第58話・氣功術と捜査方針
夏美は鈴羅ファミリーの拠点の近くを歩いていると、路地の奥から「ガスッ! ゴッ! ドカッ!」と何かを殴るような音が聞こえてきたため、気になった夏美は路地の奥へ向かうと、メリッサと鉢あった。
「あれ? 夏美ちゃんじゃん!」
メリッサはさっきの音が聞こえていなかったかのように夏美に気づくが、夏美はメリッサの両手の指先から血がしたたり落ちているのを見て、口に出したくはない何かをしていたことを察する。
「……手から血が出てるぞ。何があった?」
夏美の質問に対してメリッサは「ああ、これ?」と擦り傷のできた手を見ながら答えた。
「ちょっとむしゃくしゃしてそこの廃ビルの壁に当たり散らしてた。すぐに治るから大丈夫だよ」
それ聞いた夏美は、これからやることに関して心配事がひとつ増えた。
「確か今日って拠点の菜園で畑仕事するとか言ってなかったか?」
常人なら土に含まれる雑菌が入って化膿する場合もあるにも関わらず、メリッサは両手をギュッと握ってこう言った。
「僕ら魔祓い師は常人より自然治癒力が高いからこんなの怪我のうちに入らないよ。言っておくけど、兄さんは拳の骨が砕けた状態で下級天使を殴り殺したことがあったからね?」
凪のことをあまりよく知らなかった夏美は「砕けた拳でそんなん殴り殺すとかお前の兄貴は本当に人間か?」と疑問を口に出すと、メリッサは夏美に凪がそんな出鱈目な力を手にした経緯を話す。
「兄さんは僕と違って魔祓い師でありながら死神の力に覚醒した異端児だからね。それでも師団に入りたくて異能の力を捨てて戦えるように鍛え上げて君と同じ「氣功術」を使えるようになった」
そして、メリッサは凪が「氣功術」を取得した理由を話した。
「人間の未知なる部分を引き出すことによって使える氣功術……その一撃は異形の肉体ですら粉砕し、魔法や異能による防御を貫く恐ろしい一撃となる。おまけに異能の力じゃないから玲奈さんの「相手の異能を無力化する退魔の力」も効かない」
故に……対異能力者戦最強! 凪がこの街で当時最年少の異能力ランキング上位に入れた理由の一つでもある。
夏美もその「氣功術」を使うことはできるが問題があった。
「アタイも「氣功術」を使えるようになりたいけど、凪みたいにうまく使えない」
自身の両手を見ながら夏美は今の状況に落胆する。
「……兄さんから聞いたけど「氣功術」って3つの型があるんだよね?」
メリッサはそんな疑問を口に出す。
・元対異能特殊部隊出身者である霞先生の氣功術講座
メリーの言う通り、氣功術は3つの型が存在する。
強化型・氣の流れで身体能力を強化したり、氣の流れ自体を強化することで技の威力を格段に上げる型
操作型・氣の流れを自身の肉体や物体の中で操作し、相手の攻撃の流れを自身の氣の流れに乗せてそのまま返すことができる型
変化型・氣の流れを爆発のような衝撃に変えたり、刃のように変えたりすることができ、氣の流れを固めることで鎧にすることができる型
これは人によって得意不得意が大きく分かれ、私は操作型が得意で凪は変化型を得意としている。
アイツが「オーバードライブ」と名付けている技も、氣の流れを爆発のような衝撃にして相手に叩き込んでいるだけに過ぎない。
まあ、まともに喰らえば内臓がシェイクされるの通り越して挽肉になる技を修業時代のアイツにそのままの威力で返したわけだが……
話は戻って、夏美は少なくとも変化型は得意ではないはずだ。凪が初めてあの子に自身の技を撃ち込まれて「体の動きと氣の流れが嚙み合っていなかった」と言っていたが、私から見た限りの原因は、自分が得意ではない型を使おうとしたのもあるのだろう。
個人的な意見では夏美には強化型が得意であればいいと思っている。理由としては喘息持ちのせいでせっかくの技術に体がついていけていないからだ。
強化型の身体強化を行えば、持てる技術を存分に振るえる上に「強化型だけしか使えない強力な技が存在する」と言うのもある。
私の知っている限りではその技を使えるレベルまで鍛え上げた奴がこの街にいる。まあ、私の1番弟子なんだが……
場所は変わり、凪と玲奈は「風見鶏」で幽麻たちと合流した。
奥の席で資料を広げ、お茶と茶菓子を食べながら4人は捜査方針を話し合う。
幽麻「左手の小指が欠損している? 確定するには少し難しいところがあるな」
凪「ああ、だから容疑者と思しき人物を見たらすぐに警察へ報告するってことになった」
咲「……」
玲奈「私たちはどこから当たろうか? ビジネスホテルなどは既に警察が回っているのだろう?」
凪「俺たちが当たるのは個人経営の仕立て屋などだ。容疑者はサラリーマンの仕事に就いて現地に溶け込んでいるらしい。仕事着の購入は大手よりもアングラーな個人経営の店の方が目立たない」
咲「伊佐ノ市の方も同じように調べますか?」
凪「そうだな……でも今は別件で空いている奴がいないだろう?」
咲「私が空いている状態です。だから連絡員としてここにいる」
凪は咲が自分たちに何か隠していると思いながらも人手が欲しいということもあってこう言った。
「解った……でもひとりで行動はするなよ? 幽麻か亜由美……伊佐ノ市なら夏美と一緒に捜査に当たってくれ。これ食べ終わったら手に分かれて捜査にかかろう」
方針が決まり、凪たちは残りの茶菓子を食べてお茶で流し込み、店を出た。
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