第52話 バレた、だが気づかない

「見つけた」


レズリ―の弟、アーサー・エヴァ―ルイスはシスカの写真を見て、赤色の瞳がきらりと光った。


「この男だ、あの結婚式の時にいた男は」


アーサーはそういって立ち上がった。


「これからこの男・・・シスカ・スチュワートに会いに行く。行くぞ、ルーシー」


目が覚めるような緋色の髪がふわりと揺れた。アーサーの専属メイドルーシー。といっても彼女がアーサーの専属になったのは最近のことだった。


「いきなりどうされたんですか、いつもはこんなこと言わないじゃないですか」


くせ毛で短髪のルーシーは緑色の瞳でアーサーを見つめた。


「あぁ、この男は特別なんだ」


いつもクールで無表情で、何を考えているかわからないアーサーがこんなに興奮気味に話すなんて。何者なのよその男。

ルーシーの頬に汗がつたった。

きっととんでもない王国の王子か、どこかの王様か、はたまたカリスマ執事ね。


「待てよ・・・・この男!」


アーサーは、あることに気づき大きく目を見開いた。


「ハックシュン」


一方その頃、ただの執事であるシスカは掃除をしながらのんきにくしゃみをしていた。

ジゼルの誕生日パーティも終わりのどかな日々が戻ってきたジゼルのお屋敷。ジゼルは毎日子供のようにハトのぬいぐるみを抱きしめて寝ている。

誕生日から数日はハトのぬいぐるみを絶対に手放さないジゼルお嬢様だったが、汚れたらどうするんですかという俺の説得によって寝るときと部屋にいるとき(たまに)以外はお部屋にお留守番になった。


だがハトのぬいぐるみにマスク様と名前をつけるのはなんとかならなかったのだろうか。

恥ずかしいやら大事にされているようでうれしいやらでシスカは複雑な気持ちだった。

初めて誕生日プレゼントを用意し、渡し、これだけ喜ばれ大事にされていれば当然嬉しい。

シスカは、そんなジゼルを見て照れくさい気持ちを抱いていた。


「シスカ殿、なんだかご機嫌でありますな」


後ろからマチルダさんに声をかけられて俺はびくりと肩を震わせた。


「いえ・・・そんなそんな」

「顔がにやけているでありますよ。さては誕生日の時に何かあったでありますね」

「い、いや、何もなかったですよ」


確かに何もなかった。

今後、何かあることはあるのだろうか。

いや、何を考えているんだ俺は。


首をぶんぶん振っていたシスカは、玄関のチャイムがなってハッとした。

客人?

来るとしたらレズリ―お嬢様か?でも、今日はジゼルお嬢様からレズリ―お嬢様と会うようなことは聞いてないぞ。


マチルダは、首を傾げて玄関へと足早に向かっていった。


「マチルダさん、転ばないでくださいよ!」

「大丈夫でありま・・・っ」

ずだんと何もないところで転んだマチルダを見下ろしながら、シスカはやっぱり・・・と眉を下げた。


「大丈夫ですか」


シスカが手を貸して、マチルダが起き上がっているうちに、その場にいなかったロゼッタが玄関にいた。


「どなたでしょうか」


扉の前で、アーサーは専属メイドのルーシーと立っていた。


「あの仮面の男、調べたらジゼルの執事だったようだ」


腕を組んでシスカを待つアーサーは、シスカが出てくるのを待っていた。

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