第101話 エピローグ、その2~賽は投げられた~

「あらあら、アルファ。冒険の許可も何も、私がこの地にやって来たのは、彼を未知の世界から救出する作戦を皆さんにお願いする為なのよ?」




ルクレシアはニコリと微笑んでアルファに答えた。




「やっぱり、おかしいと思った。はは様、どこまでが貴女の計算?」




ベータはルクレシアに問い質した。




「いやだわ、ベータそんな言い方。それじゃあまるで、お母さんが悪者みたいじゃないの」




ルクレシアはのんびりした口調で答えた。




「お母様、どういう事か説明して頂けますか?」




アルファが厳しい顔つきでルクレシアに聞いた。




「あらまあ、アルファまで。全く、彼の影響力と言うモノには困った物ね」




ルクレシアはため息を吐きながら自分の娘達を見た。


そして、頭を振りながら今度はカナの方を向いた。




「中田佳奈さん、貴女は未来の地球にとって必要な重要人物よ。それは間違いではないの。でもね、全く替えの効かない存在かと言われると、実はそんなことは無いの。例え、どのように重要な役割が有ったとしても、本当に替えの効かない人物と言うのは極僅かなのよ。そういう意味において…今回、本当の意味で替えの効かない人物…未来の地球のキーパーソンは…彼だったのよ」




ルクレシアの言葉に全員が驚きの声を上げた。


だが、それと同時に妙に納得する事にもなった。




カナタは、誰かの身代わりになって良い程度の、そんな小さな存在であっただろうか?


否、彼の生き様に触れた者は、全員がその影響を受けた。




その様な人物を、誰かの身代わりにしようなど、今から冷静に考えれば、愚かな行為に思える。




「つまり、私達を騙していたのですね?」




アルファはルクレシアに詰め寄った。




「姉様、落ち着いて。はは様は恐らく、一度も嘘は言ってない」




ベータがルクレシアを庇うようにアルファに言った。




「その通りよ。私は初めから“彼女が地球に戻らなければ未来は大変な事になる”と言ってきたわ。これをもし、正確に言うのなら…彼女が戻らなければ、彼は必ず異世界へと旅立ち、そして“彼が居なくなった地球には暗い未来しか残されていない”まあこんな感じかしらね?」




ルクレシアはまるで自分の悪戯が成功したかのように片目を瞑って答えた。




「貴女達に与えた能力を、私も彼に使用したわ。そしてあの時点で、どのような未来を彼に用意しても、必ず彼は異世界へと旅立った。だから私は仕方なく、彼が異世界へと行く事を認めたの。そしてありとあらゆる未来を視て、今回の方法が一番彼が生還する可能性が高いと思ったのよ。ベータ、お母さんもたまにはサイコロを振るのよ?」




ルクレシアは少し楽しそうにベータに向かって微笑んだ。




神はサイコロを振らない。


だが、管理者ルクレシアはサイコロを振る。




ルクレシアもまた、神のいないこの世界で奇跡を信じたのであった。

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