第58話 麻薬
「イワン様がいる」
「イワン殿、彼女と知り合いだったのか」
「ああ、ラーフェン子爵家のお家騒動では協力してもらってね」
「ほほう。見た目によらず、なかなかにやるお嬢さんのようだね」
急遽、この町の代官様に呼び出されたのはいいけど、なぜかその代官をしているイケメン青年の隣にイワン様がいて、まずは私たちが提供した丼を食べていた。
さすがに町中で販売したものと同じ内容にするのはどうかと思ったので、岩塩を振ってから炙ったコカトリスの肉と炙った野菜も加え、ちょっと豪華な丼にしたけどね。
「イワン様は、この町にいらっしゃったのですね」
「なかなか顔を出せず申し訳なかったのだけど、ちょっと色々と調べていてね」
「調べる? 食料庫の火災の原因ですか? それとも、今回いつもより早くアリが来た原因ですか?」
「イワン殿、このお嬢さん。なかなかに耳が早いじゃないか」
「町の人たちに安く食事を提供しつつ、客たちから情報を集める。やるなぁ」
「(あのぅ……イワン様。それは大きな誤解だと思います)」
別にそれを意図してやったのではなく、私は自分たちの安全のために、食料を巡って町の人たちが争うのを防ごうとしたわけで……。
商人のおじさんや、古老のお爺さんからお話を聞けたのは偶然なのだから。
「まずは私から。食事を安く売ってもらい非常に助かっている。アリの来襲が予定よりも早いだけなら別に問題はなかったのだけど、食料庫の火災には困っていたところだったのだ」
あれで、町の備蓄食料のかなりの部分が灰になってしまった。
この町の代官としては、頭を抱える状況だったと思う。
「食料庫は、火災に強い石造りの建物で、当然普段火の気などあるわけがなく、しかもえらく延焼が早かった」
「魔法でしょうか?」
「なにか特殊な魔法薬のようだな。それを撒いてから火をつけたようだ。魔法など使わなくても、その魔法薬と火種があれば子供にでもやれる犯行ということだ」
ファリスさんの質問に、代官さんは答えた。
「となると、アリの早期の来襲と食料庫への放火は、同じ犯人による連動した事件のようですね」
「お嬢さんの想像どおりだと思う」
「代官様?」
「ああ、私のことはアンソニーで構わないよ」
いや、貴族で町を預かる代官様を名前では……でも、呼ばないと逆に機嫌を損ねてしまうか……。
イケメン青年貴族様のご機嫌を損ねるのもどうかと思うので……。
「アンソニー様、食料庫への放火には魔法薬が使われていたと、今聞きました。となると、アリを呼び寄せたのも魔法薬かもしれません」
「実は、私もそれを疑っていた。で、イワン殿が以前から追いかけている案件があるんだ。巡検使としてね」
「こういうのを広域捜査とか言う人がいるね。王国直轄地と、いくつかの貴族の領地に関わる案件でね。貴族たちは自分の領地で、余所者が捜査なんてしたら嫌がる。そこで、巡検使に押しつけられるのさ」
貴族の領地は半分独立国みたいなもので、王国があれこれ口を出すと嫌がる。
そのための巡検使ってわけね。
定期的に王国中の貴族領を巡検しつつ、現地の為政者たちが対策しなかったり、広域犯罪のため権限がなくて手が出せない案件の捜査をしたり。
イワン様ほど優秀な人だからこそできるのだろうけど。
「実は、王都を中心にある種の麻薬が出回っていてね……」
世界は違えど、そういうものに手を出してしまう人が一定数いるのも人間というわけね。
「およそ百年ほど前から王都に流入しているが、効果が高いので人気があるそうだ。最初は原料や作り方すら不明でね。どこから流れて来ているのかすらわからなかった」
「イワン様がここにいらっしゃるということは、もしかしてこの町からとか?」
「正確にはこの町ではない。ここから少し離れた寂れた村に密造工房があって、そこは多分とっくに摘発されているはずだ。そこも直轄地だから、邪魔する貴族もいないしね」
「貴族が邪魔ですか?」
麻薬の摘発を、貴族が邪魔するの?
