第14話 マラソン大会後のご褒美

「明日はマラソン大会ですね」


 帰り道。

 愛理沙と共に帰る途中、由弦に対して彼女はそう言った。


 そう、明日は男子は十キロ、女子は七キロという長距離を走らされる日だ。

 そして由弦にとっては……宗一郎や聖との“勝負”の日でもある。


「愛理沙は……あまり好きではない感じか?」

「そうですね……いえ、嫌いではないんですけどね」


 由弦が尋ねると愛理沙は苦笑した。


 長距離走が得意な人はいるが、長距離走は好きな人というのはあまり聞かない。

 由弦も走らなくて良いなら、走りたくない。


 愛理沙も思いは同じようだった。


「自発的な運動で走るのと、学校の行事で走らされるのは……やっぱり違いますから」

「そうだね。……せめて、頑張ったご褒美が欲しいよな」


 なお、マラソン大会の日は学校が半日で終わる。

 なのでご褒美と言えばご褒美だ。

 もっとも……十キロ走り切った後に遊びに出かけたいかと言われると、微妙なところだ。

 家でゆっくりと、疲れを癒したい。


「……ご褒美、ですか」

「どうした?」


 愛理沙は何か、考えている様子だった。

 その頬は……僅かに赤らんでいるように見える。


「その……明日、マラソン大会が終わったらですけれど」

「うん」

「由弦さんのお家に寄っても……良いでしょうか?」

「全然、構わないよ。その日はバイトもないしね」


 由弦としては大歓迎だ。

 もっとも……さすがに体が疲弊していることは想定できるので、激しいことはできない。


「ゲームでもするって感じ?」

「それじゃあ、ご褒美にならないじゃないですか」

「まあ、それもそうだな」


 いつも休日に愛理沙としていることだ。

 別に嫌ではないし、むしろ楽しいが……それが十キロ(もしくは七キロ)の長距離走のモチベーションになるかと言えば微妙なところだ。


「じゃあ、何をするの?」

「それは、まあ……その……」


 愛理沙は少しの沈黙の後、小さな声で言った。


「マッサージ、とか?」

「……マッサージ?」


 由弦が思わず聞き返すと……愛理沙は顔を真っ赤にして、必死に弁明をし始めた。


「あ、いえ……べ、別に変な意味じゃなくて。ほら、前に……体育祭の時に、したじゃないですか。その、気持ち良かったので……」

「あぁ……そう言えば、したね」


 少し前のことを由弦も思い出した。

 あの時の愛理沙は……とても艶っぽかった。


 と、いろいろと危険なことを思い出した由弦は、強引にその記憶を脳裏から消し去った。


「も、勿論ですけど、由弦さんだけに揉ませたりとかはしないです。私も……まあ、上手かどうかは分からないですけど、肩を叩くくらいはできますし。……どうですか?」

「……そうだね」


 外でマッサージを受けると、一時間で数千円を取られたりする。

 これはつまり、それくらいの金額をとってもまだ需要があるということで……要するにそれだけ気持ちが良いのだ。


 自分で揉むのと他人に揉んでもらうのは、気持ち良さが違う。 

 それに…… 


「うん、良いよ。マッサージ、楽しそうだし」


 合法的に愛理沙に触れ合える。

 と、そう考えると由弦はそう答えていた。


 由弦も健全な男子高校生なので好きな女の子の体にはいろいろと触りたいのだ。

 ……もちろん、胸を揉んだりは不味いので自制は必須だが。


「そうですか……良かったです」


 一方の愛理沙はどこか安心した様子でいる。

 由弦は読心能力者ではないので愛理沙の気持ちは分からないが……


(もしかして、愛理沙も……)


 由弦に触れたり、触れられたりしたいという下心があったりするのだろうか?

 と、由弦はふと思った。

 

 愛理沙に限ってそんなことは。

 と思うが、しかし由弦と愛理沙は……思いこそ伝え合ってはいないが、両想いだろう。


 由弦が愛理沙に対して抱いている欲情に似たモノを、愛理沙も抱いていてもおかしくはない。


(いろいろ、気を付けないとな)


 間違いはあってはいけない。

 少なくとも由弦は、しっかりとしなければ。


 由弦は拳をギュッと握りしめて、覚悟を決める。


「あ、そうだ……お風呂、借りても良いですか? 着替えとタオルは持ってくるので」


 由弦が妙な覚悟を決めていると、愛理沙が由弦にそう尋ねた。

 考えてみると走った後は汗で体は汚れている。

 そのあとにお互いの体をマッサージし合うのは……


(……望むところだな)


 愛理沙の体臭と汗は全然オッケーだな。

 と、由弦は愛理沙が聞いたら拳でポカポカと殴られそうなことを内心で思った。

 

 とはいえ、愛理沙の方は嫌だろう。

 

「ああ、良いよ。……マッサージの前は、お風呂に入って血行を良くした方が良いだろうしね」


 由弦は何食わぬ顔でもっともらしいことを言った。

 すると愛理沙も……もっともらしく頷く。


「そうですね。……そうだ、温泉の素とかってどうですか? お家にあるので、良かったら持ってきますよ」

「入浴剤は持ってないな。うん、是非ともお願いしたい」


 効果のほどは不明だが。

 別に嫌いではないので、持ってきてもらえるならばその方が良い。


「そ、それと、こ、これはご提案なのですが……」

「どうした?」

 上擦った声の愛理沙に尋ねると……彼女は首を左右に振った。


「……い、いえ、何でも、ないです」


 そう言って黙ってしまった。

 何の提案をしたかったのだろうか?


 と由弦は内心で首を傾げながらも……マラソン大会当日を楽しみに思うのだった。












「さすがに水着を着て一緒に入ろうは……攻め過ぎですよね……」

「ん? ……愛理沙、何か言ったか?」

「いえ、何も」




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カバーイラストを活動報告の方で公開しましたので

良かったら是非、どうぞ見てください。とても素晴らしいイラストです。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/430380/blogkey/2680160/(小説家になろうの活動報告に跳びます。本当はカクヨムの近況ノートに乗せたいところですが、イラストを挿れる機能が無さそうなのでこちらを利用しています)






イラストを見て

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