5分後に立場逆転の恋/恋する実行委員会

PrincessKnight 来海未来

 高校生。それはまだまだ青春が続く、楽しくて仕方ない時代。

 勉強はいやでも、学校に来るのは楽しい。だって友達みんながいるから。

 それだけじゃない。たったひとりの、大切な彼氏ひと

 あの子がいるから、私は笑える。幸せに感じる。なんだってできる。

 ……だけど、ひとつだけなやみがある。というか、ただ私が落ち込んでしまうのだ。だって、私がこいするこの子は──。


「あ、ヒメちゃん! 待ってたよー」

「ごめんねゆーくん。部活が長引いちゃって」

だいじよう! ヒメちゃんのきゆうどう姿も見れてよかったしね。えへへ、かっこよかったなぁヒメちゃん……」

「…………」

 ああ、神様。

 どうして、私より彼氏のほうが可愛かわいいのでしょうか。

 私だって『可愛い』には興味がある。可愛くなりたい。可愛いものがほしい。そうやって思うのに、いまとなりに、可愛いのしんがいる。

 私の恋人、ゆーくんこととうじゆ。最近流行はやりの、可愛い系男子だ。男子にも女子にも人気がある。可愛いは最強ということだろうか。

 で、それに対して私はというと、とりあえずつうにモテません。はい。

 なぜなのか。正直それは自分でもわかっている。わかりすぎているから困っているのだ。ほら、そんなこと考えている間にもまた……。

あやせんぱい! これ、差し入れです!」

「ああ、ありがとう……いただくよ」

 よく私の練習姿を見にくる後輩の女の子だ。私がお礼を言って差しだされたクッキーをもらうと、彼女は顔を赤くしながらほかの後輩とキャーキャー言っている。

 つまり、そういうことだ。普通にはモテない。『普通』って言い方はへいがあるのかもしれないけど、とにかく男子にはモテない。

 ……けど! 私はついにそれをだつしゆつしたのだ!

 せき的にも、私に彼氏ができたのだ。可愛くても、実はゆーくんだって男の子っぽいところは結構ある。

 帰り道の今だって車道側を歩いてくれているし、前にショッピングデートをしたときは荷物も持ってくれようとした。ただ、それは私が嫌だったから断ったけど。

 でも、一番うれしかったのは、不器用ながらせいいつぱいにがんばった三つ編みをめてくれたこと。そもそもかみは短いからそんなにさわることはできなかったけど、それでもおしゃれをしようとちっちゃい三つ編みを作ってみた……のだが、そんなのにまったくえんのなかった私は全然うまくできなかった。

 なのに、ゆーくんはそれでもその小さいおしゃれもどきに気づいてくれて、しかも「可愛い」って、「がんばったね」って、そうやって言ってくれた。すべてをわかってくれたような気がした。


 私は、ゆーくんが大好きだ。ゆーくんといつしよにいるときも、一人でゆーくんのことを考えてるときも、大好きだ。

 もっと一緒にいたい。そうやって思っても、一緒の帰り道はすぐに終わってしまう。あともう少しでお別れ。そんなときにゆーくんは悩ましげな顔をしながら口を開く。

「んー……僕もがんばって自転車で来ようかなぁ。そしたらもっとヒメちゃんと一緒に帰れるし」

 ゆーくんは結構遠いところから通ってるから電車で通学しており、私はそこまで遠くはないため、自転車で通っている。下校デートは、学校から徒歩十分弱の駅まで一緒に歩いて終わりになってしまう。

 たぶん、ゆーくんは私の家の前まで一緒に帰って、そこから一人で帰ろうというプランを立てているんだろうけど……。

「さすがにやめなよ。ゆーくん、自転車だと相当時間かかるでしょ?」

「それでも、ヒメちゃんとはもっと一緒にいたいし……」

 なんだこの可愛い生物は。私だってもっと一緒にいたいよ! とは思うが、ゆーくんは本当はもっと早く帰れるにもかかわらず、わざわざ部活でいつもおそくなる私を待ってくれているのだ。さらに遅く帰らせるのはさすがにいろいろと申しわけない。

「帰りが遅いのはおやさんにもめいわくかけるし、そもそも危ないから。ね?」

「大丈夫だよ! 僕は男の子だもん!」

「うんうん、それでも早く帰ろうね?」

「ヒメちゃんのいじわる……」

 わかりやすくしょぼんとしているが、こればかりは仕方がない。学校だって同じクラスだし、一緒にいられる時間は長めだ。帰りはきようしてもいいだろう。

 そんな雑談で下校デートも終わり。駅前に着いてしまう。

 ゆーくんは少し名残なごりしそうにしながらも、つないでいた手を放して駅の改札に向かう。

 そして大きく手をるその姿に、また私の心は幸せに包まれるのであった。



 ────翌日。部活中のことだ。ゆーくんから今日も待っているというれんらくをもらったので、きゆうけい時間にこそっとけて少しだけ会いに行こうとしていたとき、ふと部室の近くで言い争っている声が聞こえた。

