第29話 婚約者との同衾
それは愛理沙にしてはとても大胆なお願いだった。
「そ、添い寝か……」
「……ダメですか?」
不安そうに愛理沙は首を傾げた。
「昨晩……とても暖かくて、心地が良かったので。……して欲しいです。添い寝してくれれば、きっと大丈夫だと思います」
甘えるような声だった。
決してダメではない。
むしろご褒美だと言いたいところだが……
(しかし理性が……)
由弦は自分の理性に自信がなかった。
無防備な婚約者の肢体がすぐ側にある。
そんな状態で自分を抑えられるかどうか。
とはいえ……
(でも断るわけにはいかないな)
先に要求したのは由弦だ。
愛理沙の提案を断るのは道義に反するだろう。
何より、せっかくの婚約者からのお誘いを断るのは少し失礼だ。
「いいよ。分かった……一緒に寝ようか」
「ありがとうございます」
どこかホッとした表情で愛理沙は言った。
話し合った結果、二人で布団の中に入ることにした。
というのもベッドの上だと落ちる可能性があるからだ。
由弦も愛理沙も寝相が悪いわけではないが、シングルベッドに二人で寝ると片方が落ちる可能性がある。
布団ならば落ちる心配はない。
「よ、よろしくお願いします」
なぜか、愛理沙は正座してそんなことを言った。
由弦は少し変な気分になってしまった。
思わず、頬を掻く。
「じゃあ、寝ようか」
「はい」
しかし愛理沙は中々、布団に入らない。
じっと、潤んだ瞳で由弦の顔を見つめてくる。
「……愛理沙?」
「……おやすみなさい」
何かを欲するように、愛理沙は言った。
そんな愛理沙の態度に由弦はようやく、察しがつく。
「……ああ、おやすみ」
由弦は愛理沙の頬に軽く接吻した。
すると愛理沙は顔を真っ赤にし、布団に倒れ込んでしまった。
恥ずかしそうに顔を枕に埋めている。
とても可愛らしい。
由弦も灯りを消して、布団に潜り込む。
「由弦さん……」
すると婚約者が寄り添ってきた。
ギュッと、由弦の腕に絡みつくように、しがみついてきた。
「大丈夫?」
「……はい」
愛理沙は由弦の腕を、自分の体に押し当てるように、抱きしめた。
むにゅりと、柔らかい脂肪の塊に由弦の腕が沈み込む。
甘い香りが由弦の鼻腔を擽る。
「……愛理沙」
由弦も愛理沙の体を、自分の体へと抱き寄せる。
彼女の柔らかさと体温を全身で感じる。
「……」
「……」
匂い。
体温。
吐息。
暗闇の中、二人は互いの存在を確かめ合う。
求め合うように体を手繰り寄せる。
「……由弦さん」
「……愛理沙?」
突然、名前を呼ばれる。
聞き返すと……しばらくの静寂の後、返ってきた。
「……したい、ですか?」
甘い声が由弦の耳を擽った。
由弦の体温が上がる。
反射的に由弦は強く愛理沙の体を抱きしめた。
「その、私……大丈夫、ですよ?」
暗闇の中、愛理沙は言った。
表情は見えない。
「別に……潔癖というわけでは。ないですから。全然、大丈夫というか……」
「愛理沙」
そっと、由弦は愛理沙の額に接吻した。
そして彼女の手を強く握りしめる。
「したい」
由弦ははっきりと、愛理沙の耳元でそう囁いた。
びくり、と愛理沙の体が震える。
「じゃ、じゃあ……」
「でも、機会はこれから、いくらでもあるだろ?」
由弦はそう言って愛理沙の髪を優しく撫でた。
彼女の顔を、自分の胸板で抱きしめる。
「無理しなくていいから」
愛理沙の頭を安心させるように撫でる。
一方、愛理沙は無言で由弦の胸に顔をうずめる。
「俺は別に君のことが嫌いになったりはしない。絶対に」
「でも……」
ギュッと、愛理沙は由弦の服を強く握りしめた。
「……したいん、ですよね?」
「君に無理をさせようとは思わない」
そう言ってから、由弦は愛理沙の顔にそって手で触れた。
頬を優しく撫で、顎に手を添え、その少し上の唇を軽く指で押す。
「こっちの方が先だろう?」
「そう……ですね」
強張っていた愛理沙の体から力が抜けた。
それから安心したのか、静かな寝息を立て始めた。
(……変に気負わせちゃったかな)
女心は難しい。
由弦はそう思いながら瞼を閉じるのだった。
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愛理沙ちゃん不安度:20%→10%
すでにご存じの方もいらっしゃると思いますが、本作品の二巻発売日に関する情報と、コミカライズに関する情報が公開されました。
詳しいことは近況ノートに乗せてありますので、もし宜しければご覧いただけましたら幸いです。
なお、コミカライズに関しては絵柄というか一部カラーイラストも公開されましたが、カクヨムの方では画像が貼れなさそうなので、そっちに関しては「小説家になろう」の活動報告に乗せてあります。
カクヨム近況ノート https://kakuyomu.jp/users/sakuragisakura/news/16816452220469914607
小説家になろう 活動報告
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/430380/blogkey/2795431/
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