第45話 ユーリィ・エルフィンドワーフ

「のうカナタよ。本当に良いのか?今なら間に合うぞ。今なら…勇者召喚の儀式を儂の権限で止める事が出来るのじゃぞ?」





大賢者ユーリィ・エルフィンドワーフはためらいがちに聞いてきた。





「子供は余計な心配をするな、ユーリィは成すべき事を成せばいい」





カナタはユーリィの頭を撫ぜながら笑って答えた。カナタはどうしてもこの祖父を尊敬する、小さな大賢者に面白さを感じてしまうのだ。





「むう!お主はいつも儂を子ども扱いする!こう見えても儂はお主よりも年上なのじゃぞ!」





ユーリィはプリプリと言った感じで怒っていた。どこからどう見ても子供のそれである。





「まあ魔王召喚の儀式が成された今、最後の希望は勇者しかいないのも事実なのよ」





アルファがカナタの代わりに答えた。





「しかし、勇者が召喚されるという事はつまりお主が死ぬ事なんじゃろう?」





ユーリィは半べそで聞いてきた。こういう所がカナタの保護欲をくすぐるのであるが、ユーリィ本人は無自覚だ。





「それは私達がなんとかする」





ベータが抑揚のない声で言った。





「何とかなる物なのか?ベータよ?儂に嘘を吐くでない。お主の予知ではまだカナタは助かっておらんのじゃろう?」





ユーリィは半べそのままギロリとベータを睨んだ。





「良いからユーリィは勇者召喚の儀式を成功させる事だけに集中しなさい。それから、今月の支払いはこれだけだからね」





アルファが請求書をユーリィに見せた。





「な、何じゃこの額は?先月よりも大分増えとるではないか?!」





「先月は迷惑料として少し減らした。これが正当な金額」





「ぼ、暴利が過ぎんかの?カナタ何とか言ってくれ」





「あー、いや、すまん経理はベータに任せているので俺からは何とも…」





「心配しなくても、前に言った今回のイベント広告料金で賄えるようになるわよ」





アルファが呆れ顔で言った。











そんなやりとりをしているうちに外が騒がしくなって来た。やがて一瞬静かになったと同時に扉が開いた。





「ユーリィ様お時間です」





護衛の恰好をした、ホレスがユーリィに声を掛けた。


後ろにはアリシアやレーナもいる。





「うむ、では…」





そう言って歩き出したユーリィ、アルファ、ベータだったがカナタは一人壁際で腕組をしていた。





「…のうカナタよ。本当にお主は一緒に行かぬつもりか?」





「うん?あぁ、俺は今回遠慮しておくよ。ただまあ、ここから勇者召喚の儀式は見させてもらうさ」





「そうか、なら皆の者参るぞ」





そう言ってユーリィとパーティーメンバー達は部屋から出て行った。


しかし、アルファとベータだけは最後に残りカナタに声を掛けた。





「ごめんなさい、貴方には辛い場面よね」





「無理する必要はない」





二人は珍しく神妙な顔つきだった。





「うん?ああ、気にするな。俺もここから久しぶりにあいつの顔を見れる」








三人に沈黙が流れる。








「じゃあ、行ってくるわね」





「…行ってくる」





「あぁ、頼む」








そう言ってカナタは一人になった。





腕を組んだ手の指に力が入る。


それは段々強くなり、腕に血がにじむ程の強さになっていた。





「すまない。…俺は止めない。止められなかった」





後悔と懺悔の混ざった言葉は誰に向かって言った言葉なのか、カナタ自身にも分からなかった…。

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