第14話 休日の狩猟 

「俺様、働きすぎだからお休みがほしいのに……」

「お爺さんが、あなたに休みを与えるなって言っていたのだけど、私たちはお休みなのよ。だから、私たちの遊びにおつき合い願いましょうか」

「ユキコとのデートなら、俺様大歓迎」

「それはないです」

「厳しいなぁ……」


 今日は店休日。

 お店はお休みなのだが、私はそうでもない。

 この日に、王都の外に出て魔獣を狩るからだ。

 狩猟は私の趣味でもあり、実はお休みのうちなのだけど。

 好きだからやっているわけで、同級生たちからは変わっているって言われていた。

 仕事でもあるというのに、ララちゃんは毎回、ボンタ君も今回からつき合ってくれるそうだ。

 ララちゃんは、野獣によって家族を殺され故郷を追われた。

 そのため、少しでも強くなりたいという目標が。

 ボンタ君も私と同じく狩猟が好きで、あとは独立資金を効率よく貯めるためと、食費を浮かせるため。

 さらに、私流の獲物の処理と解体を学びたいそうで、私が同行の許可を出していた。

 ララちゃんは、自分の身長よりも長い槍を持ち、レザーアーマーを装備。

 ボンタ君は、大きなバトルアックスと古びたチェーンメイルを装備していた。

 なんでも、元々は親分さんから貸与されたもので、就職祝いでプレゼントされたのだそうだ。

 親分さん、やっぱり優しいなぁ。

 ちゃんと頑張っている子には支援を惜しまないようね。

「で……あなたは求婚している鳥?」

「俺様、超強くて目立ちたがりだから」

 金がありすぎる家の子ってのも考えものだ。

 ミルコ青年は特別あつらえのロングソード……刀身の質はいいけど、装飾が派手ね……と、同じくキラキラしている金属鎧を装備していた。

 お金をかけているだけあって防御力はピカ一なのだけど、その光る鎧は大丈夫なのかしら?

 野生動物なら逃げるけど、魔獣だとそれに魅かれて集まってくるはず。

 それも、光る鎧を着ているミルコ青年目がけてだ。

「(ここは、魔獣の生息数が少ないからいいのかしら?)来た!」

 案の定、狂暴な野獣はミルコ青年の光る鎧に反応したようだ。

 かなり大きなワイルドボアが、ミルコ青年目がけて突進してきた。

「あなた、狩猟の経験ないの?」

 彼はスターブラッド家の子弟だから、教育の過程で魔獣狩りをしているはずなのに、どうしてわざわざそんな野獣を怒らせるような装備を……。

 やっぱり、どこか抜けているというか、世間知らずなのよね。

「俺様、大ピンチ!」

「見ればわかるわよ。ボンタ君、手はずどおりに頼むわね」

「女将さん、任せてください」

 ボンタ君は、自警団時代に散々狩猟を経験している。

 強くなって、自警団員として舐められないようにするためだ。

 そのため私の指示を受けると、冷静に足音を立てず移動し、ミルコ青年目がけて一直線に向かってきたワイルドボアの横合いから強く一撃を入れた。

 バトルアックスの刃物の方ではなく、斬れない反対側で強くぶん殴ったので、巨大なワイルドボアは一撃で気絶してしまう。

「俺様、助かった。実はこれ、お祖父様が昔使っていた鎧を拝借してきたんだ」

「無駄金使って注文しなかっただけ、成長したのかしら?」

「ユキコ、昨日の今日で、鎧の特別注文なんて無理だって」

「それもそうか」

 RPGとは違って、武器や装備は使う人に合わせて細かい調整が必要だものね。

 普通はどんなに急いでも数日はかかる。

 昨日狩猟の話を聞いたミルコ青年が、特注の装備を揃えられるわけないか。

「でも、サイズがピッタリですね」

「お爺さんの若い頃と体型が同じってことね」

「俺様も驚いた」

 同時に、どうしてお爺さんがこんな派手な鎧を使っていたのか。

 昔は普段の商いと合わせて、空いている時間に魔獣を狩って借金の返済にあてていたはず。

 この光る鎧で魔獣を寄せ集め、一匹でも多くの魔獣を狩って金を稼いだのかもしれない。

 今は好々爺しているお爺さんだけど、若い頃はかなり苦労したのであろう。

「女将さん、それで処理の方法ですけど」

「これは最上級の方法よ。見ていて」

 まずは念のため、気絶しているワイルドボアに『眠り』の魔法をかけた。

「ユキコは魔法が使えるんだ。俺様、驚き」

「攻撃魔法は使えないけどね」

 個人的な推察として、どうやら私は料理に関係する魔法、料理に使うと便利な魔法はすぐに習得できるようだ。

 こう派手な、火の玉を飛ばすとか、カマイタチとか、そういう魔法は一切覚えられなかった。

「次に、ワイルドボアの目をこの布で塞いで。解体はあとでやるから脇に置いておいて」

「わかりました」

 ここは魔獣の巣で、一匹毎に解体していたら危険だし効率も悪い。

 ちょうどいい誘引剤……光る鎧を着たミルコ青年のことだけど……がいるので、さっさと必要な数のみを捕獲して、解体のために他の場所に移動するとしよう。

「トドメは刺さないのか? なんなら俺様が」

「それは、あとでやるからいいのよ」

「効率悪くないか?」

 ハンターや猟師が本業の人はそれでいいのだろうけど、うちの本業はあくまでも飲食店。

 多くの食材を肉屋に卸すためではなく、品質のいい肉を必要量得るための狩猟なので、獲物は生かしておいて、あとで丁寧に処理するのが基本だからね。

「いっぱい倒して、余ったら売ればいいのにな」

 ミルコ青年はスターブラッド家の人間だから、基本的にはそれで間違っていないのよね。

 うちのやり方では、その方法だと適切ではないのだけど。

「最後に、あなたもこれまでの方法で一匹魔獣を確保したら? 私のやり方と比べてみればいいのよ」

「なるほど。俺様、結構強いから、ワイルドボアくらい余裕だぜ」

 私たちは、同じ方法で三匹のワイルドボアを確保した。

「おりゃぁーーー! 俺様の力を見たか!」

 そして最後に、ミルコ青年が大きなワイルドボアの心臓に剣で一撃入れて倒し、これで狩猟は終わりだ。

 借りてきたリアカーに、眠ったままの三匹のワイルドボアと、ミルコ青年がドトメを刺したワイルドボアを載せ、魔獣がいない川の傍へと移動する。

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