報復パーティー4~パーティーだけで終わるだなんて思ったら大間違いよ!~

 翌日。学園内の食堂へリーリアを連れて向かっていた。


「この時間帯にルリーシュが利用してるのは間違いないのね?」


「ないですよぉ……さんざん調べてスケジュール確認しましたからぁ……」


 私への変な噂が流れてから、噂の出所がルリーシュとわかった時点でリーリアに色々調べてもらっていたわ。なんだか疲れた顔してるけど、もうちょっと頑張ってもらうわよ!


 リーリアの調べだと、昼休みの後半辺りでルリーシュは学園食堂を利用する。吹き抜けで2階まである食堂のうち、2階は主に上流貴族が使っている。そんな決まりはないけど、暗黙のルールみたいなもの。


 2階に行かれたらまた変な噂を流しかねないわ。上流貴族って噂話が好きだから、社交界の序列関係なく噂が回ってしまう。


 それは阻止しないとね。回す噂は、私のものじゃなくて、別のものにしてもらいたいから!


 まだ食事中の生徒が多い食堂へ入ると、案の定ルリーシュとその取り巻きを見つけたわ。今から2階で楽しくおしゃべりしようって魂胆でしょうが、そうはいかないわ!


「ごきげんようルリーシュ嬢」


 声をかけると驚いて振り向かれたわ。相変わらずつり目のきつい女だから、どこかの悪役に見えるわ。性格の悪さが顔に出てるだなんて、かわいそうな人。


「あらエリザベル嬢。ごきげんよう。」


 にこやかな挨拶を返してくれたけど、どうみてもこっちを見下してきている。私が噂話で気をたてて乗り込んできた、とでも思っているのね。まぁ、半分は当たりだけど。


「最近何かと変な噂が絶えず心配しておりましたの。」


「噂?なんのことかしら。詳しくお聞かせ願えます?」


 愛想のいい令嬢の皮を被って、探り合いが始まったわ。見た目は笑顔しかないと言うのに、私と彼女の間には冷たい空気が流れていた。それを感じ取ったのか、回りの視線がこちらに向き始める。


「あまり大きな声では言いにくいのですが……エリザベル嬢はちゃんとしたダンスレッスンを受けていらっしゃらないだとか、講師にものを投げつけただとか……あらぬ噂が流れております。なぜそのようなことになったのか……何もないところから煙が上がるなんて、おかしな話ですね。」


 火の無いところに煙は上がらない。ちゃっかりこっちにも非があるからそんな噂が流れる、と牽制をかけてるようね。ふん、そっちがその気なら……っ!


「えぇ、火のないところから煙は出ませんもの。今回はどうやら、どなたかが火をつけたご様子で、火消しが大変でした。なにせ、とても無礼で強引な方のようでしたから。ルリーシュ嬢もさぞ、大変でしょう。」


 視線を集めるためわざと声を大きくして見せる。案の定、徐々に視線がこちらに向けられていくし、あのパーティーでは参加者に何人か、学園生が混ざっていたわ。目撃している人はいるはずよ。


「それは、どういう意味でしょう。私にはなんのことやら。」


 まるで騒ぎの首謀者を知っているような口ぶりで話したから、ルリーシュは首をかしげてシラを切るわ。当然よね。いまはまだ、十分知らない顔できるもの。


「だってルリーシュ嬢はあの“紳士の心を失った”クレアーズ家とご結婚されていらっしゃるではありませんか。毎日エスコートもなしに、あんな粗暴なダンスに付き合えるルリーシュ嬢は素晴らしいですね。私では令嬢の気品も保てず別れそうですのに、ご尊敬いたします。」


 必殺技“真実の中に嘘を紛れ込ませる”術!レイがいってたんだけどすべてが嘘だと見抜かれやすくて、真実の1割が嘘だと、皆それを真実だと受け止めてしまうらしいの。だって9割は本当のことだから。


 みるみるうちにルリーシュの顔色が変わっていく。あらあら、怖い顔。普通にしてても怖いんだから、ちょっとは手加減しないとね?


「エリザベル嬢。前言の撤回を求めます。いまの発言はクレアーズ家への侮辱となりますよ。クレアーズ家は決して、紳士の心を忘れてはおりません!」


「ルリーシュ嬢は大変クレアーズ家をかっておられるようですが、私は真実を申し上げたまで。この中で昨日のパーティーに参加されている方はおりませんか?」


 ルリーシュには見向きもせず、いつの間にか回りに集まっていた学生に向け声を張り上げる。さぁ、出てきない!昨日のパーティー参加者はここに来るよう、今日限定のプラチナ学食券……食堂の裏メニューが食べられる券なんだけど、それを渡してあるから来ているはずよ!さっきからリーリアに探させてるから……ほら、手をあげたわ。数人いるわね!


