第41話 特別な存在だといわれたら
馬に乗ったエイズラは、そのまま馬車まで突っ込んでいくような勢いで馬を走らせていた。
「あの男・・・嘘だろ」
「鬼のような形相で銃をこっちに向けているんだけど・・・兄ちゃんどうしよう」
運転している長男の男が驚愕した表情で振り返った。
冷静な次男の男が銃を窓からエイズラに向けた。
「に、にいちゃっ・・・それはやばいよ。死んじゃったら」
「元々そういう覚悟だったろう?俺はやる」
次男がエイズラに銃を取り出し窓からエイズラを撃とうとした時、麻袋が勢いよく破られ顔を真っ赤にしたライムが飛び出してきた。
「なっ・・・お嬢が飛び出してきた!?」
ライムは、次男に飛び掛かり銃を持つ手を押さえて男の足をはらい地面に男をたたきつけて取り押さえた。
「クソっ!こいつ、お嬢様じゃないのかよ」
「観念しろ、お前たち!」
そう叫んだライムの頭に、さっき次男が手放した銃を持った臆病な三男が震える手で銃を突きつけた。
周囲の空気がぴきっと凍り付いた。
「そうだよね、兄ちゃん」
三男はブツブツ何かを言いながら目を大きく見開き銃をライムに押し付けた。
「おいらたち、ずっと貧乏で何度も死にかけたんだ。ずるいよね、毎年毎年、海で遊んでさ、あんな立派な家がいくつもあるだなんてさ。コイツ、お嬢様じゃないんだっけ、じゃあコイツを人質にしてお嬢様を出させようよ。あそこにいたんだから、コイツもあのお嬢様の仲間なんだよね?」
「この男・・・」
ライムが三男を睨みつけると、
「相手を殺す覚悟で成功させないといけないよね。ねえ、兄ちゃんを離してよ」
三男の震えた手が止まった。ライムの額からは汗が流れる。
だが、その刹那窓から差し込んでいた日の光が大きな影で遮られた。
「誰に銃を向けている」
馬車に乗っていたものが馬車に乱入してきた人物に注目した。
エイズラは、馬から馬車へ窓から飛び乗ってきたのである。
ライムに銃を向けていた三男の顎に思いきり蹴りをいれ気絶させ、次男を思い切りグーで殴りつけ、両腕で首を絞め落とした。長男は馬車から逃げようとしたがエイズラに捕まって次男と同様首を絞め落とされた。
「こいつらは縄でぐるぐる巻きにして馬にひかせよう」
エイズラは、馬車の後ろで布の下に丸めておいてあるロープを見つけ、3兄弟を1人1人ぐるぐる巻きにした。
パンパンと手を叩いたエイズラは運転席に座り馬たちを止まらせ、エイズラが乗ってきた馬であり、今日レズリ―達が乗ってきた馬の1匹でありエイズラが世話をしているエイズラホースを指笛で呼んできた。
「よし、別荘に帰るぞ」
なんという慣れた動作であろうか。
ライムはこの淡々と人にこなせないような凄いことをしてしまうエイズラを心から尊敬しこの世界で一番の執事だと改めて思ったのであった。
***
この事件後、三兄弟は馬で何時間も引きずられ泣きながら反省していた。
誘拐犯三兄弟は前の別荘の管理人やシェフを脅して別荘を乗っとっていたらしい。肝心の管理人たちはこの別荘にくるまでの山林に小さな小屋がありそこに閉じ込められていた。
避暑の間にやってきた三兄弟は人を殺すのが怖いのかその山小屋に冷房をきかせ三男がご飯を運んでいたらしい。
レズリ―が今日の楽しい思い出をこの事件で台無しにさせないようにとエイズラはこの誘拐事件を非常に静かに水面下で動き鎮火していった。
閉じ込められていた3人を解放し、病院へ搬送。代わりに三兄弟を山小屋に閉じ込め、翌日に警察に受け渡すようにするといって監禁し、その日の家事はすべてエイズラが行った。
「エイズラ、別荘の管理人たちはどうしたんですの?」
レズリ―の問いかけには、
「お嬢様が海で遊んでいるときにどうやら3人とも痛んだ魚でお腹を壊したらしく病院に。幸いなんともないみたいですぐに退院できるそうですよ」
エイズラは笑顔でそう答えた。ライムはそんなエイズラを横目に美味しいエイズラの手料理を食べていた。
「では、後の片づけなどは私がやっておきますので、お嬢様たちはゆっくり部屋でおやすみになっていてください」
エイズラは、そういってキッチンに引っ込んでいった。
「洗い物手伝いま」
「いい、私が行く」
シスカの言葉をライムが遮り、早歩きでライムはキッチンに向かった。
「エイにぃ、手伝うよ」
「あぁ、悪いな。ライム」
エイズラは、流石の手際の良さで皿を洗っていく。
彼が夫だったらきっとなんでもこなしてしまって妻の役目はないのかもしれないなと、ライムはふと考えた。
「今日は、ありがとう。エイにぃ」
「当たり前だ」
エイにぃはいつだって優しい。私が誘拐されたとき、何かあったとき、いつも危険を顧みず助けてくれる。
「あのさ、エイにぃ」
「なんだ」
「私って、エイにぃにとってどんな存在なんだろうか?」
ライムの問いかけにエイズラは一瞬皿を洗う手が止まった。ライムは、皿を拭く手が既に止まっていた。
「特別な存在だ」
エイズラは、はっきりとライムにそういった。
ライムの顔がかあっと赤くなり、熱くなる。そんなこと、聞いたことないし言われたこともない。ライムは、心臓がバクバクいうのを感じた。
「それって・・・」
「妹のような・・・そんな存在だ」
え?
エイズラは、そういってまた手際よく皿洗いを続けた。
い、いもうと・・・ライムはがっくりと肩を落とした。
でもまだあきらめない。私はいつかエイにぃのお嫁さんになるんだから。
ライムはキッと険しい顔になり、皿を丁寧に磨いていった。
そんなライムを兄が妹を見るような瞳で見たエイズラはふっと微笑んだ。
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