領民たちにも被害が出てしまうかもしれないのに。
「悲しいことに、地方の貧しい零細貴族でこの手の犯罪に手を染める者は一定数出てしまうんだよ。王都や大都市の悪党に唆されてしまうのだね。ろくな産業もない寒村で麻薬を作らせれば、その村の人たちの生活を豊かにできるという誘惑もある。彼らは一度得た豊かな生活を失いたくないから、麻薬を密造しているという秘密を意地でも隠そうとするからね」
麻薬の密売組織からすれば、口の堅い供給先はありがたいわけね。
大した産業もない農村からすれば、麻薬の密造を手伝えば金になる。
自分たちが中毒患者にならないようにすれば、摘発さえされなければ実入りのいい仕事というわけだ。
「麻薬には原料が必要だけど、これは色々とある。昔は植物や薬草の類が多かった。薬草は我々が定期的にお世話になる魔法薬の原料でもあるから、あまり怪しまれない。魔法薬やその原料を取り扱う商人は多く、大量に運んでも魔法薬の原料だと言われてしまえばそれまでだ。だけど……」
近年、魔法薬の需要自体が伸びているので、麻薬製造に流れにくくなったのだと、イワン様が説明してくれた。
「巡検使はたまに捜査する程度だけど、王国軍にも専門の捜査部隊があるし、麻薬が領内に蔓延ると領地が荒れてしまうので、まともな貴族なら摘発もする。それに、薬草などは現在価格が高騰し続けているので、危ない橋を渡ってまで麻薬の密造者に売る必要がないという理由もあるね」
原料の時点では、いくら麻薬を作るとはいえ、それほど高く売れるわけがないものね。
麻薬にすると利益率が上がるからこそ、悪人は麻薬の密造に手を出すわけで。
「で、ここ百年前くらいから、魔獣の素材……体液とか血液が原料の麻薬が出始めた。最初は原料が不明だったんだけど、そこは魔法薬製造の専門家による分析で判明したわけだ」
魔獣の体液が原料の麻薬かぁ……。
悪党もよく考えるものね。
「ただ、メジャーな魔獣で原料になるものはほとんどない。もしなったら、最初からそれを原料に麻薬を作るから当たり前だけど」
あまり採取できない……だと材料が集めにくいから、採取してもあまり金にならないか、労力の無駄だと思われる魔獣が美味しいってわけね。
時が経って、魔獣の研究や魔法薬の製造技術が上がったから、麻薬の製造技術も上がってしまう。
皮肉な話よね。
「もしかして……アリもですか?」
「そうなんだ。百年ほど前から王都に流れ続けていたある種の麻薬。これの原料はプロの調薬師でもなかなか解析できなかったのだけど、先月になってやっと判明したのさ。麻薬の原料は、この町の城壁に押し寄せているアリの女王が産んだ卵だったのさ」
「卵ですか?」
「あのアリたちはとても長生きするそうだ。天敵に捕食されたり病気にならなければ、働きアリでも百年以上生きられる」
長生きなのはいいけど、百年以上も働きアリかぁ……。
それなら、寿命が短い方がいいのかな?
「女王アリはもっと長生きするし、死ぬまで卵を産み続ける」
「百年以上も死ぬまでですか? もしかして……」
百年ほど前から登場した新しい麻薬。
その原料は、女王アリの卵。
アリはとても長生きする。
「麻薬を密造していた村は、以前この町を統治していたが、職務怠慢で改易された貴族の領地だった……アリが定期的にこの町に押し寄せる……もしかして……」
アリたちが、この町に押し寄せる理由って……。
ここに女王アリがいるってこと?
