第14話 戦う理由

脱出の準備が進められた。

本田、佐藤、中村の三人は脱出プランを練った。「指揮官は自分ではないのか」と、この期に及んで階級をたてにする羽田は誰にも相手にされず、あげく本田に凄まれ、しぶしぶほかのメンバーと、物資の捜索に加わった。

5階には思ったよりも保存食になるものが多く、本田の背嚢に多く詰め、あとは均等に分けた。

自衛官は緊急時の出動のため、常に背嚢には何日か分の着替え、水、食料などを準備している。その中にはマッチやライター、トイレットペーパーや簡易トイレなどそれ一つ背負えばサバイバルができるようになっているため、物資は十分に集まった。田中の食料も一か月分以上になった。

脱出は北門からに決まった。正門と違い、付近に隊舎はなく、奴らの中心地だと思われる隊舎や厚生センターから大きなグラウンドを挟み、かなりの距離がある。

問題は連隊駐車場までの移動と、そこからの動きだった。

 まさに駐屯地の中心であるため、ルートは多い。大群に遭遇した時の予備ルートをすべて洗い出し、頭に叩き込んでいった。

小銃は7~8割が大型トラック、残りが中型トラックに積載されているが、恐らく弾倉はすべて大型トラックに積まれていると佐藤が言った。できれば2両に分けて出たい。【ドゥーン・オブ・ザ・デッド】でも、トラックは一両横転してしまう。何があるかわからない。余裕があれば移し替えることになった。

どのみち、弾薬はすべて、射撃指揮官が乗る予定だった高機動車に積まれている。これを移し替えるのが最優先事項だった。

レーションは各班ごと、係の学生が集めて乗車予定のそれぞれのトラックに積んでいた。均等ではないが分けてある。

作戦の説明のため、全員が屋上に集まった。


出発は約一時間後の1300


 「今のうちに飯を腹に入れておけ」


 と、本田に言われ、全員がパンをかじった。味を感じた者はきっといないだろうと、中村は思った。

 作戦は中村の口から伝えられた。屋上で、ルートを目で確認しながら、時間をかけて全員の頭に刷り込んでいく。

 洗濯工場の裏の倉庫を抜け、グラウンドの外周を走り、大回りして連隊広場を目指すルートが一番安全だと思われていたが、当日、2中隊が山での訓練準備で20人はいたと、田中が言った。騒ぎに気付くのが遅く、先に民間人が来た可能性もある。倉庫のすぐ先に北門があるからだ。本田が先行し、確認することになった。

 第二、第三のルートもグラウンドの外周を行くことには変わりない。隊舎、厚生センター、食堂の3つの並びを抜けるのは危険すぎる。

 小銃は本田と佐藤が持った。射撃の腕が段違いだからだ。本田に至っては小銃を持っていても一番速く走れる。

 屋上から洗濯工場はよく見える。今のところ、4~5体のゾンビが出入りしているように見える。本田が降下し、地上から、田中が屋上からの射撃で排除することにした。そのため、二丁の銃を田中に託した。一弾倉は必ず打ち切れと本田に言われ、田中はうなずいた。

 続いて連隊駐車場での行動及び、車両乗車区分が本田から達せられた。大型トラックを本田が運転、羽田、牛島、河田が乗車。中型トラックを佐藤が運転、中村、宮城、富田が乗車となった。

 弾薬等の積み替えを本田と佐藤の射撃で支援。それが無理な場合は一度車両に乗り込み、屋上で叫ぶ田中の声に奴らが引き寄せられるまで待機することになった。田中が叫ぶ合図は本田の発煙筒だ。

 できる準備は終わった。出発まで残り20分。

 各々仮眠を取ったり休息をしていたが、中村は双眼鏡で周囲を確認し続けていた。自分たちのいる隊舎や、その周辺に、ゾンビの姿がないのが逆に気がかりだった。

 中村に近づく男がいた。


「なぁ、中村、ゾンビ映画でもさ」

 

 佐藤鋭一だった。





本田は一人で仮眠をとっていた。もちろん眠れるわけがない。しかし、眠れなくとも、目を閉じて瞑想状態になるだけで効果はある。一人静かに呼吸を繰り返しながら、遠い昔のことを思い出していた。

 

25歳の同窓会の時だ。

 当たり障りのない、「今何してる?」という質問に、「自衛官だ」と答えると10年ぶりに会う友人は皆


「さすが自衛官だ。すごい体だ」


 と、俺の体をほめた。

 そのたび、「俺のような体の自衛官は5%もいない」と言いかけて、やめた。

 駐屯地が地元にあれば違ったのかもしれないが、皆、自衛隊の訓練は厳しく、いい体をしていると思っていた。

 厳しい訓練は教育隊だけだと言っていい。普通科であれば30㎞から60㎞の行軍もあるが、リタイアしても成績になんの影響もない行軍の何が厳しいものかと思う。普段後輩に威張り散らしている奴らほど、平気な顔でリタイアする。


「日本を守ってくれよな」


 酔っぱらった友人がしきりにそう言った。


「なんたって本田は国守ってるからな」


 そういわれるたび、心が痛んだ。


 PAC3などの迎撃ミサイルで北からの脅威に備えている部隊もある。西方の水陸起動団など、警戒態勢の元、厳しい訓練を行っている部隊もある。だが、ごく一部だ。15万人いる陸上自衛官のほとんどは国を守るふりをしているだけだ。

 俺は違う。俺は国を守る自衛官だ。そう言える自分になるために、レンジャー課程に行き、特戦群に入った。だがそれも無駄だと悟った。国を守る自衛官にはなれなかった。ならばせめて、全力で国を守るふりをしようと、体を鍛え続けた。

 速い動きと持久力に大きな筋肉は邪魔になる。その両立にはものすごい努力が必要だったが、苦にならなかった。俺のこの逞しい姿が国民に安心を与えるのだと言い聞かせた。

 体が大きくなればなるほど、見当違いの賞賛は増えた。そのたび、


「俺は何をしているのか」 


 という気持ちになった。作り笑いだけがうまくなった。


 だが、今は違う。

 もう作り笑いは永遠に必要なくなったのだ。

 田中の言う通りかもしれない。ヒロイズムに酔っているのかもしれない。だが、そんなことは関係ない。

 俺は今から、国を守るために降下する。

 

 俺は、国を守る自衛官だ。



 




 





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