第2話 プロローグ…side友紀(ゆき)
がこんっ
自動販売機から目的の商品が落ちた音が響いた。
ちなみにルーレットは外れている。
「よいしょっと。」
おっさん臭いセリフではあるが、彼女……金子友紀は魔法使い目前の女性だ。
今日は仕事で遠出を頼まれ普段は行かない土地へ来ていた。
商品を手にし辺りを見渡すと、公園に二つある3人掛けのベンチの片方には先約がいた。
そのため必然的にもう一つの空いてるベンチまで歩くと腰を下ろした。
かしゅっとプルタブを開け飲み口に唇を当て……んっんっと飲み始める。
口の中に甘い香りと味が満たされ、二口程中のコーヒーを飲みこんだ。
「はぁ、気が付けばもうすぐ30……職場では結婚結婚と後輩達に先を越され……」
んっんっんっとさらに飲み始める。
「お局様と言われないよう彼女らに付き合ってはいるけど。」
「話題が噛み合わない……10歳も違わないのに……」
少し前にした後輩とのやりとりの中で納得いってないことがいくつもあった。
「as time goes by っていったらこ○っくパーティだろっての。」
「九〇仏っていったら大志だろっ。」
「WHITE ALBUMと言ったら葉っぱだろ、もしくはギ〇ッチョだろっ」
「マルチと言ったら東〇だろっ。」
「カレンといったらねこみみメイドだろっ もしくはフロン○ミッションのラスボス脳みそだろっ」
「ガッツと言ったら石○じゃない、T〇E・ガッツだろっ」
「滝○クリ○テルのおもてなしじゃない、あのフリは2009年サン○ラのツアーで、しも○きんの名曲、schwa○zweiβ~霧の向こうに○がる世界~でやってるっての。」
DVDとかようつべにも証拠あるっての。
金子友紀さん、かなりヲタクである。腐ってないヲタクである。
女の子だってえろゲーはする。男子だって乙女ゲームをしたり、少女漫画を読むだろう。
……女の子?
女性だってえろゲーはします。大事な事なのでニュアンス変えても二度説明。
友紀は趣味の話に入ると少し周りが見えなくなってしまう。
「はぁ、結婚か……ま、私には無理なんだけど……」
突然現実に戻り、遠い目をしながら10月の青い空に向かって一人呟いた。
独り言が多いのはマイナスポイントだとわかっていてもついしてしまうもの。
結婚は無理だと諦めるのには理由がある。
30歳目前とはいえ友紀の見た目は悪くない。
寧ろ20代前半の女性と並んでいても遜色はない。
黒髪ロングの童顔、身体もきゅっきゅっきゅと小さい。
見た目で諦めているわけではない。
決定的に、結婚どころか異性と触れ合えない理由がある。
「そういえば昔は千葉と茨城にしか売ってないってみんな言ってたっけ……」
自分の手の中の黄色と黒の缶に向かって呟く。
決して馬鹿にしているわけではないが、千葉と茨城にしか売ってないこのコーヒーをみんなはこう呼んでいた。
「チバラギコーヒー」
「チバラギコーヒー」
(あれ?)
(私と同じ事を叫んだ人がいた?)
(その前の魂の叫びは聞かれてないよね?ね?)
声のした方向、首を右に向けるとそこには同じく片手にチバラギコーヒー
正確にはMAXコーヒーを片手にこちらを見る男性がいた。
(あ、これ、色々聞かれてて呆れてるパターンだ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます