第50話 紅の剣と呪いの魔剣 3


 ギルドの一室から出て、フィーネさんに話をする。

数日はダンジョンへ行くことを禁止され、クエストの受注も不可。

強制的に俺たちは数日間の休みを取ることになった。


「では、一度アクト様の家に行きましょう! セーラさんも心配していますよきっと」


 先を歩くリリア。

街に戻ってからリリアはいつもより元気そうに見える。

ダンジョンで、ついさっきあんなことが起きたのに。


 後ろの方にはニコアとエレインさん。

二人とも無言で俺達に着いてきて来ている。

なんだか、少し気まずそうな雰囲気だ。


 帰る途中、少しだけど食材とおやつを買っていく。

きっと話が長くなると思うし、何より腹が減っているのだ。


「着きました! ただいまー! セーラさん、帰りましたよー!」


 扉を開け、中に入る。

前に来た時よりもきれいになっており、どこから見ても普通の家だ。

あの廃屋ぽかった家の面影はない。


「お帰りなさいませ」


 メイド服のセーラは俺達を向かい入れてくれる。

荷物を持ってもらい、俺たちはそのまま部屋に入っていく。


「ここが皆さんのお家なんですね。いいところですね」


 椅子に腰かけたエレインさん。

その隣にニコアが座っている。


「セーラ、少し話がしたいんだけどいいかな?」

「かしこまりました。お茶でも出しますね」


 ダンジョンと違って、家ではゆっくりと時間が流れている。

あー、落ち着く!


 みんなが椅子に座り、用意されたお茶を飲み始めた。

おやつも少し出ており、さっそくリリアは食べ始めている。


「アクト様、どこまで話すんですか?」


 リリアに尋ねられる。

どこまで話すのか。


「んー。エレインさんの事もあるし、ほとんど話そうかと思っている。二人はどう思う?」

「私はアクト様の思った通りでいいですよ」

「私もですね」


 二人とも、俺に任せてくれる。

きっとニコアは信じてもいい。そんな気がした。


「ニコア、さっき話をしようとしていた事を話す。聞いてくれるか?」

「はい……」


 真剣な眼差しで俺を見てくるニコア。

俺も、話をする決意ができた。


「ニコア、お母さんの形見のリング、今はどこにある?」

「え? リングですか? リングであれば、ここに……」


 ニコアは自分の手のひらを見つめる。

そして、目を開き両手を眺め始めた。


「な、ない……。そんな、だって、なんで? どうして……。ダ、ダンジョンだ。ダンジョンに落としてきたんだ……」


 椅子から立ち上がり、入り口に向かって走り出そうとしている。

俺はニコアの腕をつかみ、その動きを止める。


「探さないと。あのリングは、絶対に探さないと!」

「待ってくれ、まだ話は終わっていない」

「でも、お母さんの……」

「エレインさん、いいか?」


 無言でエレインは立ち上がり、俺達に向けて手のひらを見せてきた。


「え? それは……。お母さんのリング? なんで、エレインさんが? 返して、そのリングを返して! 大切なものなの、今すぐに返して!」


 俺の腕を振りほどき、エレインのもとに走っていくニコア。

そして、エレインから無理やりリングを奪っていく。


「良かった。私のだ、お母さんのリングだ……」

「ニコアさん、大切にしてくれてありがとう。あなたの想いはいつも伝わってきましたよ」

「それはどういう、意味ですか?」


 リリアは足に着けていた一本の黒いナイフを取り出し、テーブルの上に乗せる。

そして、セーラもキッチンから持ってきていた包丁をテーブルの上に乗せた。


「リリア、このナイフの名前ってなんだ?」

「このナイフは『リリア=ヴェトン』。漆黒のナイフと名をもらってます!」


 ニコアの視線がリリアに移る。


「セーラ、その包丁の名前は?」

「はい。この包丁は『セーラ=ノックス』。ノックス様より、慈愛の包丁とお名前をいただいております」


 ニコアの視線がセーラに移った。

目を見開き、戸惑いを隠せないようだ。


 そして俺は、核心につく。

エレインに向かってゆっくりと口を開いた。


「あなたのお名前をうかがっても?」

「いいですよ。私の名前は『エレイン=ノーフェス』と申します」


 ニコアは、その場に立ち尽くし何かを考えている。

そして、手に持つリングを眺め、エレインさんへ視線を移す……。


「あ、あの。このリングの名前を聞いても……」


 エレインさんは席を立ち、ニコアの手を握る。

エレインさんは俺に視線を向けてきたので、俺は無言でうなずいた。


「このリングの名前は『エレイン=ノーフェス』。ノーフェス司祭より、聖光のリングとお名前を授かっております」

「エレイン=ノーフェス……。このリングが、エレインさんなの?」

「ずっと、見ていましたよ。ニコアさんの事を」


 エレインさんはニコアを優しく抱き寄せ、しっかりと抱きしめている。


「あなたのお母さんはずっと、あなたを見守っていました。私は、あなたのお母さんの想いが宿ったリング。アクトさんの力を借りて、こうして皆さんとお話ができています」

「そうそう、私もアクト様に力を借りたの!」

「それを言うのであれば、私もですね」


 リリアとセーラは俺の隣にやってきて、なぜか、腕を絡ませてきた。


「それでね、こうして――」

「一日の終わりにですね――」


 絡まれた腕から、力が抜けていく。

あ、お前たち魔力吸っているだろ!


「ちょ、待て。まだ、そんなに。しかも、二人、同時は、卑怯――」


 俺は意識もうろう、頭がくらくらする。

こ、こいつら、勝手に吸いやがって!


「ふぅ、こうして私たちはアクト様から――」

「魔力をいただいております」


 テーブルにおでこをつけ、なかなか起き上がれない。

思いっきり吸いやがって……。

俺は顔だけニコアに向け話し始める。


「と、言うことなんだ。ダンジョンで、ニコアが倒れたとき、俺の力を使ってエレインさんが具現化した。そして、ニコアの傷を治して、モンスターを一掃してくれたんだ」


 それなりの決め台詞だったのに、カッコ悪いじゃないか。


「それじゃ、エレインさんは……」

「残念ですが、ニコアさんのお母さんではありません。ただし、ニコアさんを想うお母さんの心は、私の中に……」

「そう、なんですね……。あの、助けてくれてありがとうございます」

「いえ、アクトさんから魔力を借りることができたので、あの場を切り抜けることができました。お礼を言うのであればアクトさんに」


 みんなが俺の方を見てくる。

やっと頭のくらくら感が抜け、起き上がることができるようになった。

俺は椅子から立ち上がり、みんなへ向けて話し始める。


「ありがとう。みんながいてくれたから、今ここにこうしていることができる。本当に感謝している」


 リリアもニコアも笑顔で俺を見ている。

セーラもエレインもみんなと同じように微笑んでいる。


 みんな無事に帰ってきた。

ここが俺たちの帰る場所になるんだ。

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