第22話 婚約者と電話
前回のあらすじ
ダイエットのご褒美として、由弦は愛理沙を後ろから抱きしめ、そして熱いキスを交わした。
「んっ、由弦さん……」
キスを終え、由弦が離れようとすると……
愛理沙はきゅっと、由弦の服を軽く掴んだ。
「どうした、愛理沙」
「その、もう少し……」
恥ずかしそうに、もじもじとしながら愛理沙はそう言った。
そんな頼み方をされてしまうと、由弦はもう逆らえない。
「……もう一回、する?」
「……」
由弦の問いに対し、愛理沙は何も言わず……
しかし小さく頷いた。
それから上を向き、目を瞑る。
由弦はゆっくりと、そんな愛理沙の唇に自分の唇を近づけて……
プルプルプルプル!!
「ひゃぅ!」
「うお!」
唐突に着信音が鳴った。
愛理沙は慌てた様子で、携帯をポケットから取り出した。
画面には「橘亜夜香」と出ている。
「……すみません、私です。いいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
愛理沙は由弦に一度断ってから、電話に出た。
「はい、もしもし。えっ、いえ……別に大丈夫ですよ。ゆ、由弦さんと……? ま、まさか……」
もしもし、今、時間大丈夫? もしかして、ゆづるんとデート中だったりしない?
そんな幻聴が由弦の耳に聞こえてきた。
愛理沙の反応からして、由弦の幻聴はさほど真実から遠いということではなさそうだ。
「はい、はい。予定ですか? えっと、待ってください。その日は……」
予定を聞かれたらしい。
おそらく、遊ぶ約束だろう。
ところで、ふと由弦は気付いた。
愛理沙は由弦の膝の中で、電話をしているのだ。
「はい、その日は大丈……あっ」
試しに由弦が愛理沙のうなじを撫でると、愛理沙は小さな声を上げた。
少し色っぽい声だ。
「だ、大丈夫……で、ですよ。はい、両方とも……ん、そ、それで、ど、どこに……? あぅ……」
少し面白くなってしまった由弦は、愛理沙の脇腹を軽く突いたり、髪を撫でたりしてみる。
軽く太腿を撫でたところで……愛理沙に睨まれる。
が、片側の耳に息を吹きかけると、気の抜けたような声と共に目尻が緩くなった。
「な、なるほど……んっ……い、行きます。ひぅ、え、あっ……ゆ、由弦さんも? は、はい。こ、今度会ったら、聞いて……い、いないですよ? ま、まさか……んっ……」
そう言いながら、愛理沙は振り返り、由弦の方を見た。
怒ったような、困ったような、そんな顔だった。
由弦が軽く手を出すと……
愛理沙は少し迷った様子を見せてから、由弦に携帯を差し出した。
「もしもし、愛理沙の婚約者の高瀬川です」
『あのさ、薄い本みたいなことやめてくれない?』
ゲラゲラと笑いながら亜夜香はそう言った。
由弦も釣られて笑う。
一方の愛理沙は恥ずかしそうに、由弦の膝の中で縮こまっていた。
可愛らしい。
「いや、愛理沙が面白くて……いたっ……」
『どうしたの?』
「いや、何でも……」
由弦は視線を少し下に向ける。
すると愛理沙は由弦の足の皮膚を指で摘み、軽く引っ張っていた。
地味に痛い。
『まだやってるの? まあ、いいけど。本題から入ると、泊まりで海に行かない? って話ね。うちの別荘、あるでしょ。あそこね』
「あぁー、中学生の時に行ったところな」
『そうそう』
『とりあえず、私と千春ちゃん、宗一郎君は来る。天香ちゃんと、良善寺君には千春ちゃんと宗一郎君が……』
『来るそうですよ』
『来るってさ』
『来るだって』
後ろから千春と宗一郎の声が聞こえてきた。
会話の流れから察するに、今のところ参加表明をしていないのは由弦だけらしい。
「日付は?」
由弦が問いかけると、すぐに亜夜香は答えてくれた。
幸いにもその日は大丈夫だった。
そもそも由弦にとって用事は精々バイトくらいであり……
極力、バイトは愛理沙と合わせるようにしているため、愛理沙が暇な時点で由弦も暇なのだ。
それを伝えると……
『じゃあ、ゆづるんもということで。基本的に必要な物はこっちで用意するけど……あっ』
「どうした?」
「ん、な、何でもない。え、えっと……そ、そう、水着ね。水着は必須で……ぁっ、あ、あと、みんなで見る映画とか、そ、そういうのは、ひ、一つずつ、分担して持ってきて貰おうかなって……んん!」
時折、艶めかしい声が混じる。
合わせて、背後から男女の小さな笑い声。
「と、とりあえず、あとで連絡するから! じゃ、じゃあ!!」
やや強引に電話を切られた。
「……終わりました?」
少し恥ずかしそうに髪を弄りながら、愛理沙は由弦にそう問いかけた。
由弦は頷く。
「ああ、終わった。ところで……」
「はい」
「続き、する?」
由弦がそう問いかけると……
「きょ、今日は……もう、大丈夫です」
フラれてしまった。
由弦は肩を竦める。
「ところで、今日じゃなければいいのか?」
「そ、それはその時次第ということで……」
____________________________
一度期間が空くと、書けなくなる現象に遭遇していました。
とりあえず、次話は極力、早いうちに出したいと思っています。
ところで「お見合い」三巻について、重版が決まりました。
ありがとうございます。
四巻についてはまだ未定ですが
おそらく、四章が一応四巻になると思います。
ただ、内容については大きく手が加えられる……予定です。
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