第29話・どんな人?
朝食が済んでから凪と咲と玲奈の3人は霧雨市の駅で伊佐乃市行きの電車に待っていた。
「いやぁ、今朝は驚いたよ。学校では顔の怖さで周りから敬遠されているあの幽麻を抱き枕にして寝てるんだから……」
今朝の一件について凪はそう言うと、咲は神妙な顔でこう言った。
「彼に触れてみて解ったんです……どこか私と似ているところがあると……」
心当たりがあった凪はそれを聞いて咲に釘を刺す。
「だからと言ってそっちの道には行かせねえぞ? お前はまだ追いかけているのは知っているが、もしそれに幽麻を巻き込んでみようものなら俺はお前を許さない!」
そう凪に釘を刺された咲は特に食い下がる様子も無く「解ってますよ……私の問題は私で片付けますから……」と答えてこんなことを凪に尋ねた。
「それはそうと……彼のアドレスを教えてもらえませんか?」
藪から棒にそんなことを切り出してきた咲に凪は咲が何か企んでいるような気がしてならなかった。
「……伝言なら俺が請け負うぞ? 何の用だ?」
疑われていることに気づいた咲は誤解を解くようにこう答える。
「呼び出して闇討ちしようとか考えているわけではないですよ? 彼のサングラスを壊してしまったのでその弁償のことです」
それを聞いた凪は思い過ごしかと思ったかのように流暢にこう言った。
「ああ、それ? どっちにしても弁償は無理だ。アレは俺が作った魔道具だからな。買うなら普通のサングラスにしておけ! そうすればそれを型にして作り直す」
今まで火傷を隠すためのサングラスだとばかり思っていた玲奈は「あれも魔道具だったのか!?」と驚きの声を上げる。
「視覚を補助するための機能をいくつか入れてある。赤外線にエコーロケーションに能力者をオーラで強調表示する機能もつけていた」
玲奈はふと幽麻がなぜ夕刻であるのにも関わらず、サングラスをかけていたのかようやく解った。
「能力を使う度になぜ視界を悪くするサングラスをかけていたのかと思ったら……そう言うことだったのか」
そして、その性能に咲は「スパイ映画もビックリな機能ですね」と言って心の中で舌を巻く。
そんな咲に対して凪は「言っておくがアレも材料だけで3桁万円する奴だぞ?」と嘯くと玲奈が気になったことを口に出した。
「思えば咲さんもお前が作った魔道具を持っているのか?」
玲奈の質問に凪は咲に渡した魔道具について話す。
「ああ、咲に渡した魔道具は「身代わり人形」だ。能力の関係上、必ず慢心が生まれる可能性があったからな」
そして、咲の様子を見て凪は「幽麻との戦いで壊れただろ? 替えの魔道具が出来たら連絡する」と言うと咲は顔を青くした。
「凪の魔道具が無ければ即死でしたね」
咲がそう言うと同時に電車が来た。
一方、その頃の幽麻は……
今回の一件で連合への報告へ来ていた。
暤の祖母であり、この街の連合を纏め、最強の魔法使いと恐れられていた人物への報告……本来ならオフィスで堅苦しい空気の中で報告のはずだが、鞠子は自身の孫娘である暤がお世話になっている「鈴羅ファミリー」に対してはかなり砕けた接し方をする。
場所は連合の霧雨支部のロビーにて、いつものように茶色のレディーススーツを身に纏い、まるで世間話でもしているかのように幽麻から報告を聞いていた。
「まあ……電車が一本止まった事もあって未だに警察も犯人を捜索中です。異能探偵の方では伊佐乃市で凪の友人が率いているクラン「夜天華撃団」が引き継ぐとか……」
どこか気もそぞろな状態で話す幽麻に何かに気づいた鞠子はこんなことを尋ねる。
「なんだか気もそぞろだね……変わったことでもあったかい?」
少し浮ついていたこともあり、幽麻はうっかり今朝の事を話してしまった。
「今朝起きたらさっきの件で襲って来た女の子が俺の事を抱き枕にしていました」
それを聞いた鞠子は右手を口元にやって「あら」と少し驚く。
「初対面でありながらアナタの事を怖がらないなんて……一体どんなの子?」
まだ咲のことをよく知らない幽麻は容姿だけを口に出す。
「雪のような白い髪と肌をした子でエメラルドのような碧の瞳が素敵で……」
そして、鞠子が微笑ましい顔をしていることに気づいて「なんですか? その顔は!」と憤る。
「アナタも男ね……その縁を大事にしなさい」
そう言い残して鞠子はその場を去っていった。
幽麻は「一体何なんだ……」と怪訝な顔でそう言いながらロビーを出て行く。
商店街へ出た幽麻はふと今朝の事を思い出してしまう。
初めての感覚……血の繋がりの無い異性から感じる温もり……
(何を思い出してんだ俺は……)
変に思い出す自分に呆れた幽麻は右手の拳骨で右側頭部をコツンと小突く。
ちょうどその頃……凪たちは伊佐乃市の駅に到着して改札口前で咲と別れるところだった。
「では何か進展があり次第こちらから連絡しますね!」
咲はそう言って凪と玲奈の前から去ると、凪はこんなことを言い出した。
「さて、俺たちはどうしようか……このまま街へ行ってデートでもするか?」
冗談交じりでそう言った凪に対し、玲奈は「別にいいぞ? オススメの店はあるか?」と答える。
思いもよらぬ一言に凪は「え? まさか咲が幽麻とイチャついてるの知って自分も……ってやつか?」と茶化す。
「それはお前だろう! 早く行くぞ!」
仮面の下では顔を赤くして玲奈はそう叫んで右手で凪の左手を引いて伊佐乃市の街へ向かった。
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