第17話 彼女について

 用事があると言って帰り道に1人でとある酒場に寄った。

 カウンターで少し話すと奥に案内される


「おお、ライエル」


 天窓と小さな明かりだけの薄暗い部屋に入ると机に座った背の低い男が親し気に挨拶してきた。

 すでに初老だが、かつては数々の冒険で活躍している、元冒険者だ。ごくわずかだが組んだこともある。


「剣は置いていってくれよ」

「分かってる」


 入り口で風司の剣を入り口の横に立っていた男に渡す。 


 ここは探索者スカウトギルドだ。

 冒険者の報酬は頭割りだから戦闘メンバーで編成される。しかし、現実的には深い森や洞窟で索敵をしたり、遺跡の探索など戦闘以外の難しい状況はいくらでもある。

 そんな時のために、そういう恩恵タレントを持つものを派遣するのが探索者スカウトギルドの仕事だ。


 総じて経済的に安定しない彼らはお互いを互助会という形で助け合っている。それがこのギルドだ。

 仕事の仲介や冒険者の統率が役割の冒険者ギルドとは少し毛色が違う。


「どうだ?調べてもらえたか?」


 そして彼らは情報屋的なものもしている。

 普段は別の職業を持っているもの多い。様々な所から情報を集めそれを売り買いする。依頼すれば調べ物もしてくれる。


「ああ、簡単なものだがね」


 今回頼んだのはテレーザについての調査だ。

 正直言ってあまりに変な点が多い。


 別にそれが戦い方に影響するわけじゃないからこれは純粋な好奇心に近い。人のことを探るなんてゲスな気もするが。

 俺は長いことアルフェリズとその近辺にいるから、それ以外のことは知らないし知人もいない。

 アレクト―ル魔法学園は都であるヴァルメーロにあるが、一度しか言ったことがないレベルだ。


「アレクト―ル魔法学園の実践魔術主席、正式な名前はテレーザ・シントラ=ファティマ・ヴァーレリアス。

歴史ある魔法使い一族、ヴァーレリアス家の一人娘だ」


「そうなのか?」


 金持ちっぽいのは分かっていた。それに豪華な装備と漂う気品というかちょっとお高く留まった雰囲気は貴族の関係かもなとにおわせていたが。

 しかしそこまで立派な家とはね。


「だがヴァーレリアス家は没落気味だな。何代も優秀な魔法使いが出ていない。総じてあの家計は古い……というか、長い詠唱と引換えに高い威力を出すってタイプの血筋らしい」


 そう言って彼が俺の方を意味ありげにみる


「時代だな。残酷なもんだ。能力とは関係ないがな」


 まさにその通りで、彼女の火力だけなら十分に一線級であり前衛数人分に匹敵する。

 だが、その能力が時代にあっているかはまた別だ。


「だが彼女は主席だろ?」

「突出しているらしい……火力は」


 それはよくわかる。火力は、という意味深な一言も。

 高い火力は持っているが、それ以外は優秀とはいいがたいからな。


「こっちに来ているのは、実践魔術の分野での授業の一環らしいな。

アレクト―ル魔法学園の実践魔術の学生は時々そういうことをするらしい。冒険者に混ざって自分の実力を試す」


「そうなのか?」

「実践魔術の性質上、学園の評価は高くなるようだ。

まあ危険だからやらない奴もいるようだし、有能な人材に死なれても困るから学園としても痛し痒しのようだな」


 そう言って彼が肩をすくめる。

 静かで暗い部屋に沈黙が下りた。

 

「なぜ主席が?」

「さあな、そこまでは調べられなかった……彼女に聞くしかないな」


「ところで聞いておいていうのもなんだが、アレクト―ル魔法学園のことを調べてほしいなんていったか?」

「これはサービスだ。気にするな」


「ありがとう。助かるよ」


 彼女のことは少しわかった。だが、なぜここに居るかはわからない。

 主席なんだから無茶な冒険に出ず学園で安全にその位置を守ればいいと思うんだが。


 まああいつは聞いても答えないだろうな。

 話していても、これ以上踏み込むな、という壁というかそういうものを感じるときがある。


「もう少し調べるか?」


 少し考える。遠くから誰かの話し声が聞こえた


「いや、いい」


 これ以上を調べるのはなにか悪い気がする。

 報酬の銀貨を置いて店を出た。



 風の行方亭に戻ったらテレーザがお茶を飲みながら待っていた。


「何をしていた。遅いぞ」


 そう言って彼女が立ち上がって、いぶかしげな顔で俺を見た。


「どうした?」

「いや、なんでもない」


「いくぞ。私たちならばもっと難度の高い依頼でも問題は無い、そうだろう?」

「ああ、そうだな」


 こいつがなぜここに居るのかは分からない。ただ、守るに値する奴だ。

 まあいずれ教えてくれるかもしれない。今は気にしない様にしよう。

 

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