第18話 婚約者は浮かばない

3月29日 12時41分

ミスを修正しました 



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「へぇ……意外と広いな」


 一足早く水着に着替えを終えた由弦は、屋内プールを見渡しながら呟いた。


 プールの種類は四つ。


 子供向けのキッズプール。

 エクササイズ用のウォーキングプール。

 泡が噴き出るジャグジープール。

 そして水泳用の二十五メートルプール。


 浴室やサウナは屋内プールがあるエリアの隣にあり、直結している。

 

「お待たせしました、由弦さん」


 背後から声を掛けられる。

 振り向くと着替えを終えた愛理沙が立っていた。


「……いや、俺も入ったばかりだから」


 そんな言葉を返しながら、由弦はまじまじと愛理沙の水着姿を観察する。


 今回は泳ぎを教えて貰う、そして場所が健康ランドということもあり……

 ビキニではなく、競泳水着に身を包んでいた。


 黒い生地に赤いラインが入った、非常にシンプルな、よくある競泳水着だ。

 学校の授業で使っても何の違和感もない、いや、もしかしたら学校で使用する予定の水着なのかもしれない。


(美人は何を着ても似合うというけれど……)


 競泳水着はピッタリと愛理沙の肌に張り付き、彼女の素晴らしいプロポーションを浮かび上がらせていた。


 胸部は丸く膨らみ、一方でお腹はキュっと引き締まっている。

 下腹部はやや大胆に露出していて、少し際どいが、しかしスラっと伸びた長い脚はとても美しい。

 

 健康的な色気というものを由弦は感じた。


「……由弦さん。何を、ジロジロ見ているんですか?」


 一方、由弦の視線に気が付いたのか……

 愛理沙はじっと、由弦をジト目で睨みつけた。


「い、いや、悪い」


 由弦は謝って、少し考えてから付け加えた。


「見惚れてた」

「……そうですか」


 愛理沙は目を逸らし、何でもないという調子で言葉を返した。

 しかしその顔は少し赤らんでいるように見える。


「早く行きましょう」


 少し弾んだ声で愛理沙はスタスタと歩き始める。

 由弦はそんな愛理沙の後を追う。


(……背中も綺麗だな)


 水の抵抗を減らすためか、大胆に開いたバックから見える背中は、とても綺麗だった。

 少し視線を下に向けると、臀部の形がくっきりと浮き出ている。


 さて、さすがの愛理沙も背中に目がついているわけではないようで、由弦の視線に気付くことはなかった。

 ぽちゃん、と水の中に入る。

 由弦もその後に続く。


「……それで、どうしましょうか」

「うーん」


 由弦は少し考えてから答える。


「とりあえず、どのレベルか見てみたいから泳いでみて」

「……え」


 由弦の言葉に、愛理沙は困り顔を浮かべた。


「溺れちゃいます」

「……足、つくよ?」

「人は三十センチでも溺れるんです」


 確かに危険がないわけではない。

 が、実際に見てみないことには判断できない。


「絶対、助けるから」

「……じゃあ、十秒経っても立ち上がれなかったら助けてください」


 愛理沙はそう言うと、大きく息を吸って水に沈んだ。

 それからバシャバシャと手足を動かし始める。


「……」


 その姿は湖に落ちた虫のようだった。


 幸いにも、溺れてはいなかったらしい。

 十秒経って、愛理沙は立ち上がった。


 そしてじっと、由弦に訴えるように言った。


「浮きません」


 どうやら、ちゃんと水に浮くところから始めなければいけないようだった。

 これはかなり重症だ。


「手足を動かさず、浮くだけに徹する……ってできる?」

「……浮かないですよ」

「溺れてたら助けるよ」

「……絶対ですからね」


 愛理沙はそう言うと、ぴょんとプールの床を蹴った。

 そして手足と背筋をピン! と伸ばし……


 音もなく水に沈んでいった。


 しばらくして愛理沙は立ち上がった。

 どういうわけか、ムスっとした表情をしている。


 由弦は思わず苦笑した。


「まあ、理由は分かったよ」

「……本当ですか?」


 怪訝そうな表情をする愛理沙。

 どうやら信じられない様子だ。


「もしかして、力が入ってるからとか言うつもりですか? ……別に力を入れたからといって、私の体の質量や体積は変化しないと思うんですけれど」 


 どうやら過去にそういう指導を受けたようだ。

 もっとも、結果は見ての通り、役に立たなかったようだが。


「感覚的にじゃなくて、できるだけ理論的に、実践的に教えるように努めるよ」

 

 由弦の言葉に愛理沙は疑いの表情を浮かべながら、小さく頷くのだった。



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愛理沙ちゃんは

水と友達になろう

と言われたら、はい!と頷きながら内心で「水に意志があるわけねぇだろ」と毒づくタイプです



ちなみに水着はスパッツにするか、ハイカットにするか悩んで悩んで

最終的に葛藤の末にハイカットを選んだらしいです。



ゆづるんに見られて喜ぶ愛理沙ちゃん可愛いという方はフォロー、レビュー(目次下の☆☆☆を★★★に)をしてついでに一巻を買い、宣伝していただけると励みになります

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