「ちょっと! それヒメちゃんのでしょ!」

「うるさいな。あいつのせいで俺はてらに振られたんだ。女のせいで女に振られるとか、少しは仕返しもしたくなるだろ」

「……っ! この……!」

 ……この声はゆーくん? それに、矢寺ってたしか、昨日クッキーをくれたあの後輩だ。

「それでえまでぬすむなんて、やっていいことと悪いことがあるだろ! 女の子にそんな嫌がらせするなんて最低だ!」

「あいつが女の子だぁ? ははっ、あんなやつ、俺らと一緒に水泳の授業やってても気づかれねーよ。どこに女の子らしさがあるっていうんだよ」

「ヒメちゃんをバカにしやがって……!」

 ……わかってる。私が女の子らしくないって。そんなの、私が一番わかってる。でも……ああ、そうか。

 実際にそうやって言われると、こんなにも悲しくなるんだ。

「とにかく、それを返せ!」

「お? 来るなら来いよ。まあ、お前が勝てるわけねーけどな」

「勝てる勝てないなんて関係ない……それよりも僕はあの子の彼氏なんだ。ヒメちゃんは僕が守るんだ!」

 それが聞こえたしゆんかん、私の中で何かがプツリと切れた。気づいたときには、ゆーくんになぐりかかろうとしていたそのみぎうでを、思いきりつかんでいた。

「え……ヒメちゃん……?」

 ゆーくんはどうしてここにと言わんばかりの表情をかべる。殴りかかろうとしていた男子は、ただおどろいていた。

 そして、私は口を開く。

「私の恋人に手を出すな」

 それは、頭で考えた言葉ではなかった。心の底から、ただただ本心を無意識に述べていた。

 そのときに私の顔がどんな表情だったのかはわからない。ただ、男子生徒は相当おびえた顔をしていたから、そういうことなのだろう。

 手を放すと、男子生徒は着替えを置いて謝りながらそそくさとげていった。どうやら、私の制服とまさかの下着まで盗もうとしていたようだ。そもそも、女子のこう室である部室に入った時点でアウトなのだが。

 って、それよりもだ!

「ゆーくん! だいじよう!?」

「うん、僕は平気。でも……ごめんね」

「なんでゆーくんが謝るの。謝るのは私のほう! こんな危ない目にわせちゃって……」

 すると、ゆーくんは急に暗い顔をする。

「……やっぱり、僕は彼氏失格だね」

「ゆーくん……?」

 意味がわからない。彼氏失格? こんなに私のために立ち向かってくれたのに?

「僕さ、ヒメちゃんとつきあう前に、一人だけつきあってた子がいてさ」

 そして、ゆーくんは悲しそうに目を閉じる。

 なんとなく、いやな感じがした。

「前に彼女がいたこと、ヒメちゃんはおこる?」

「そんなことで怒るわけない。別に今私とつきあってるんだから、昔のことはどうでもいいよ」

 だから急にそんな話をしないで。そういう意味もふくめたつもりだったけど、ゆーくんは話を続けた。

「でも、振られちゃったんだ。その理由が、こいとしての『好き』がなくなったって。彼氏らしさが僕にはなかったんだろうね。だから思ったんだ。次に好きになった子は、絶対に僕が彼氏として守ってあげなきゃって。なのに、結局僕はヒメちゃんに守られちゃったね……」

 ……そうか、ゆーくんは彼氏らしさを意識してたんだ。車道側を歩くことも、荷物を持ってあげることも、さいな変化に気づいてあげることも。

 全部、私のために。私の、彼氏であるために。

「でも、ちがうよ」

「……ヒメちゃん?」

 全部を聞いて、理解したうえで私は批判する。だって、彼氏らしさとか、おかしいじゃないか。

「彼氏らしさとかどうでもいいよ。男らしさとか、女らしさとか、そういうの関係ないんだよ。私はどんなゆーくんでも好き。強がりなんていらないよ。どんな姿でも大好き。ゆーくんは私を幸せにしてくれてるけど、私だってゆーくんを幸せにしたい!」

 もう、言葉があふれて自分でも何を言っているのかわからなかった。でも、彼氏だからとか、そういう立場で区別するのはおかしい。

「立場が逆転したっていいんだよ。彼女わたしが、彼氏キミを守ってもいいじゃんか。私はキミのおひめさま。でも、私はゆーくんという王子様を守るでもあるんだよ。お姫様だし、騎士なんだよ。私だって、絶対にゆーくんを守ってみせたいもん。守られるだけの立場じゃないんだよ。だって、好きだから……」

 彼氏彼女という言葉になった瞬間、彼氏は彼女を守るという立場に置かれてしまう。

 だけど、それは違う。恋人同士なら、おたがいを守るのなんて当たり前なんだ。お互いを認めあって、できないことを助けあって、お互いを幸せにする。それだけだ。彼氏も彼女も、相手に対してやらなければいけないことは同じのはずだ。

「あはは……ほんとに立場逆転しちゃってるね……こういうかっこいいことは、彼氏ぼくから言うべきなのに……」

「だから、そういうのはいいんだって。そりゃあ、ゆーくんに守ってもらいたいって気持ちはあるよ? だけど、それに負けないくらい、私も守ってあげようって、そうやって思ってるんだから」

「うん……うん。ありがとね、ヒメちゃん……」

 少しなみだになりながら、ゆーくんはうつむく。

 私は、そんなゆーくんの頭をでる。私を守ってくれる騎士様で、私が守らなきゃいけない王子様の頭を。

「ゆーくん」

 私は、この言葉をずっと言われたかった。そして、この言葉で告白された。

 だけど、だからこそ、私もゆーくんに、この言葉を、このちかいをしなければならない。

 彼女だから言わなくていいとか、そんな必要はない。


 大切なキミに。この誓いをささぐ。

「あなたを幸せにしてみせます。あなたを守ってみせます……大好きです」

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