第66話 魂の力と想いの力 4


 いったいどうすれば二人を助けられる?

短い時間の中、脳内が加速する。多くの事を考えろ、可能性を考えるんだ!


 もし、人の形ではなく、元のナイフやリングの姿に戻れるのだったら……。

アクトは二人に向かってとっさに叫ぶ。


「戻るんだ! ナイフとリングに! 願え! リリアもエレインも、魂の姿に!」


 エレインとリリアは俺の方を見ながら真剣な眼差しを向ける。


「「私の魂はあなたと共に!」」


 黒い炎が二人に触れる直前、まばゆい光に包まれる。

そして、黒い炎はあたりを燃やし始めた。


「はは、やった! 私を追い出した一匹を始末しぞ!」


 高笑いしながらバイスはリリアたちの方に視線を向ける。

アクトは黒い炎が燃え盛る中、二人のいたところまで歩み寄り、地面に手をついた。


「残念だったな! 次はお前の番だ!」


 黒剣を振りかざし、再びアクトに襲い掛かってくる。


 バイスは黒剣をアクトに向けて突き刺してきた。

その切っ先は胸、アクトの心臓を狙っている


――キィィン


「なにぃ!」


 アクトの手に握られているのは漆黒のナイフ。

さっきまで持っていたナイフではなく、リリアが握っていたナイフだ。


 そして、指には銀色のリングが輝いている。

さっきまでつけていなかったリングが、アクトの指にはめられていた。


「おまえ、それをどこから……」

「二人とも大丈夫か?」


 アクトは両手を見ながら話しかける。


「危機一髪ですね」

「何とか私たちは……」


 立ち上がったアクトは自分のナイフを左手、右手には漆黒のナイフを握っている。

そして左手には輝く銀色のリングを身に着けている。


「二人の力を、俺に貸してくれ!」


 アクトの体が淡い光に包み込まれ、その光はナイフとリングに吸収されていく。


「もちろんです! 今度は負けませんよ! 漆黒の名に懸けて、全てを躱してみせます! 『回避』発動!」

「アクトさんを守るのが私にできること! 聖光の名に懸けて、全てを癒します! 『ハイヒール』!」


 リリアから黒い光が。

そして、エレインから白い光があふれだす。


「お、おまえ、その力は一体……」

「バイスにだってあるだろ! 家族を守りたいっていう心が! ないとは言わせない!」


 アクトは両手に握ったナイフを振りかざし、バイスに向かって走り出す。

バイスも迫るアクトに対して剣をふるうが、その全てがきれいに躱されてしまう。


「なぜだ、なぜ当たらない!」

「当たるか! 俺にはリリアの、漆黒の力を借りているんだ!」


 すべての刃を躱し、アクトのナイフが黒剣に向けられる。


――キィィン


 しかし、黒剣を破壊するところまではいかない。

せいぜい小さな傷がつくだけだ。


 黒剣は剣を左右に振りかざしながら、アクトに迫る。

次第にその距離が縮まり、二人はにらみ合う。


「この距離なら、避けられまい! 『ダークネスファイア』!」


 バイスの手から黒い炎が放たれ、アクトに直撃する。


「――その全てを癒したまえ!『ハイヒール』!」


 黒い炎が直撃した瞬間、リングがひかりアクトの体を癒す。


「ありがと、助かったよ」

「アクト様! 斬撃にだけ集中しないで下さい! しっかりと魔法も避けてくださいよ! せっかく回避能力を付与しているのですから! もっと動いてください!」

「すまん。本体がこれじゃ、だめだな。もっと、訓練しないとな!」


 バイスはアクトから距離を取り、肩で息をし始めた。

バイスの体力が尽きそうのか?


 アクトのナイフが黒剣に襲い掛かる。

攻守交代だ!


 アクトとバイス以外誰もいなくなった庭。

暗闇に包まれ、月明りと燃える黒い炎が二人を照らしている。 

響き渡る剣の交差する音が響く中、次第に燃え盛る黒い炎が二人を囲い始めた。


 アクトは黒剣を、バイスはアクトを。

それぞれの思いが重なる中、二人はまだ向き合い、刃を構えている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る