庭師の冒険者
全員もれなく同じ反応をされたわけで、俺は見飽きたその反応にため息をこぼした。
元泥棒なわけだけど、変装には色々肩書きが必要でね。その一つが今日久しぶりにお披露目になったわけだ。因みにジョブはレンジャー……弓や剣を使い主に罠の解除なんかをやる。
まぁそのつもりはなかったんだが、弓を使うのと罠に気づくのが早かったり、解除や解読何てしてたらいつのまにかそんなジョブがついたわけだ。
「な、なんで……」
「何でって、別に理由いるか? とにかくこれでつれていかない理由はねぇだろ。」
一応ダンジョンの攻略経験もある。向こうの提示した条件はすべてクリアしてるんだから、文句は言えねぇだろ。
「という訳で俺も行く。安心しろよ、自分の身は自分で守る」
「ロ、ロミア君……」
不安そうなサーニャに俺は笑って見せた。
「一人で背負い込むんじゃねぇよ。お前のせいじゃねぇ。悪いのは皆を傷けたやつだろ。」
サーニャは口にも態度にも出してなかったが、性格上、レイさんがあんなことになったのは自分のせいだって思ってるに違いない。
かなり用心深く見ないとダメだけど、大抵の嘘は見抜ける。その気がないときはしない特技だけど、サーニャは俺に嘘をつかなかった。つけない性格なんだ、優しいから。
『お願い、サーニャを助けて!』
リーリアのやつ、なにか感じたのか、自分だって眠れなくてボロボロなのにひどい顔で俺のところまでやって来てさ。サーニャの奴がエリクサーを取りにいった何て言い出すから俺も慌てたぜ。
『このままじゃサーニャが帰ってこない気がするの。』
あいつの悪い予感はよく当たる。リーリアもわかってたからか、俺を頼ってきたんだ。
それにしてもよく覚えてたなあいつ。たしか一度だけだぞ、俺が冒険者をしていたって話したの。
まぁあいつが覚えてくれてたお陰で、こうして応援に駆けつけられたわけだが。
「……わかった、つれていこう。君はレンジャーだね。それなら好都合だ」
渋々といった感じでクリスの了承も無事に得られた。こうして俺たち四人は即席パーティーを組んでアリーマ遺跡へと向かう。
といっても道中3日ほどかかるため、その日は街を出て野宿することになった。
「サーニャ、大丈夫か?」
「大丈夫ですです。野宿ははじめてなのでワクワクしちゃいますです」
「はは……ラハバートも初めての野宿で同じこといってたよ。」
夜も更け、火を囲いながら俺たちはこれからについて作戦会議を始めることになった。
まず俺とサーニャは前情報を本とギルドからしか入手できてねぇから、その辺りから話してもらうことにした。
「実は僕ら三人は一度だけアリーマ遺跡の最深部の、エリクサーが眠る宝物の間までいってるんだ。サーニャは覚えてないだろうから此処から話すね。」
サマリはそういうと、魔法を唱えていくつかの映像を出してくるた。あ、これ記録石の魔法バージョンだ。記録石って意外と高いから、こうして使えるの便利だなぁ。羨ましいぜ。
そこに写し出されたのは、二体の巨像が両サイドにたっている大きな広場だった。丸いドームのようになったそこの床には、太陽と月のマークが刻まれ、真っ二つに柄が別れている。
二体の人形巨像もそれぞれ太陽と月のシンボルを両手で持っていることから、通称太陽と月の間とも呼ばれてるらしい。
だが奇妙なことに、この広場の情報は出て結構時間がたっているのに、いまだに攻略者はゼロ。皆逃げ帰ってるか、生きて帰ってきてない。
サーニャたちも一度帰ってるみたいだし、なんかあるだろ、これ……。
「ご明察。ここの仕掛けが難解でね。最近まで攻略が見つかってなかったんだ。」
サマリが指差した方へ目を向けると、そこには石碑の映像があった。何て書いてあるか何てさっぱりわかんねぇ。
「ここには攻略の糸口がかかれているんだ。太陽と月の間は誰かが足を踏み入れると、アンデットモンスターが湧いてくる仕組みなんだよ。」
なんでもサーニャたちも以前足を踏み入れてアンデット……スカルの大群に襲われて逃げてきたらしい。スカルを倒すには回復魔法をかければいいらしいが、サマリの魔力じゃどうしようもねぇくらいの数らしい。
「そのアンデット軍団を何とかする仕掛けがこれって訳だ。『太陽は光にて守護し、月は光にてすべてを焼き尽くす』……石碑にはこうかかれているんだ。」
サマリの見立てだと、恐らくどこかにスイッチがあり、それを起動させればアンデットを焼き尽くす月の光とやらが出てくる……だろうということだ。
スカルはなぜか月の像の下からわいて出てきて、太陽の像の近くにはいかないらしいから、石碑どおりの解釈をすれば、太陽の像の側にいれば月の光とやらからは身を守れる。太陽は守護してくれるって書いてるからな。
「つまり作戦は、俺とサマリ、サーニャでスカルを引き付けてる間に君にスイッチを探し、起動させる。場所がわからないから起動してすぐに太陽の像に避難しないといけない」
締め括りにクリスがそういうと、俺たちは頷いた。
逃げ帰ったやつら以外帰ってきてないってことは、攻略しようとしたやつらは皆死んだってことだ。それだけ危ないってことは、恐らくスイッチが分かりにくい場所にあるのか、あるいはスカルが強すぎるのか。
このパーティーでやられるモンスターは少ないだろうけど、気は抜けないな。
こりゃダンジョン攻略は、さっさとスイッチを見つけることに集中した方がよさげだな。
一日目はこうしてあっけなく終わりを迎える。皆で交代しながら休み、時には宿に止まり……それを繰り返しているうちに、俺たちはアリーマ遺跡へたどり着いた。
そして遺跡道中のモンスターをほとんどサーニャとクリスに倒してもらいつつ……
俺たちはついに、太陽と月の間へたどり着いた。
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某日某所
「なに、庇っただと、あの悪女がか?」
「はい。」
とある屋敷の、とある部屋にて。男が驚いた声をあげた。傭兵として潜入させていた遣いの娘は、淡々と情報を伝えるだけで、男はその言葉に耳を疑っていた。
「あの女のことだ、見捨ててしまうと思ったが。そうか、今はその娘にご執心というわけか。……気にくわない!!」
男は強く机を叩きながら歯を折れんばかりに食いしばった。
「レイチェル。君は簡単には殺さんぞ。この私を侮辱し、陥れたのだ。生きながら死ぬほど苦しめ……しかし肉の檻のなか、死ねずにいるのもまた一興。」
男はほくそ笑む。生死の間をさ迷う侍女をこれ以上どう苦しめてやろうか。それを考えただけで楽しくて仕方がない。
そんな主の様子をあきれるでもなく、一人の少女は見つめるのみだった。
「必ず生き延びろよレイチェル。」
男のどす黒い笑い声が、今日も屋敷に木霊した。
悪役令嬢の侍女頭は策士でございます ぺる @minatoporisio
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