第24話 そのひと言は、静寂を呼ぶ

 その後も、門井さんがシアにつきっきり。

 おかげで、本日の高校生活は想像以上に平穏無事。

 本日はLHRが主体だったから昼過ぎには、めでたく放課後となる。


「コトちゃんは部活?」

「ええ、シアともっと話したかったのに」

「春休みも部活だったから、あまり遊べなかったもんね」

「そう、そうなの!」

「でも明日も会えるんだから、安心して」

「えへへ、約束……♪」


 シアが門井さんの頭をなでると、門井さんはくすぐったそうな笑顔を見せる。

 去年も同じクラスだったそうだし、二人はかなり仲が良さそうだ。


 微笑ましい様子なのだろうが、シアが爆弾発言をするかもしれないので、どうしても意識は二人に向かってしまう。


「おや、ひつのくん。視線が熱いねぇ」


 肩を叩かれる。

 中肉中背、まとまらないの天パが印象的な中住なかずみ――ズミーだった。


「ああ、オレになんか言いたいことでもあるのかと思ったらどうも違うみてぇだ」


 扇ことオギやんも声をかけてくる。

 去年からの付き合いだから、自然と三人で集まる。


「目立つ連中だからなー。九条も門井も」

「オギやんは二人のこと知ってるのか?」

「まぁな。見てのとおり美人の二人組……となりゃ目を引くもんだ。九条は昨日休んでたから、クラス内でも話題になってたろ」


 昨日はそれどころじゃなかったから、そこまで覚えていない。


「剣道部にふさわしい雰囲気の門井と、別にクールとか無感情でもないのにミステリアスな雰囲気がある九条――演劇部うちでも話題には登ってたねぇ」


 二人の言う通り、シアと門井さんはあたかも麗しき姫君と彼女を守る清廉潔白せいれんけっぱくな女騎士のようだ。


「はぁ、新学期待ち遠しかったぁ……シアと会えるし」

「ごめんね。コトちゃんは部活が多いから遠慮しちゃった」

「いいのいいの! 同じクラスにもなれたし! ふふ……♪」


 まぁ、騎士の方はずいぶんとしまりのない顔になってはいたが。


「昨日オギやんとやりあった子とは思えんねぇ」

「ずっと睨みつけられてたことに比べたら、今のほうが楽だ。

 ――ところでヒツジよ」

「なに?」

「さっき聞いたんだが、朝、チャリで二人乗りしてたそうじゃないか」

「相変わらず、耳が早いな……」

「早くねぇよ、二人乗りまでは朝の段階でわかってたんだが、それが誰かまでが掴めなくてよ。難儀なんぎしたぜ」

「何と戦ってるんだ、君は」


 ズミーが呆れるが、俺もおおむね同意だ。

 映像研だからというわけではなく、単にさがなのか、オギやんは何にでも興味を示すタイプで、色んな話に首をつっこむ。

 それが、自主制作動画の題材になってるみたいだが。


「二人乗りって、さわのんでも乗せてたんか?」

「いやいや、それがだズミくん。乗せてたのはさっきからヒツジが視線を注ぐ才媛が一人、九条って話なのさ」


 演劇部のズミーより芝居がかった口調でオギやんが話す。


「ほほう、なんでまた」


 漫画だったら『キラン』と目を光らせそうな勢いでズミーがこちらを向く。

 男女区別なく、こういう浮いた話は好まれるらしい。


「……まぁ、たまたま?」

「たまたまで女子を乗せるほど、オレたちの青春は色鮮やかでもねぇだろ」

「いや、そんなことないよ」

「演劇部は黙ってろ」


 演劇部は男子より女子の割合が多いが、映像研は100%男子で構成されている。

 つまり……推して知るべしだ。


「百歩ゆずって、女子を乗せるとしても九条ってのが驚きでさ。接点ないだろお前ら」

「ま、そこはそうだな。ヒツジが乗せるんだったら九条じゃなくて――」


 話しつつ、俺たち三人の視線が話題になっているシアに向けられる。


「あ、そろそろ行かなきゃ、新入生勧誘について、話し合いがあるのよ」

「ええ、いってらっしゃい。私も――」


 辺りを見回したシアが、すぐに俺を探し当てる。

 まなざし同士が、強くぶつかった。


「ヒツジくん、一緒に帰りましょー! それとも、お友達とまだ話してる?」


 放課後のざわめきで満たされていた教室が、一瞬で静寂に支配される。

 全員の視線がシアに向き、彼女の見つめる先――俺に注がれる。


「どういうこと……?」


 しんと静まったその中で、絞り出された門井さんの声が鈍く響いた。

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