第28話 常夜灯
展示を三分の一ほど回った時点て、丁度お昼時となった。
そこで由弦と愛理沙は一度博物館から出て、近くの公園で食事をすることにした。
「全く、もう……」
しかし愛理沙は少し前の石棒関連のことで、由弦にご立腹だった。
これだから男は。
と言いたそうである。
別に由弦は愛理沙を揶揄う気持ちは全くなかった……というわけではないので、少し反論し辛い。
「別にいいじゃないか。……真面目な展示品だぞ?」
「中学生じゃないんだから。あんなことで揶揄わないでください。……何が面白いんだか」
しかしそんな中学生みたいなことで怒っているのは愛理沙だ。
由弦は苦笑した。
「俺が悪かった。ごめんね」
「……そうです、由弦さんが悪いんです」
由弦が謝ると愛理沙は少しバツが悪そうな表情を浮かべた。
小さなことで少し怒り過ぎたかな……と顔に書いてある。
「別に私は潔癖じゃありませんから」
どこか言い訳するように愛理沙はそんなことを言いだした。
「そういう冗談が絶対にダメというわけじゃ、ないんですよ? ……揶揄うのはダメです」
保健体育の授業で一々顔を真っ赤にしたりするほど、初心でもなければ、潔癖でもない。
純粋に学問として、知識として、教養としての話ならば動じることはない。
けれど……
「揶揄われると……恥ずかしくなっちゃうから、止めてください」
ほんのりと頬を赤く染めながら愛理沙は言った。
由弦はそんな愛理沙の顔を眺める。
「……何ですか?」
怪訝そうな表情で聞き返す愛理沙。
「いや、可愛いなと思ってね」
由弦の言葉に愛理沙はプクっと頬を膨らませた。
そしてポカリと由弦の胸を強めに叩く。
「もう、そうやって……揶揄って」
「いや、別に揶揄っているわけじゃないんだけどね……」
もちろん、揶揄いも少しはあるのだが。
「そんな愛理沙も可愛いと思うし、好きだよ」
由弦はそう言うと……
不意打ち気味に彼女の頬に接吻した。
「ふぇ?」
一瞬、愛理沙は何が起きたのか分からないという表情で、ポカンと口を開けた。
そしてすぐにその白い肌が薔薇色に染まる。
「ちょ、っも、もう……すぐそうやって、揶揄うんだから!」
「揶揄ってない。本心だ」
女の子はちょっとくらい、恥じらいがあった方が可愛らしい。
もちろん、常に恥ずかしがられると由弦も大変に感じるかもしれないが。
愛理沙は丁度良い塩梅に見える。
……好きだからそう見えるかもしれないが。
それは卵が先か、鶏が先かという話だ。
「全く、もう……由弦さんは、本当に……」
ブツブツと呟いてから、愛理沙はギュッと拳を握りしめる。
そして由弦の方へと向かって身を乗り出した。
柔らかい何かが、由弦の頬に押し当てられた。
「……お返しです」
そう言ってから愛理沙は顔を真っ赤にし、頬を背けてしまった。
それから少し早口で言った。
「さあ、早くお弁当を食べましょう。……まだ博物館を全部、回れてませんし」
「そうだね」
それから二人は愛理沙の作った手作り弁当に舌鼓を打つのだった。
さて、その日の夜のこと。
「あのさ、愛理沙」
「はい……何でしょうか?」
就寝前。
由弦は愛理沙に改まって話しかけた。
「実は頼みというか、提案があるんだが」
「……はい。何ですか?」
「……常夜灯、消しちゃダメ?」
由弦と愛理沙は同じ部屋で寝ている。
そして常夜灯がないと寝られないという愛理沙のために、由弦は常夜灯をつけっぱなしにしている。
しかし普段、由弦は常夜灯を付けない。
そのため灯りがついているのは……どうしても気になる。
端的に言えば常夜灯があると寝つきが悪いのだ。
「えっ……」
由弦の提案に愛理沙は表情を引き攣らせた。
想定外だったようだ。
「う、うん……」
「いや。無理にとは言わないけどね」
別に常夜灯がついていると寝られないわけではない。
愛理沙がどうしても、灯りがないと怖いというのであれば合わせるつもりでいる。
「いえ、灯りが由弦さんのご負担になるなら。そうですね。元々、別々で寝る予定だったのを、私の我儘で一緒の部屋で寝ているわけですし……」
しかしあまり気乗りしない様子だ。
「ごめん。さっきの提案は無しだ。……多少、明るくても大丈夫だ」
「……でも、これからずっと由弦さんにばかり我慢を強いるわけにはいきませんし」
「連休中くらい、別にどうということは……」
「私たち、夫婦になるんですよ?」
愛理沙の言葉に由弦はハッとする。
そう、二人は婚約者同士なのだ。
このままでは、結婚後はずっと常夜灯をつけて寝ることになる。
「……私が克服するべきかなと思います」
「そう……だね。そうしてくれると嬉しい。いや、でも今すぐにしなければいけないというわけでもないけどね」
今はお泊り中だが。
二人が同居を本格的に始めるのは、最短でも高校卒業後の話だろう。
進学先次第では、大学卒業後になる。
まだまだ先は長い。
「いえ、善は急げと言いますから。……それに名案を思い付きました」
そう言う愛理沙の顔は少し紅潮していた。
その表情には緊張の色はあるが、恐怖の色はない。
「名案?」
「……由弦さんが良ければ、ですけれど」
そう前置きしてから愛理沙は言った。
「添い寝してください」
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由弦「明るい……あまりにも……」
書き溜めのストック量が深刻になってきましたので、次回から投稿ペースが落ちるかもしれません
と予告しておきます
一応、最低限、七日に一度は維持します。
がんばぇー
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