ゆきの夢
『今日も会えた』
その子は言って、心から嬉しそうに笑った。
雪がしんしんと降る中、白い絵の具を塗りこめたみたいな世界に溶けてしまいそうな白い体で。
寒い季節なのに、ふしぎと夏の海を思わせる深い青の瞳を細めて。
『毎日そう言うね』
『顔を見ると確かめたくなるんだもん』
そうして静かに近寄って、すりすりと体をすり寄せる。対照的な白と黒とが触れ合う。
温かくて、心がほわっとするような感覚がした。
『だって、いつ、この雪みたいになるか分からないんだから』
『……そうだね』
ぼくはうなづいた。「そんなことないよ」って言ってあげた方が、良かったのかもしれないけど――。
◇◇◇
「……?」
目が覚めてみると、見慣れたタカヤとママさんの寝顔があった。
冬の間はリビングのネコちぐらではさすがに寒いから、みんなのベッドに入れて貰うのだ。
今のは夢だ。昔の、優しくて温かくて、ほんの少しだけさみしい夢。
頭が混乱したものの、すぐに気付いた。もう何度も見た内容だったから。
「んん、ナオ……?」
珍しく、ねぼすけのタカヤが
それから大きな手で頭をなでて、「夢でも見たか?」と聞いてきた。
さすがに三十年以上も
「にゃあ」
「そっか」
素直に応えると、タカヤは上体を起こしてぼくを足の上に乗せた。
心配になった? 大丈夫だよ、悪夢じゃなかったからね。
月の綺麗な晩に出会い、仲良くなって、やがては『一緒にいる』とまで言ってくれたあの子。
まだぼくが
……もうちょっとで良いから、続きを見たかったな。
ほら、こうやってなでられている間にも、
それこそ、「雪みたいに」。
でも、今日見たその夢はただの懐かしい思い出じゃなかったのかもしれない。
お昼を過ぎた頃、ぼくはふいに何かに呼ばれた気がして外に出た。
いつもの散歩コースを見て回ってから、公園の集会所に足を向ける。
そこにいたのは、雪のように真っ白な一匹のネコだった。
ぼくの足音に気付いて振り返ると、青い瞳とぶつかる。
とたん、ふにゃりとその目が細められ、ぼくはピクリとも動けなくなってしまった。
もしかして、もしかして? そんなこと、あるのかな……?
白ネコは口を開いて、嬉しそうに言った。
「また会えた」
《第4部・終》
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