕が元どおりにくっついてしまった。
……ダメージが入っているのか?
「さっきのをもう一発撃てねぇのか!ライエル!」
「無茶言うな。消耗が激しいんだ」
ロイドが聞いてくるが、もう一発撃つのは厳しい、というかできれば撃ちたくない。撃てばほぼ魔力を使い切ってしまう。
むしろ魔法が有効なら、テレーザの一撃の方が期待できるぞ。
とりあえず風の壁をもう一度作るが……バフォメットがまたにじり寄る様に近づいてきた。
振り上げられた黒い剣が風の壁を切り裂いて、風がやむ。
勝ち誇ったかの言うに山羊の顔が歯をむき出しにした。よだれの様なものが垂れる。笑ってるのか。
ロイドがもう一度
たたき割るかのように斧がヤギの頭を切り裂くが、傷がまた何事もなかったかのようにふさがっていく。
「まだか?早くしてくれ!」
流石に詠唱が長いにもほどがある。もう持たないぞ。
振り向いたところでテレーザの杖が白く光って空に飛びあがった。
「待たせたな、すまない!」
テレーザが手を横に振ると白い魔法陣が空中に浮かんだ。
「【歴史に名を刻む戦士にして偉大なる王、其の名はアレクサンドラ。彼の携えし槍はその躯とともに陵墓にあり。
混沌を退け、秩序を齎したその槍よ。今一度この地に。その名において平穏よあれ、闇を祓え】術式解放」
詠唱が終わると同時に地面に魔法陣が表れた。
バフォメットが危険を察したのか、翼を羽ばたかせて飛び上がろうとする。
それより早く、魔法陣の真ん中から天を突くように突き上げられた槍がバフォメットを刺し貫いた
★
すさまじい悲鳴が上がって、バフォメットがぐらりと傾いだ。
黒い体液のようなものが噴出して、それが蒸気のように消えていく。槍を抜こうともがくが体を縦に貫いた槍が抜けるはずもない。
暫くすると力尽きたように動きが止まって、体の末端からバフォメットが崩れて行った。
ライフコアがごろりと転がる。勿体ぶっただけあって大した威力だな。
「倒した……のか?」
ロイドが信じがたいって顔で俺を見る
「どうやらそのようだ」
なんとなく現実感がないままに答える。
できれば解放感に浸りたいところだが……そんなことよりもう夜が近い。
近くに敵影は無いが、もう一戦あったら全滅待ったなし。
テレーザも満足げな顔をしているが顔色は明らかに悪い。
あれだけ魔法を連発すれば当然だろう。高い威力はそれと引き換えに術者に消耗を強いる。
「とにかく逃げるぞ」
「ああ、分かった」
テレーザが大事そうにライフコアを拾った。
ロイドとヴァレンが、倒れた二人、イブリースとエレミアを引き起こす。
幸いにも倒れた二人とも死んではいなかった。
おぼつかない足取りの二人に肩を貸して町に向かって歩く。
あとは何も出ないことを祈るのみだったが、ちょっとした野獣に会ったくらいですんだ。
木々の合間から城壁の明かりが見えた時は心底安心した。
夜闇に光る灯台の明かりは希望の光だぞ、という船乗りの言葉が実感を持って理解できた。
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