第20話 水着と入浴
泳ぎの練習を教えているうちに、時間は過ぎ……昼時になった。
由弦と愛理沙は一度プールから上がり、食事をすることにした。
向かう先は施設内にあるレストランだ。
由弦はカツカレーを、愛理沙はハンバーグプレートをそれぞれ注文した。
「思っていたよりも美味しかったですね」
「そうだね」
決して高級なレストランというわけではなかったが、体を動かした後ということもあり、とても美味しく感じられた。
さて、問題はお腹が膨らんだ後だが……
「この後だけど、お風呂にでも行ってみようか」
あまり胃に物が入っている状態で運動するのは良くないだろうという判断だった。
午前中は体を動かしたので、きっと疲れているだろうという愛理沙への気遣いもある。
「そうですね。せっかく、あるんですし。入ってみないと、勿体ないですよね」
そういうわけで二人はレストランを後にすると、再び水着に着替えてプールへと向かった。
そしてまず向かったのは、ジャグジーのある温水プールだ。
水温は四十度に行かない程度。
お風呂としては温いが、プールとしては暖かい。
そんな温度だ。
プールには寝そべることができるような場所があり、下から泡が溢れている。
ちょっとしたマッサージができる、という仕組みなのだろう。
由弦と愛理沙は並んで、そこに寝そべってみた。
「悪くないな、これ」
泡と水流が肩や背中に当たる。
それがなかなか、心地よい。
「私はもう少し、強い方がいいですね」
一方、肩凝りが酷い愛理沙には少し刺激が足りない様子だ。
中途半端に刺激され、余計に肩が気になってしまうのか、手で自分の首元を揉んでいる。
「じゃあ、お風呂にでも行こうか」
「そうですね」
ジャグジーに飽きたタイミングで由弦と愛理沙は立ち上がり、風呂へと向かった。
風呂があるエリアに通じる扉を開けると、ムッとした熱気と蒸気が二人を迎えた。
お風呂は薬湯なども含め、数種類あった。
まず二人はもっともオーソドックスな、普通のお湯が張られている風呂に入った。
水温は四十度を少し超える程度。
熱くもなく、温くもない、そんな温度だ。
「あぁ……やっぱり、お風呂はいいですね」
風呂に入るなり、愛理沙は大きく体を伸ばした。
由弦も同様に手足を伸ばし、体の力を抜く。
風呂を眺めると、やはり老人の姿が目立つ。
次に多いのは家族連れだ。
カップルは由弦と愛理沙しかいなかった。
「しかし水着で風呂に入るというのは、少し落ち着かないな」
ポツリと由弦は呟いた。
風呂は裸で入るものだ。
日本人の由弦はそう感じてしまうので、水着着用での入浴には少し違和感を覚える。
「そうですねぇ……少し変な感じがしますよね。……私の顔に何か、ついていますか?」
「いや……考えてみれば、混浴だなと」
由弦の言葉に愛理沙は僅かに顔を赤らめた。
「きゅ、急に何を言い出すんですか」
「いや……別に間違ってはいないだろう?」
「それは、まあ、そうですが」
水着を着ているのだ。
別に恥ずかしい場所が見えているということはない。プールと同じだ。
実際、爺さん婆さんに水着姿を見られたところで……勿論何も感じないわけではないが、しかしガン見されない限りはどうということはない。
しかし……
「意識しちゃうじゃ、ないですか」
そう言って愛理沙はお湯の中に顔を僅かに沈めた。
由弦と一緒に風呂に入っている、というシチュエーションが少し恥ずかしい様子だ。
「俺と入るのは嫌?」
「……そんなことはないですよ」
しかし満更でもないらしい。
そんな愛理沙の様子を見て、由弦はふと思いついたことを口にした。
「じゃあ……今日の夜、一緒に入らないか?」
「……」
愛理沙はしばらく、沈黙した。
そして由弦を上目遣いで見ながら答えた。
「……水着を着てなら、いいですよ」
婚約者様からお許しが出た。
思わず由弦の頬が緩む。
「一緒に入るだけですからね」
釘を刺すように愛理沙は言った。
そんな愛理沙に由弦は大真面目な顔で頷いた。
「もちろん。……俺を信じてくれ」
「どうですかねぇ……」
一方で愛理沙は少し信じられないのか、ジト目で由弦を見つめる。
「練習中も、変な目で見てきましたし」
「……別に見てないよ」
「たまに触られましたし」
「それは……不可抗力だ」
教えている最中に愛理沙の胸や足に偶然、手が触れてしまうことは仕方がないことだ。
別に意図したわけではなかった。
……役得ではあると、感じたが。
「信じられないのに、一緒に入ってくれるのか?」
「それは……」
由弦の問いに愛理沙は言葉を詰まらせた。
そして立ち上がり、誤魔化すように言った。
「そろそろ、次のお風呂に行きませんか?」
「……分かったよ」
由弦は苦笑してから応えるのだった。
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というわけで一緒にお風呂です。
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