第75話 お昼に、悪女は語る
「それじゃ、お昼ごはん食べよー!」
シアの言葉で、中庭で集まった四人はそのままお昼を食べることにする。
普段、明宮や伴野がレジャーシートを敷いて食べているので、そこにシアと門井が同席する形だ。
「明宮さんのお隣に失礼♪」
「は、はい……どうぞ」
先日の映画館で出会った後も一緒に昼食を食べたから、その勢いを知っているはずだが、それでもグイグイ来るシアには、明宮タジタジになっている。
「伴野さんも、急にありがとう」
「ま、別に良いよ。今日、友達が一人休みだったし、九条さんと……」
伴野がシアの隣りに座った門井に目を向ける。
「あっ、門井よ」
「あと、私はシアでいーよー」
そう言いながら、シアは購買で買ってきたサンドイッチを取り出す。
他の三人はお弁当だ。
「コトちゃん、今日はお弁当に唐揚げ入ってる!」
「冷凍の解凍しただけだけど……食べる?」
「食べるー♪」
「はい、あーん」
「あーん♪ もぐもぐ……はぁ、私も、サンドイッチひと口お返し!」
「うん、ありがと」
いつものことなのか、シアと門井は弁当を分け合って食べている。
「……なんていうか思ったより元気なタイプなのね。シアって」
とはいえ、シアは黙っていれば大人っぽいし門井も侍のような鋭さがある少女だから、二人がそうして食べているのは、はた目から見ると不思議なようだ。
「そうかな……うーん、そうかも?」
首を傾げつつ、シアがサンドイッチをひと口。
「ねぇ、明宮さんのお弁当っておかーさん?」
「は、はい……そうです……あっ、何か食べますか?」
「おっ、なんか催促しちゃったみたい? でも、お言葉に甘えて、BLTサンドふた口と、卵焼きの交換でどう?」
「そ、それで……」
「ありがと~♪」
のんきにおかず交換しているシアを見ながら、伴野も何やら考え続ける。
「……うーん」
「まぁ、シアって普段はこんなものよ。どうかした?」
「いや、ヒツジが付き合い始めたっていうから……てっきり」
「てっきり?」
「まぁ、なんていうか、ヒツジってこういう子が好みだったんだなって思ってさ」
耳ざとく聞きつけたシアに、伴野が困ったように言う。
「うーん、もしかしたら、ヒツジくんの好みの女の子ってわけじゃないかもね」
「え?」
「好みじゃないのに、アイツ、シアと付き合ってるってこと?」
明宮が食べる手を止め、門井も不満そうに睨んでくる。
「あはは、そういう意味じゃないよ。でも、私がヒツジくんにひと目惚れしたから、今付き合ってるっていうのはあるかな」
「それじゃ、シアがヒツジに告白したってこと?」
「うぅん、告白してくれたのはヒツジくんだよ」
「え? シアが一目惚れなのに、告白したのはヒツジ……?」
シアの言葉に、伴野が戸惑う。
「ふふふ、首をひねるだろうけど事実しか言ってないよ」
言いながら、シアが一瞬だけ明宮を見る。
「……っ」
シアを見つめていた明宮は気まずそうに弁当箱に目を落とす。
「……あの」
でも、目をそらしても明宮はシアに言葉を投げる。
「うん、なぁに?」
その言葉をシアはいつもの明るい声音で受け止める。
「ひと目惚れで、告白されてお付き合いして。今は、どうなのでしょう?」
「こよみん……」
伴野が驚いた声を出す。彼女からしてみれば、こんな大胆な質問をする明宮の姿は想像できないのかもしれない。
それとも想像できたからこそ、その言葉にはどこか、ほろ苦いものが混ざっているのか。
「……そうね」
シアが小さく頷くが、思案することなく直ぐに口を開く。
「想像以上、だったかな……ヒツジくん、ちゃんと私と向き合ってくれるから」
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