第49話 きっと、嫉妬する
やはりシアは、とんでもないことをあっさり言う。
俺も明宮も言葉を失ってしまう。
俺と明宮が付き合おうと思わなかった、か……。
「ん?」
当のシアにとってはたいした発言でもなかったのか、フォークに絡めた明太スパをひと口食べつつ、俺達の反応に首を傾げる。
「シア、なんで、そんなこと聞くんだ」
「私がヒツジくんの恋人だから。私と出会う前のことを知りたいって思うのは不思議じゃないでしょ」
「だからって、初対面の相手に聞く話でもないだろ」
「まぁ……そうね。ごめんなさい。どうしても知りたくて」
シアが食べる手を止めて明宮に謝る。
「いえ……お付き合いしてる人のことですから、気になるのはわかります」
明宮も戸惑いはしたものの、そう言ってくれる。
「その、九条さんは――」
「あ、シアでいいよ」
「えっ、し……シア……さん?」
「うん、どうしたの?」
基本的に他人を名前呼びすることのない明宮が動揺している。
もちろん、シアは気にしてない。
「シアさんは日辻さんのこと、大切に思ってるんですね」
「そりゃね。私が惚れるほど、魅力的な人だから」
「は、はい……惚れ……」
俺への好意も、シアは隠そうとしないから、明宮が照れる。
シアの率直さは、本人よりも周りの方がむずがゆい気分になる。
「日辻さん、素敵な方とお付き合いしてますね」
明宮が俺達に微笑みかける。
明宮のことだから、きっと本心だ。
「まぁ……この通り、色々直接的すぎるやつではあるけどね」
「あ、それ、褒めてないでしょ」
シアがジト目でこちらを睨んできた。
「そりゃ、急にすごいこと言い出すから、びっくりした」
「んー……でも、ヒツジくんのこともっと知りたいから」
「う……」
シアの隠さない言葉に、やっぱり照れてしまう。
「ねぇ、明宮さん。失礼なのはわかってるけど、聞かせて。
ヒツジくんといい感じの人っていなかったの?」
「結局、聞くのか」
「やっぱり気にはなるよ」
どうもシアは、一年の時の俺が気になっているらしい。
「いないって。クラスで目立ってた方でもないし」
「でも、日辻さんに助けられた人は、きっと多いですよ」
「そうなの?」
「はい。困った人がいると助けてくれましたし」
「ふふ、それはよくわかる」
「やっぱり、シアさんも日辻さんに助けられたことが?」
「ええ、現在進行中かもねー……♪」
チラリとこちらを見ると、含むような笑みを見せる。
同居生活は、シアを助けている……と言えなくもない。
とはいえ、こっちも告白したのだからそんな気はしてないのだが。
「いや、別に助けたってほどでもないけど」
「そうでしょうか。私は感謝してます」
「なるほど……やっぱりヒツジくんはそういう人だよね。これは知らず知らずとヒツジくんに好意持ってる子、いそうね」
いない。
そう言おうと思っても、他ならぬシア自身が見ず知らずだったのに、俺に好意を向けている。
「もしいたら、シアはどうするんだ?」
1年の時の話だから、たとえそういう人がいたとしても何の意味を無い気がするが……。
「――たぶん、すごい嫉妬する」
「えっ」
短く呟かれた言葉。
でも、明るさのない言葉に明宮が――いや、俺も驚く。
「うぅん、きっと嫉妬する。だから聞きたいの。私の好きな人をとられたくないから」
「……はっきり、いうんですね」
「もちろん、自分の気持ちに嘘を付く方がよほど不幸せよ」
明宮の言葉に、シアは強く断言する。
それはシア自身の心情なのか、誰かに伝える台詞なのか。
わからないが、耳朶にしばらく残る言葉だった。
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