第126話 ヒツジくん、だから

「告白、びっくりしたけどねー」

「いや、どう考えても、あのタイミングで告白したら、信用を裏切りまくることを言ったと思うんだが」


 客観的に見れば、無害だと思っていた男が、男女の関係になってくれと言い始めたのだ。呆れ返ってもいい場面だ。


「そう? 私は嬉しかったよ。私のこと見てくれる人がいるんだなぁって思えてさ」

「それで、好きに?」

「まぁ、きっかけの一つだけど」


 顔を上げたシアが暗がりでもわかる笑顔を見せる。


「けど、それじゃ――」

「ヒツジくん以外でも、同じように思ったって?」


 シアが俺の考えをあっさり読んで言ってくる。


「まぁ、そういうこと」


 あの夜、俺があの場所に行ったのはたまたま。

 シアが声をかけてきて俺たちの関係は始まった。

 もし、あの時、あの場所に行かなかったら?

 俺以外の男がシアと同じように話したら、シアはついていくのだろうか?


 惚れて……しまうのだろうか?


「…………」


 やっぱり、心はモヤついてしまうものだ。


「……クスッ、顔に不満が出てるぞー♪」


 鼻先をツンと突かれた。


「そうもなるさ」

「でも、ヒツジくん、それは私を安く見てるよ」


 俺の不満は予測済みだったのか、シアは楽しそうに笑っている。


「あの時、俺と同じ行動を取ったやつがいたら、シアはその人を好きになった可能性はあるだろ?」

「ぜんぜん違うよ。だって私はヒツジくんのこと、知ってたもの」

「実際話したのは祭りの一度きりだったのに?」

「でもその一度が、とってもいい印象に残ってたのよ」


 過去を思い出したのか、俺を見上げると頬に手を伸ばされる。


「それにね。ヒツジくんの告白は始まりでしかないわ」


 そのまま、柔らかな指で頬を撫でられた。


「その後のヒツジくんの行動が嬉しかったから」

「そんな喜ぶ行動をした記憶はないけど……」

「ほら、また私が好きになることを言うんだから」

「な、なんでだ?」


 今だって、そんなことを言われると戸惑うしかない。


「だってヒツジくん、無意識のうちに、私を大事にしてくれてるじゃない」

「そうか?」

「もちろん、ひどい人だったら、私にイタズラとかエッチなこととか、しちゃうでしょう? 私だってOK出しちゃったしね」

「まぁ……それはそれで警戒するところでもあるし」

「警戒?」

「だって、シアみたいな美人が言ってくるんだから、裏があるかもって思ったし」

「そんなこと言ってたねー……ふふふー」

「なんで嬉しそうなんだ」

「だって、『美人』っていてくれたし♪」


 ご満悦のシアの顔を見ていると、なんだか自分がバカバカしく思えてきた。

 いもしない存在に嫉妬し、ありもしない可能性でシアを責めている。


「……ごめん」

「どーしたの? 急にしおらしくなっちゃって」

「バカな質問したって気づいた」

「そんな馬鹿な嫉妬しちゃうぐらい、私のことが好きってことよね」


 撫でていた指で頬をツンツンとつついてシアが微笑む。


「……そういうことみたいだ」

「不思議な言い方」

「いや、なんかシアへの気持ちは、後で色々気づくことが多い」


 好きだと自覚したことも含めて、我ながら行動した後に気づいてる。


「大丈夫、私も似たようなものだもの。ヒツジくんと生活して、ちょっと甘えたりもしてさ。そういうの、受け入れてくれる人だったから『好き』って言えるようになったのよ」


 俺たちはつまり。

 互いに『恋人』になってから、恋をしたということなんだろうか。

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