第95話 うん、最低

「……俺が選ぶってことそのものをいろいろ考えてた」

「そうなの?」

「だって、なんか傲慢ごうまんじゃないか。それにシアも明宮も違う魅力があるわけだから、それを比べるなんて……」

「違う魅力って?」

「え?」

「魅力って?」


 ニンマリと笑ってシアが重ねて問いかける。


「そりゃ、明宮はお淑やかだし大人っぽいし、相手のことをたくさん考えて行動してくれる」

「美人だし」

「ま……それもあるよ」

「ふふふ、正直だ」

「うっ、『ボロを着てても心は錦』だっけ? 理想だけどさ。やっぱり容姿だって気になるさ」

「私もそう思う」


 俺の言い訳めいた言葉にシアもうんうんと同意してくる。


「むしろ、容姿なんて関係ない! って言う方が私は信用しないけどね」

「そうなのか?」

「だって、それも含めて相手の魅力でしょ。その魅力を否定するって、好きな人のことを否定してるみたいじゃない」

「……まぁ、そうだな」

「なぁに、意外?」

「俺に『好き』っていうぐらいだし」

「えー、ヒツジくんはかっこいいよ」


 口を尖らしてくる。


「私にとっては、性格も容姿もすっごく好みなんだけどな。まぁ……きっかけは容姿じゃなかったっていうのはあるかな」

「そうなのか?」

「……うん」


 目を細めてシアが頷く。

 そういえば、色々と疑問は解けたが根本的な疑問――どうしてシアが俺のことを好きなのか――それは何一つ不明なままだ。


 当時を振り返ってみても、俺が惚れられた要因になるようなものはない。

 だとしたら『昔会ったこと』と『シアが好きになったこと』は別なのか……?


「――それで?」

「へ?」

「明宮さんの魅力はわかったから、次は私の魅力でしょ?」

「あ、ああ……」


 うなずきはしたものの。


「…………」

「…………」


 しばし無言で見つめ合う。


「この無言は、私の魅力がないってこと?」

「い、いやっ! そうじゃなくて!!」


 苦笑するシアに慌てて言いつくろう。


「恥ずかしい?」

「面と向かって言うのは、まぁ……でも、そういうところかな」

「そういうところ?」

「シアはまっすぐだし、嘘をつかないから……自分にも、他人にも」

「正直者が好きなの?」

「嫌いなやつはいないだろ?」

「ふーん……」


 シアは目を空の方に向けて、考えるとすぐにまた俺を見つめてくる。


「比べられない魅力だし、自分から選ぶのはなんか傲慢ごうまん。だから選べない……そういうことだよね。ヒツジくんの気持ち」

「……そうかな」


 それだけ聞くと、すごく優柔不断な上に八方美人な印象を受ける。


「――うん、最低」


 俺の気持ちを読んだかのように、ニヤリと笑いながらシアが言い放つ。


「だって、私も明宮さんもヒツジくんにんだから。どちらかなんて私達が嬉しくないもの」

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