第77話 ベータの考察
ベータはルクレシアの言葉を思い出していた。
「もし彼女だけが召喚されたのなら、彼は気付かなかったはず」
その意味が、今は痛いほど理解できた。
おそらくギルゴマは、勇者召喚の時に、地球側の召喚陣に介入したに違いない。
もし、この世界に魔王とカナが召喚されてから介入していたなら、それを間近で見ていた私達が異変に気付く。
召喚の儀式を行っている人間達に、自分の企みを邪魔されないようにするのは、ギルゴマにとってみれば当然。
そして地球ではその時、本来、勇者となるべき存在には、ギルゴマの力が流れた。
それは人の身に余る、恐ろしい程の力だった。
生命の自己防衛反応として、身に余る力を得た魔王は恐怖した。
だから咄嗟に、一番近くにいる信頼できる存在に、救いを求めた。
それがカナ。
カナは魔王が怯えている事に気付き、魔王を助けなくてはいけないと、無意識に考えた。
魔王は、その僅かな気配に気が付き、彼女を頼った。
そして、結果的に、カナへもギルゴマの力が流れた。
カナはカナで、召喚に巻き込まれた時に、カナタの事を考えていた。
当時のカナタを置いて、このままどこか、遠くへ連れていかれる事は、カナにとって、痛恨の出来事だったはず。
結果的に、その思いがカナタへと届き、ギルゴマの力は、カナタにも流れた。
カナタはその時に、おそらく何かしらのイメージを見た。
だからカナタには、カナが異世界へと召喚された事が理解できた。
カナタの、あの確信めいた行動は、ギルゴマの力が大元だった。
その後も不思議な力に導かれて、カナ失踪の真相へと、着実に近付いて行った。
これが人間の、愛の力と呼ばれているモノなのだろうか?
これが、全ての奇跡の正体。
だとしたら…もしかして、はは様も気付いていた?
はは様は、ギルゴマが全ての原因だと、気が付いた上で、カナタに提案を持ち掛けた?
という事は…カナタに授けたと言っていた、人の領分を超えた力もギルゴマの力を素にしている?
つまり、カナタは元々ギルゴマの力だったモノを、ギルゴマ自身にぶつける事で倒そうとしている?
その代償として、己の命を失うという事?
もし、そうなのだとしたら、それはまるで…マッチポンプ。
このままではその犠牲になるカナタは、道化師のようなモノ。
…母様、ベータは貴女からの指示を、産まれて初めて、自分の意思で逆らう事になる。
その結果がどうなるのか、まだ私にも分からない。
でも私は…自分の成すべきことを成す。
それが例え、貴女の意思に逆らう事になるとしても。
こんな事を考えるなんて、私も…そして、おそらく姉様も、管理者の娘としては失格。
でもきっと、私達は後悔しない。
予知など無くても、それだけは“視える”。
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