「妹のマリーが、意図的にクレアーズ家のご子息によって転ばされたのです。妹は社交界に来てまだ間がなかったと言うのに、転んだことで恥をかき、あらぬ噂を流され泣いておりました。私はそれを聞いて、とても悲しくなりましたわ。」


 泣かせたのは私だけどね。妹がかわいそうで心を痛める姉の振りって、意外と難しいわね。同情を買ってほしいのだけど、普段そういったことがないから。


「私は妹の無実を証明したく、昨日パーティーにてクレアーズのご子息と踊りました。見ていた方にはわかったと思いますが、彼のダンスは乱暴きわまりなく、私でなければ転んでしまうようなものでした。女性のダンスエスコートもできないような方を、紳士の心があると言えるのでしょうか?」


 合図をしたように群衆から声が上がる。昨日参加してた学生ね。あのダンスはひどかった、とか、誰がやっても転ぶ、だとか、悪意しか感じられない……皆好き勝手言ってくれるわ。昨日口止めしておいたけど、こうして私が煽ったら話してくれるでしょう?


 数人の意見が集まれば、それはもう個人の意見ではなくなる。集団の声はやがて回りをも巻き込んでいくわ。ほらほら、どんどん話が大きくなるわよ?


 ルリーシュは怒りに震えてこちらをにらんでいるわ。フフ、悔しそうだけど事実なんだから仕方ないわよ?自分でやったことなんだから。


「噂の出所を調べたところ、ルリーシュ嬢と交流のある方からだとわかりました。もちろん、知らないと言われればそれまでですし、私もルリーシュ嬢とクレアーズ家の関係は知りませんでしたから、きっと何かの誤解だろうと思っておりましたの。しかし……ルリーシュ嬢はご結婚されていて、関係者でした。噂も意図的に流されたものではないかと、残念ながら疑心を深めるしかありませんでした。」


 今にも泣きそうで、ハンカチで目元を押さえる。演技指導もバッチリルージュに鍛えてもらっているから、これで集まった学生の支持は私に傾くでしょう。


 でもここまで言われて黙ってるルリーシュじゃないことも知ってるわ。だって彼女はプライドが高くて高慢なんだもの。


「私も今はクレアーズの名を継ぐものでございます。ここまで言われて、黙ってはおりません。エリザベル嬢は“クレアーズ家のダンスが粗暴だったから”紳士の心を失った、そう申し上げましたね?」


「えぇ、そうです。」


「では、クレアーズ家の威信をかけ、その疑いを晴らして差し上げましょう。」


 ふふ、かかったわね。思わずハンカチ越しににやにやしちゃったけど、いけないわ。表情を戻さないと。


「どうなさるのでしょうか……?」


「私は二週間後に開催される学園主催のダンス大会に出場いたします。そこでパートナーであるガイア・クレアーズと共に無実を証明するために踊りますわ!学園主催といえど、審査員は外部の人間。不正などありません。大会で優勝し、クレアーズ家の汚名を晴らして差し上げます。」


 そう来ると思ったわよ。ルリーシュはダンスとプライドがものすごく高いことで有名だもの。私の目的は、彼女を大会に出場させるだけで、別にクレアーズ家を侮辱したかった訳じゃないわ。サイアの方にはもう恥はかかせたし、あんなに大っぴらな騒ぎになったんだから、しばらく社交界には顔を出せないでしょう。噂も広まるだろうし、今後それはずっと付きまとうわ。


 ダンスで起こった噂をダンスで収めるってなかなか変な話だけど、たしかに粗暴なダンスで大会では優勝できないし、優勝することで噂を打ち消すことは可能でしょうね。


 パーティーに来ていなかった人にとっては、サイアのダンスがどれだけ粗暴だったか、なんてわからないわ。しかも大会に参加するのは長男の方だし、これで優勝されたらサイアへの悪評も回復しちゃうかもしれない。


 ……優勝できたらの話だけど。


「それならば、私も出場いたします。」


「えっ?」


「えっ?」


 ルリーシュはともかく、食堂のどこかにいるであろうリーリアの声も聞こえてきた。


 せっかくの報復なのだもの、ルリーシュにも恥をかかせないとね。だってこんな大勢の前で優勝するっていっといて優勝できなかったら、恥ずかしいじゃない。プライドの高い彼女なら尚のこと。


 ふふ、楽しくなってきたわよぉ!

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