第121話 もっと、悪女になればいい
「……だから、嘘が嫌いなんだな」
「そうなんでしょうね」
自分の気持ちなのに、曖昧な言い方だ。
『嫌い』などという単純な言葉では言い表せないのかもしれない。
「今……親御さんは、シアがここにいることを知ってるのか?」
「お父さんはどうかしらね。お母さんにはしばらく友人の家に泊まるってだけ連絡したわ」
意外半分、納得半分といったところだ。
今までの両親の対応を考えれば、娘の家出に対して何もしないというのも考えづらい。だから、連絡したことにより、安心したというのもわからなくはない。
だが、良くも悪くも正しさを重視する親が、ここまで長期に渡って家を留守にすることを容認するのも不思議な気がした。
「それ以降、何も言ってきてないのか?」
「ええ、何も」
「……それは」
「わかってるのかも。私が今を不満に思ってることを……だから好きにさせてくれてるのかも。本当に、優しいよね」
肩をすくめて瞳を笑みの形にするが、眉は下がっている。
「対して私は……本当に悪い女ね」
自分に言い聞かせるような言葉だった。
シアは、両親を責めているようで責めていない。
恨みがあってもおそらく伝えてはいない。
――いや、きっと伝えられないのだ。
両親は最大限、シアのことを考えてくれた。
『客観的』に見れば、シアの両親の行動に落ち度はない。
むしろ『正しさ』すらある。だからこそ、シアは伝えられない。
自身のわがままであることを理解しているから。
だから、自分を『悪女』に仕立ててでも納得しようとしている。
「――いや、伝えていいだろ」
「え?」
「納得なんて、しなくていいじゃないか」
いくら正しくても。
相手が、シアのことを考えてくれても。
それは向こうの事情で、納得する理由にはならない。
「向こうが気にしてくれたからって、黙らなくたっていい」
「そうかしら? 私が黙れば皆幸せよ」
「シアは幸せじゃない」
「それは……仕方ないわ。今まで幸せを
シアが苦笑いをする。
納得はできていなくても、どうしようもないとあきらめている。
そんな様子だった。
「違うだろ……そんな納得、自分の心に嘘をついてるじゃないか」
「……あきらめたら、もうそれは嘘じゃないわ。本心よ」
「なんでシアが、あきらめなきゃいけないんだ」
なんだろうか。
ふつふつと湧き上がる、この感情は。
「おかしいじゃないか。シアの両親はシアを騙し続けてたのに、その嘘つきたちをそのままにして」
「それは、私のことを思って……」
「でも、嫌だったんだろ。家を飛び出すぐらい。
本当は二人に、『ふざけるな』って叫びたいぐらい、嫌だったんだろ。
そんなの、シアのことなんか考えてない。ただ、自分たちが『正しかった』と言い訳してるだけじゃないか」
そうか。
怒りだ。
娘のためと嘘の関係を続け、シアを失望させた両親にも。
その両親の言い訳を是としているシアにも。
「そんな正しさなら、シアはいくらでも悪女になればいいさ」
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