第27話 恋の中でも、忘れちゃいけない
「……二人きりになっちゃったね」
「皆、かなり驚いてたみたいだからなぁ」
「むぅ」
シアは不満そうな顔を隠そうともせず、思い切り頬を膨らませる。
整った容姿も大人びた雰囲気も、その表情では台無しだ。
「私たちって、そんなに恋人同士に見えないのかしら?」
「まぁ、それはあると思うけど」
「あるの!?」
よほど意外だったのか、シアが目を丸くする。
でもすぐに、非難を込めた瞳に切り替える。
切れ長の瞳とほくろが俺を射抜いてきた。
「そんなに私のこと、恋人って見られたくないんだ。告白したのはヒツジくんなのに」
「俺とシアがお似合い云々の話じゃなくて、単にシアに彼氏がいるのが、みんな意外なのさ」
「そうかしら?」
まだ不服のある様子で、ジト目に近い視線を投げられる。
なんだか今日は、よく睨まれる日だ。
「付き合ったことないんだろ? 告白されたことは?」
「もちろん、ヒツジくんから」
「いや、俺以外で」
「まぁ……何度かあったけど」
わかってたけどあるのか。
シアの飛び抜けた容姿なら、見目だけで告白するやつらがいるのはわかる――が。
少しもやついてしまうのは『恋人』だからなのか。
「もちろんぜんぶ、断ったわ。告白を受けたのは、ヒツジくんが初めてよ」
「いや、そこを疑ってるわけじゃないけど……そうか」
だとすると、あんな行き当たりばったりな俺の告白を受けたことに疑問が出る。
だが、それはひとまず置いておく。
「だからさ。シアは、誰とも付き合わないと思われてたんだ」
「それは――でも、だからこそ周りに知らせたかったのに」
「結果的に、しっかり知られたな」
「ええ、知ってもらえた……でも……むぅ」
すぐ近くの椅子を引き出すと、シアが体育座りで腰掛け丸くなる。
「……思った反応と違った?」
俺もシアの向かいの椅子に座る。
小柄なシアは椅子に座って向き合っても、俺が見下ろす形になる。
「ええ」
コクリと小さく頷き、シアがそのまま目を伏せる。
「あんな静かになるなんて思わなかったわ」
「シアが男子に声をかけて、しかもそいつが『恋人』だった――それぐらいそのことが驚きだったってわけさ」
「あの反応を見るに、そうなんでしょうね」
「周りに祝福されると思ってた?」
「そこまではさすがに……まぁ、噂になったりからかわれたり……そういうのは予想してたかな。でも――」
苦笑いを漏らすと、丸まったまま上目遣いに俺を見る。
「コトちゃんは、お祝いしてくれると思ってた。もし、あの子に恋人ができたら私、嬉しいと思うもの」
「どこの馬の骨かわからなくても?」
「そこはほら、コトちゃんのこと、信用してるし」
「まぁ……」
先ほどの動揺しまくっていた反応に加えて、シアの友人。
見た目に反して、けっこう純な子な気もする。
「じゃ、その恋人がもし、その……シアの好きな子だったら?」
「え、ヒツジくんだったら? それはモヤモヤするっていうか……想像したくない」
ぼかしたら、シアが普通に『好き』の相手を言った。
俺たちは『恋人』だ。とはいえ、色々なものをすっ飛ばしての関係だ。
でも、シアは自然に俺への好意を口にする。
シアはこれほどまっすぐなのに、俺は――
「…………」
「ヒツジくん?」
「あ、いや……だから、そういうこと」
しまった。動揺して頭の中が一瞬真っ白になっていた。
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