第17話 屋敷に帰してほしい?そんなことよりキスをしましょう

「どうして僕が?何故レズリ―お嬢さまの執事になるんです?僕が仕えているのはジゼルお嬢さまです」


混乱するシスカに対し、レズリ―は眉をぴくりと動かした。


「それはワタクシがそう決めたからですわ」


「・・・特に理由はないんですね。僕を屋敷に帰してもらえませんか?僕がいないとジゼルお嬢様が・・・というか」


屋敷がめちゃくちゃになる!!!!!主に同僚の手によって!!!!


「いいえ?それは許さないわ。もうあなたはワタクシのモノになったんですもの」


レズリ―は、腕を組んでシスカを見下すような目で見つめた。


「なっていません、僕は無理やりここに連れてこられたんです」


シスカがはっきりとそういうと、レズリ―はやれやれと首を振った。


「そうはいっても仕方ないですわよ。それが決まったことなんですもの。あなたにはしてほしいことがあるんだから」


そういってレズリ―はエイズラとライムを見た。


「これからシスカは、ワタクシの部屋で寝泊まりするの。一緒に過ごすんですのよ」


「え?」


シスカは予想外の言葉に素っ頓狂な声をあげた。


「ヴァ!?」


だが、シスカより驚いている者がいた。

エイズラは、ゴブリンがひき殺されたような声を出し目玉が飛び出んばかりに目を大きく見開いた。

すると、エイズラの全身から汗が吹き出し、がたがたと震え始め、顔がゾンビのように青白く変色し始めた。


「どうしたんですの?エイズラ」


「いっ・・・ぇ?う・・・?」


「おい、エイズラしっかりしろ!」


ライムがエイズラを揺すりながら話しかけるが声が届いていないらしく、全身から汗が吹き出し皮膚を溶かしている。


「ど・・・ぇ?」


「レズリ―お嬢様、何故今回は地下室行きでなくレズリ―お嬢様の部屋で寝泊まりなのでしょうか?」


エイズラの言葉をライムが翻訳すると、レズリ―は首を傾げた。


「いいじゃない、ワタクシだって話し相手がほしいんですわ」


レズリ―は困惑するシスカを見つめて微笑んだ。


「着替えたらワタクシのお部屋に来なさい」


この世には、理解はするが納得はできないということは多々存在する。

そういう事柄というのは大体、頭で理解し、心が納得していないということだろう。


シスカは今日誘拐され、レズリ―の執事として働くことになった。それは理解できる、今実際に自分の身に起きていることだからだ。だが、そんなこと納得できるわけもない。

しかも何をさせられるのかわからない。


「僕を屋敷に帰してください!」


エイズラとライムにお願いするシスカだったが、何度いってもことごとく無視され、というかエイズラの表情には生気がなかった。

2人に連れていかれたのは、執事服が沢山かかっているクローゼットのある部屋だった。


その部屋に行く間、メイドが何人かこちらを哀れそうな目で見ているのが見えて、本気で自分は囚人のような気持ちになりそうだった。だが、すれ違うメイドたちに対し、さっき廊下を歩いてきたときもそうだったが、執事は一人もいなかった。


「メイドさんが多いですね」


「あぁ・・・執事は俺しかいない」


「えぇ!?」


シスカが驚いてエイズラを見ると、エイズラは少し誇らしげに口元を歪めていた。


「お嬢様に近づく男は俺だけでいい、俺が全部やればいいだけだ。俺はお嬢様のためならなんでもできるからな。だから他の執事には全員やめてもらうことにした」


ふふんと鼻を鳴らしたエイズラに、シスカは全く尊敬の念を抱くことができなかった。


「なのに!なんだ、貴様は、殺してやる!どうして貴様はお嬢様の部屋に呼ばれるんだ!?僕だって呼ばれたことないのに!?しかもよくわっからない見ず知らずのお前が!死ね!田舎に帰れ!」


酷い暴言である。シスカは、冷静さを失ったエイズラに対して冷静だった。

そんなの俺にわかるわけないだろう・・・。

それに俺に帰る場所なんてない。家出してきたのだから。ここを出たら俺は自由なのだろうか。でも、きっと俺はここを出て自由になって、幸せになったところできっと。

ジゼルお嬢様とマチルダさんのことを思い出して、後悔しながら生きることになるだけだろう。


***


「またレズリ―お嬢様であります」


マチルダがそういうと、ジゼルは俯いた。


「そう・・・」


ジゼルは、膝の上で拳を握った。やっぱりそうなんだわ、結局はこうなるの。

レズリ―はいつもそう。

従妹であるわたしに新しい使用人がくると色々な手段で奪っていく。わたしが気に入らないから一人にさせようとしているんだわ。レズリ―は、わたしがエルフだってこと、知っているもの。


『お母様から聞いたわ、あなたエルフなんですってね』


『・・・・・・・』


『エヴァ―ルイス家の恥よ、もうあなたとは遊ばないわ』


小さい頃、レズリ―に言われた言葉だった。

仲良くなっても結局離れていく。人に壁を作れば、傷つかない。

あの夜みたいに、泣くこともない。


わたしの持っている数少ないものを、レズリ―は容赦なく奪っていく。

そのたびに傷つくのが辛くて、怖くて、最初から突き放すようになった。自分から壁を作るようになった。

ジゼルは、シスカの顔が浮かんでぎゅっと拳を握った。


「お嬢様、シスカ殿を連れ戻すでありますか?」


マチルダは、唯一レズリ―に連れ去られても絶対ここに戻ってくる。

だからレズリ―はマチルダを手に入れようとしている。


「・・・どうせ無理よ」


そういうと、マチルダは微笑んだ。


「無理じゃないであります、現にジゼルお嬢様が結婚する運命が今こうして覆っているでありますよ、だから運命は覆すことはできるであります。それを王子様がお嬢様に教えてくれたでありますよね?」


マチルダがそういうと、ジゼルははっと目を大きく見開いた。


「・・・えぇ」


「大丈夫であります。ジゼルお嬢様、あの屋敷に何度もいっている私が一緒に行くでありますよ」


マチルダは、そういってジゼルを安心させるようににこっと微笑んだ。


「レズリ―お嬢様は、意地悪でジゼルお嬢様から使用人を取り上げたいだけのように思うであります、シスカ殿は悪いようにはされないと思うでありますよ」


***


「し、失礼します・・・」


シスカが恐る恐るレズリ―の部屋に行くと、レズリ―はピンクのぬいぐるみや人形だらけのベットに座っていた。


「シスカ、こっちに来て座りなさい」


レズリ―はぽんぽんと自分の隣を指した。

シスカは、戸惑いながらレズリ―の隣に腰かけた。


「あの、何か仕事をするわけじゃないなら早く屋敷に帰してほしいのですが・・・」


「だめよ」


レズリ―は厳しい瞳でシスカを見上げた。


「これからあなたには、ワタクシとキスをするのよ」


「・・・・・・?」


真剣な表情でシスカを指さすレズリ―に、シスカは首をぼきっという音がするまで傾げた。

それをレズリ―のベットの下で聞いていたエイズラは最大風速で訪れたストレスに吐血しそうになった。

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