第28話 俺の名は
「次の方どうぞ」
中央冒険者組合本部の受付カウンターに三人の若い男女がいた。
どうにもまだスレてない雰囲気で、少し頼りなげに見える。
一人は黒髪の…青年と言うより、まだ少年のような顔つきの男性。
もう二人は顔は同じだが、髪の色が違った。一人は赤い髪で、もう一人は青い髪の色だった。
確かめるまでもなく双子だろう。
「どうも」
黒髪の男性が慣れない様子で挨拶した。
「冒険者登録でよろしいですか?」
受付の女性はニコリと微笑んで聞いた。
「あぁ、そうですね、はい。その冒険者になりたくて…」
「ではまず、こちらに名前の記入をお願いします」
受付の女性が紙とペンを差し出した。
「あ、はい」
そう言って“彼”が名前を書こうとした時。
双子の片割れである、青い髪の綺麗な顔をしているが、酷く不愛想な少女が、彼の服を引っ張り、首を横に振った。
「あー、受付のお姉さん」
もう一人の愛想の良い、赤髪の少女が代わりに声を掛けた。
「カリナ・スチュワートです、カリナとお呼びください」
ニコリとカリナが微笑みながら答えた。
「あー、じゃあカリナさん、これは本名を書かなければいけませんか?」
赤毛の少女が聞いた。
「本名?あぁ、真名ですか?もしかして、あなた達、東方からいらっしゃったのかしら?」
カリナは聞いた。東方には自分の本名を真名と呼び、世間に公表しないという一部の部族風習が残っていた。
「真名である必要はありませんよ、ただその場合は呼び名をここで決めてもらう事になりますが…」
そういった場合のマニュアルとして、冒険者組合では真名の変わりに呼び名をつける事になっていた。
「呼び名、ですか。例えばどんな名前を付けるんですか?」
黒髪の男性が聞いてきた。
「それは色々ですが…東方の方なら自分の故郷に所縁のある名前を付ける方が多いですね。例えば故郷の神や精霊や…魔物とか?」
カリナは一般的な答えを言った。
「魔物ですか…では、ラクーンでお願いします」
男性があっさりと決めた。
「ちょっと!何よ?ラクーンって?!」
赤毛の少女が不満そうに言った。
「いや、だって、俺の国に現在も存在する魔物なんて“たぬき”と“きつね”くらいだろう?あ、こいつらはフォックスでお願いします」
「ちょっと!勝手に決めないでよ!第一、たぬきもきつねも魔物じゃないでしょう?!」
「いや?古来からたぬきときつねは魔物だろ?あ、俺はグリーン・ラクーンです。赤髪の方はレッド・フォックス。青髪の方はブルー・フォックスでお願いします」
「ちょっと何よ!赤いきつねと緑のたぬきってふざけてるの?!」
「いいや、至ってまじめだが?それに、ブルー・フォックスの方は満更でもなさそうだけどな」
後ろを見ると青髪の少女は無表情ながらもどこか嬉しそうな顔をしていた。
「今から俺の名はグリーン・ラクーンだ!」
この日、グリーン・ラクーンとレッド・フォックス、そしてブルー・フォックスという名の冒険者が誕生した。
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