いるというのはおかしいか……。
何者かが、女王アリを監禁状態に置いていた。
「誰がそんなことを?」
「決まっている。今からおよそ六十年前に改易されたダストン元男爵家の連中だろうな。そして連中は、貴族でなくなってからも麻薬の密造で荒稼ぎをしていた」
アンソニー様が苦々しい表情で語る。
つまり、ダストン元男爵家の人たちはなんらかの方法で女王アリを捕らえることに成功し、女王アリが産み続ける卵を摘発された寒村の密造所に運び、そこで製造した麻薬の密売で大儲けをしていたわけね。
「なんのことはない。アリたちは、攫われた女王アリの奪還を数十年も続けているのだ。アリの麻薬が登場したのはおよそ百年ほど前。多分、ダストン元男爵家の連中が原料と製造方法を見つけたのであろう。そして、およそ六十年前に一匹の……もっといるかもしないが、女王アリの確保に成功した」
ダストン元男爵家の人たちは、女王アリが産み続ける卵を原料に麻薬の製造を行い、さらに大儲けするようになった。
ところが、町に女王アリの奪還を目指すアリたちが押し寄せるようになった。
「だから、住民に犠牲が出ても対策しなかったのね……」
領民からの税収よりも、麻薬の密売益の方が大きかったから。
「それが理由でダストン男爵家は改易されたのだが、彼らはすでに気がついていたのだ。別に貴族でなくても、裕福な暮らしができるという事実に」
ダストン男爵家の改易後、王国はアリの来襲に苦労しながら、さらに大金を用いて城壁を作ってしまった。
これにより、アリたちにとってはますます女王アリの奪還が困難になってしまう。
それでも諦めず、数十年間も定期的に城壁に押し寄せていた。
事情を知ったら、アリたちが可哀想になってきたわね。
アリに殺された人間は多いけど、それはダストン元男爵家の人たちが、麻薬製造のために女王アリをこの町に連れ去らなければ発生しなかったのだから。
「じゃあ、この町のどこかに今も女王アリがいるんですか? 六十年以上も」
私たちの知らないところで、今もダストン元男爵家の人たちが女王アリの飼育と卵の採取を続けていると?
「そういうことになる。ダストン元男爵家直系の一族はさすがにこの町にいないが、遠戚や元家臣の子孫たちなら今でもこの町に住んでいる。探ってはいるが、なかなか尻尾を出さないのだ」
城壁はあるけど、この町はかなり小さい。
改易されたダストン元男爵家の一族はいられなくなったはずだけど、元家臣や遠縁の子孫たちは今もこの町に住んでいる。
ダストン元男爵家の人たちとずっと繋がっていて、密かに匿った女王アリの飼育と卵の採取を続けている可能性は高いというわけね。
「家探しはしないのですか?」
巨大アリとはいえ、子供の背丈ほどのアリの女王ならせいぜい数倍の大きさのはず。
そんなに広い場所でなくても匿えるはず。
まさか元領主館の地下に匿うなんてことは、ダストン元男爵家の人たちもしていないはずだ。
「ここは小さな町だ。我々もさほど大きな兵力を持っているわけでもなく、ここで全家屋の家探しなどしたら動揺も大きいはずだ。ダストン元男爵家に繋がっている連中が、住民たちを煽るかもしれない。あとは、今回の騒ぎでそれどころではなくなった」
「食料庫の火災ですか?」
「間違いなく、ダストン元男爵家に繋がっている連中の仕業だな」
アンソニー様が全家庭の家探しを計画していると勘違いして、それを防ぐために火をつけたのかしら?
