第25話 天才をしのぐは好奇心
「~~~♪~~~♪」
時間の経過と共に雨足は弱くなっていき、雲のわずかな隙間から太陽が顔を覗かせる。太陽光が窓ガラスに反射して、地面に広がった水たまりへと細く伸びていた。
さっきまでの激しい雨の音とは違って、今は隣から鼻歌すら聞こえてくる。何かの歌だろうか、軽快なリズムを刻むように首を振っているのがわかる。
「あ、止みましたね
「そう、みたいだね」
一瞬僕を名字で呼んでいた気がするが、そこはスルーした。それより楽しそうに話を振る彼女に対して、どうにか調子を合わせるのに必死で、雨がやんでいることに気づいたのは彼女が傘を閉じてからだいぶ後だった。
もしかしたらまだ慣れないのかもしれない。呼びにくいなら変えてもらうこともできたが、はっきり呼びにくいなんて言われるのも怖いし。
僕は遠目で高層ビルの裏に隠れている虹を見つめた。眩しい光が目に飛び込んできたせいで、細目になってしまう。見つめる、というよりは睨み付けるが正しかったかもしれない。そんなことを考えていると、僕の目線を追ったらしい智恵が、
「知っていますか? 虹が発生する理由」
「へ?」
虹が出る理由? いきなりなんなんだ?
僕が智恵の顔を見合わせたせいでか、僕がこの話に興味をもったと勘違いしたのか、少し嬉しそうに話を始めた。
「まず虹の定義というものは、光のスペクトルが並んだ円弧状の光なんですね。分かりやすく言えば、雨粒に反射した太陽の光です。その光が雨粒のなかで反射・屈折を繰り返して七色に分かれて見えるんです。それが虹が七色だと言う理由ですね。そして発生する条件が雨粒と太陽があることが必要ですから、晴れ雨晴れという空模様になれば必ず見えます」
科学的で難しい話だというのに、淡々とした口調でわかりやすく説明してくれた。確かにここ最近は晴れ、雨、晴れという天候が順に繰り返していたことを思い出す。
「へぇ……」
思わず感嘆の声が漏れる。学年首席というから勉強一本に特化したものだと思っていたが、どうやら智恵は雑学の世界にも詳しいようだった。
こういうのを博識というのだろうか。あるいは天才。いや彼女の場合は天才というよりも努力家が正しいのかもしれない。知識を身に付けたのは彼女自身の努力と好奇心なのだから。
だがなにより、
「こういう風なのも探求部の内容の一部なんですよ。探求部の定義は『自分が興味をもったものを調べる』ことなんです」
自分が興味をもったもの、か。好奇心旺盛な彼女にとってぴったりなわけだ。勉強があまり好きではない僕からしたらわからないものだが、『勉学』すらも彼女の興味をもったものになっているのだろう。
「それでですね!」
このあとに続く言葉を何度聞いたことか。言われなくても既に予測できるくらい聞いた言葉だ。
「私は今雄馬くんに興味を持っているんです! いっぱいお話しましょう!」
さっきも言ったが、博学というより天才というより、努力家というよりも、なによりも正しく彼女のことを述べるならば、彼女はただ好奇心旺盛なだけなのである。それも重度の。
したがって今この現在、その興味の対象は僕に向けられているのであり、以前にストーカーまがいのことを受けたのであった。いや、ストーカーうんぬんに関しては、僕も彼女にそれ同等のことをしたので、強く咎めることはできないんだけど。
だがなにより僕が思っていることは、現状を踏まえた上で思うことは、
「はぁ、早く帰りたい……」
通りすぎる町のあらゆるものに目を輝かせている彼女の隣で、たったそれだけを思うのだった。
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