第59話 紅の剣と呪いの魔剣 12


「アクト様! 起きてください! 朝です、朝ですよ!」


 リリアの大声でたたき起こされる。

まだ眠い、昼まで寝かせてくれ。

せめて、エレインさんが来るまでは布団の中に……。


 気が付くと布団が宙に舞っており、おまけにリリアも宙に舞っている。

そして、リリアは俺に向かってジャンピングダイブ。


「ぐほぉぉ」

「いい天気です! さぁ、朝ごはんをしっかりと食べて、荷物をまとめましょう!」


 デジャブ。

全く同じような事を体験した気がした。


「リリア?」


 リリアはすでに自分の荷物をまとめ終わっている。

バッグに二つ。大した量じゃない。


「私はもう終わっています。でも、鍵をかけないで寝るのは不用心です。そんなに遊んでいたんですか?」


 えっと、昨日は確か……。

あ、ニコアとエレインさん。どうやら俺はすっかりと寝入ってしまった。


 今日、荷物をまとめて引っ越す予定だった。

それが今起きた、いや起こされた。

完全に出遅れてしまっている。


 朝ごはんを食べ、荷物をまとめる。

シャーリも手伝ってくれて、荷物は早々にまとまった。


「さみしくなりますね」

「そんなことないよ。同じ町にいるし、家もすぐそこだろ?」

「ですが……」


 シャーリは少し悲しそうな表情をしている。

ま、客が一人減るから、商売あがったりだろうな。


「ちょくちょく来るからさ。シャーリのお弁当おいしいし」

「できるだけ毎日来なさいよ、お弁当を作る練習もしたいんだから」

「おう、休みが終わったらすぐに来るさ」


 下の方からリリアの声が聞こえてきた。


「アクト様ー! エレインさんとニコアさんが来ましたよー」


 どうやら間に合ったようだ。


「じゃ、長い間お世話になりました。元気でな」

「そんなこと言わないでよ、さみしくなるじゃない」


 俺はバッグから小さな紙袋を取り出す。


「これ、似合うかわからないけど、お礼。受け取ってもらえるか?」


 シャーリの手に紙袋を乗せる。


「開けても?」

「もちろん」


 目の前でシャーリは紙袋を開け、中身を取り出した。

そんなに高くない花のモチーフが付いたの髪留め。

先日市場で見かけて、買っておいたものだ。


「可愛い……。いいの、もらっても?」

「いいよ、つけてあげようか?」


 シャーリは目を閉じた。

俺はシャーリの手から髪留めを取り、シャーリの髪をかき上げる。


「どう、かな?」

「うん、似合うね」


 微笑む彼女は少しだけ大人っぽくなった気がする。


「……その、ありがとう」

「いえいえ。安物だし、大切にしなくてもいいぞ」

「大切にする、絶対に大切に……」

「ま、無くしたり壊したらなくしたら言ってくれ、また買ってあげるからさ」

「無くさないし、壊さないわよ!」


 いつも通り元気なシャーリ。

宿を出たらこの声も聞けなくなるかと思うと、少しだけさみしさを感じる。


 一階に行き、みんなが待つ食堂に移動する。


「おはようございます」


 ニコアも元気そうだ。


「バイスの様子は?」

「一晩様子を見てみましたが、今朝はみんなと一緒に食事をしました。もう大丈夫ですね」


 よかった。

バイスもこれでみんなと一緒に遊んだりできるな。


「そっか。それは良かった、安心したよ」


 荷物をみんなで分けて持ち、宿を後にする。

長い間お世話になりました。ありがとうございました。


「絶対に遊びに行くからね!」

「おう、いつでも来ていいぞ」


 シャーリに見送られ、家に向かって歩き出す。


「アクト様、今日はごちそうですよ! セーラさんが張り切っていました!」

「そっか、それは楽しみだな! 二人とも、夕飯食べていくんだろ?」

「はい、ご一緒させていただきます」


 エレインは笑顔で答える。

が、ニコアは少しだけ表情が曇っている。


「ニコア?」

「え? う、うん。私も一緒に食べるよ」


 弟の事が心配なのかな?

でも、すぐに帰るし、大丈夫だろ。


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