「でも、おかしいですね」
「ユキコ君もそう思うかい?」
「はい」
食料庫を焼いてしまったせいでこの町は食料不足となり、私たちがお店をやらなければ、アリたちに攻め落とされるところだった。
もしそうなったら、女王アリはアリたちに奪還されていたであろう。
女王アリが産む卵がダストン元男爵家の人たちの富の源泉なのに、どうしてそんなことをしたか不思議よね。
「それだけ、ダストン元男爵家の連中が危機感を抱いていたのでは? 形振り構わず代官様の家探しを怖れたとか?」
「でもね、ボン君。あの時点で、アンソニー様は町の全家屋の家探しをする決定はしていなかった。あくまでもそういう意見も出てきたという話なの。その時点で、そんな危険なことをするかしら?」
「そう言われると……」
「詳細な情報が取れず、ダストン元男爵家に繋がる人たちが先走りしたのでは?」
ファリスさんの意見はあり得るか。
さすがに、ダストン元男爵家の人たちはこの町に入って来ないはず。
顔見知りの住民が多いので、アンソニー様に通報されてしまうかもしれないから。
「いや、ダストン元男爵家の改易は六十年以上も前なので、実は今の当主の顔も知らないのが現状だ」
「警戒しないのですか?」
元領主なので、領地を取り戻そうと策謀するかもしれないのに……。
「王国からすれば、零細男爵の、それも改易された連中に警戒なんてしないのさ。代々の代官も、ダストン元男爵家の連中よりもアリへの対処が忙しかったというわけだ」
そして、イワン様が女王アリの卵を用いた麻薬の密造と密売をダストン元男爵家の人たちがしているということを突き止めたのはつい先日のこと。
顔はわからないのかぁ……。
「今頃、密造所の方は抑えられているはずなので、そこで大半が捕まっているはずだ。全員とはいえないが……あとは外のアリをどうするかという話なんだよ」
「この町に隠されているであろう、女王アリですか……」
元貴族でも、平民の格好をして普通に暮らしていればわからないかぁ……。
偽名を名乗れば、この世界には戸籍なんてないから、いくらでも誤魔化しようがある。
平民なんてちゃんと納税をしていれば、王国も貴族もそんなに気にしないというか……。
どうせ貴族ではなくなったので、家名なんて名乗るわけがないというのもある。
「あのぉ……一ついいですか?」
「構わないよ。お嬢ちゃん」
恐る恐る手をあげたララちゃんだけど、アンソニー様は優しかった。
それにしても、アンソニー様もララちゃんは『お嬢ちゃん』なのね。
私は『お嬢さん』……某有名司会者の如く、『お嬢様』よりはマシか……。
「もしかしてなんですけど、女王アリってもう死んでしまったのでは? 寿命がきて」
「その可能性はあったわね!」
女王アリが産んだ卵を用いた麻薬の登場から百年ほど。
ダストン男爵家の改易から六十年以上。
魔獣であるアリが長生きだとしても、もうそろそろ寿命という可能性はあった。
別に、捕らえた時点で女王アリが一歳だったなんて保証もないのだから。
「女王アリが死んでしまった以上、もうこの町に価値はなく、しかもイワン様がダストン元男爵家の人たちの裏稼業を暴きつつある。ここは証拠隠滅したいところね」
ダストン元男爵家は、麻薬で一世紀以上も稼いできたのだ。
特に捕らえた女王アリが死んでいたとしたら、もうこの町に未練はないはず。
「改易された恨みもありますしね」
「アリは、仲間の死骸を巣に持ち帰ります。この町がアリによって陥落すれば、当然女王アリの死骸も持ち帰るはずなので、証拠隠滅もできますし……」
ボンタ君とファリスさんの意見が正解なのであろう。
貴族の頃から、麻薬の密造と密売で稼ぐような連中だ。
ダストン元男爵家の善意になんて期待できないわね。
この町が全滅すれば、恨みも晴らせて好都合くらいにしか思っていないのかも。
「ならば、この町にいるであろう食料庫放火犯を炙り出し、これを捕らえて女王アリの死骸のありかを探すしかないな」
女王アリの死骸をアリたちに返してしまえば、もう二度とこの町にアリたちが押し寄せることはないはず。
アンソニー様もそう考えたのであろう。
「家探しはしないのですか?」
「今の状況で、そんな余裕がないのだ」
食料はすでに配給なのだが、何分確保できた分が少なく、今でも住民同士や旅人との諍いが多いそうだ。
当然それを防ぐために人員を割く必要があり、そんな余裕はないとアンソニーさんは断言した。
