第102話 エピローグ、その3~冒険依頼~

「で、では彼女が召喚された時にお母様が言っていた“とうとう替えの利かない人物が異世界に奪われた”という言葉についてはどうなるのですか?」




アルファはまだ少し納得がいかない様子でルクレシアに聞いた。




「あら、それも間違いではないでしょう?彼女は地球にとっては替えの利く人物だったけれど、彼にとっては替えの利かない人物だった。それだけの話よ」




ルクレシアは何という事もない、といったように答えたが、それこそが、今回の出来事の全てだとも言えた。




未来の地球にとって本当に必要なのはカナタだった。


だがカナタに必要だったのはカナだった。




たったこれだけの事実が、地球のみならず、異世界も管理者の世界をも巻き込んだ今回の出来事の全容であり、全ての答えだった。




「“彼女の身代わりになって貰う”と言う言葉については?」




ベータもまた自身が騙されていた事に納得して無いようであった。


その顔は明らかに不機嫌そうな顔だ。




「それも同じ事よ。彼が異世界へと行く事になった時点で、どのような未来を用意しても、必ず彼女か彼のどちらかが死ぬ運命しかなかったの。今回、奇跡的に彼の魂は保護されたけれど、肉体は滅んだの。今の彼が、どのような状態にあるのかは正直に言って、私にも分かりません。何しろ彼が追放された場所は本当に我々にも未知の世界なのよ」




ルクレシアがそう言った瞬間に全員の顔が青くなった。




「そ、それじゃ、もしかすると今の教官は死んでいるって事ですか?」




アリシアが慌てたように聞いた。




「そうですね。人間の価値観で言うのならば、死んでいる事になるのでしょう。でも安心して下さい。彼の魂が無事なのは確実です。彼に移植した神眼から辛うじて微弱な信号が届いています。皆さんにはこの信号を辿って彼の魂を捜索してもらう事になります。そして、ここから先に起きる事は残念ながら私にも視えていません」




ルクレシアはため息と共に言った。




「このような結果になり、本当に申し訳ないと思っています。それでも、あらゆる可能性の中で、この結末が最も彼の生還する確率の高いモノだったのです。改めて皆さんにはお願い致します。どうか彼と地球の未来の為に、この無謀とも言える危険な冒険依頼を引き受けて頂きたいのです」




そう言ってルクレシアは再び頭を下げた。

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