「お嬢さんがいなければ、もっと事態は切迫していた。あとでお礼はさせてもらうよ」
「いえ、私たちは商売をしているだけなので」
「いや、正直値上げナシはありがたい。本当なら、もっとお金を取っても批判などされない金額で食事を出してくれているのだから」
今の金額でも、メニューを絞って数を売っているので儲かっていた。
ララちゃんたちにも、臨時でボーナスとか出しているし。
でも、この町だとお金の使い道がないって、ボンタ君もファリスさんも言っていたわね。
みんな、食事以外にお金を使わないから、店を開けてもお客さんが来ないと言って、他のお店も閉まっているのよね。
私たちが泊っている宿屋ももう素泊まりしかできないで、料金を下げたくらいだから。
「イアン殿から聞いたが、お嬢さんは魔法で食料を仕舞えるとか?」
「はい。食料ならそれなりに量を」
「では、限界まで商売をしてほしい。そうすれば、食料庫に放火した連中も焦るはずだ。そしてお嬢さんを狙う可能性が高い」
そうか。
私が食事を提供できなければ、この町はもう少ない配給に頼るしかなくなる。
食料不足で暴動が起これば、呆気なくアリたちに攻め落とされてしまうであろう。
犯人たちが混乱のドサクサに紛れ、城門の扉を開ける可能性もあった。
「自分たちもアリにやられるかもしれないのに……」
食料庫に放火した連中だって、もしこの町が落ちればアリたちによって殺されてしまうはず。
ララちゃんは、そんなことをした犯人たちが理解できないのであろう。
「麻薬のせいだろうね。アレは中毒性が高いから」
そういうことか。
食料庫に放火した犯人たちは麻薬中毒に陥っており、言うことを聞いていれば麻薬を貰えるから、どんな無茶なことでもしてしまうわけね。
「となると、他に主犯がいますね」
「彼らをコントロールしている人がいる。ダストン元男爵家に近しい人かしら?」
でも、この町が落ちれば主犯も死んでしまうのに。
「長年アリの麻薬で財を成した家だ。アリが忌避する魔法薬でも持っているのでは?」
イワン様、鋭い。
ここが落ちたら、自分だけ逃げる算段なのか……。
この薬、女王アリの捕獲に使っている可能性も高いわね。
「えっ? じゃあ、もしここがアリに落とされて住民が全滅したら、また何食わぬ顔で捕らえた女王アリを持ち込むのか」
この町にアリたちが押し寄せるのは、半ば習慣化している。
新しい女王アリを持ち込めば、またこれまでどおりというわけか……。
「ダストン元男爵家のことを知る住民も全滅するから、かえって都合がいいかもしれない」
今度は、堂々と町に入れるわけね。
そして、またこの町を拠点に麻薬を製造して稼ぐ。
他の人たちのことなんてどうでもよく、ただ自分たちの一族が儲かればいいなんて、最悪な人たちね。
「だから、連中を炙り出すためにお嬢さんにはお店を続けてほしいんだ。お嬢さんに危険があると困るので、信用できる兵士たちを店員に化けさせてつける。無料で使ってくれ。もしもの時には護衛にもなるという寸法だ」
「増員はありがたいですね」
段々と販売量が増えており、ちょうど人手が欲しかったところなのだ。
無料ってのもいいわね。
兵士たちはアンソニー様から給料を貰う立場だから、給料は出さなくてもいいのかな?
ボーナスくらい出した方がいいのかしら?
「では、私もお手伝いさせていただこう」
「ええっ! イワン様がですか?」
伯爵家の次男に、調理や販売をさせるのはちょっと……。
「地方貴族領の巡検と並行して、何年もこの麻薬事件を追いかけていた身なのでね。犯人たちがユキコ君を狙う可能性が高い以上、その傍で見張るのは任務なのさ。気にしないでくれ」
気にしないでくれと言われても……。
「過去に潜入でそういうことをしたこともあるから、売り子くらいはできるさ」
「そうだな。イワン殿は腕も立つ。今お嬢さんになにかあると、食料不足でこの町に暴動が起きかねない。受け入れてもらうしかない。なにもなければ、お店の雑用でもさせればいいが……なにもないわけがないな」
私がダストン元男爵家の人たちに狙われるのは、ほぼ確実というわけね。
イワン様がいれば安心……でも、なんか浮きそうな気がしなくもないんだよなぁ……。
大丈夫かしら?
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