第4章 不屈の戦士
Ver.7.1/第31話
「明日にはリナちゃん戻ってくるんだよね?」
最終ラウンドが始まった初日、大規模襲撃が始まるのを待っていると、モカが確認してきた。
第1、第2ラウンドと勝ち抜いてきた中でも規模の大きな陣営ばかりということもあり、緊張感が漂う魔界の勢力図であるが、初日ということもあり、テスタプラス率いる軍勢にも大きな動きはなく、その他多くの陣営も手始めに魔物の砦を攻め落とすことで様子見をしている状況だ。
にらみ合いになってしまっている大きな要因も、テスタプラスとハルマ達の陣営が何を仕掛けてくるのか図りかねているというのもあるだろう。
「そうですね。明日が最終日って言ってましたから、いつもより早めにインしてくるんじゃないですかね?」
第2ラウンドの終盤から最終ラウンドが始まるまでのインターバルの期間にテストが重なったので、最終ラウンドそのものにはしっかり参加できるようだ。
前回、息抜きと称してインしてきた後も、何度かやってきては近況報告は済ませているので、翌日からの活動にも支障はないだろう。
「じゃあ、今日まではうちもキビ団子仕入れておいた方がイイよね?」
「あ……。そうですね。俺も、後で買いに行かないと」
インベントリに残っている数はすでにわずかとなっており、追加しておく必要があった。ただ、封魔の一族の城下町で暮らすNPCも、無尽蔵に欲するわけではないので、買い過ぎに注意しなければならない時期になっている。
そんなことを気にかけながら、ネマキも交え襲撃戦を終えた後、タイミングを合わせてキビ団子を売っている方のラヴァンドラの所に向かう。
「じゃあ、ハルちゃん、行ってくるねー」
マカリナの情報と、ここ数日の検証の結果、かなりの確率でラヴァンドラに会えるようになっていたので、今回も特に待つことなく買うことができた。
モカはそのままフィールドに向かうようである。
「何か変化あったら、よろしくです」
最終ラウンドに入り、何か変化がないかざっくりと見回ってもらうことになっていたのだ。
探索は苦手とは言え、機動力に長けた人物であるため、ハルマよりも適任であろうとなったのである。加えて、ダルクパラズでの活動も進展がなかったことで、モカ自身が気分転換を申し出たというのも大きい。
久しぶりにコナに跨り、魔界のフィールドを駆けていく。
デジタルの世界であるので、風を感じることはできないが、流れていく景色を眺めるのは気持ちの良いものだと思っている。それに、不思議なもので、こうやって移動していると、ないはずの空気の層や流れを肌で感じるように錯覚してしまうのもモカは好きだった。
まずは、手始めに自分達で掘った洞くつの中をチェックして回ることから始めた。
「うちら、引き弱すぎだよねえ。それとも、この方法だとドラゴンちゃん出てきてくれないのかなあ?」
人工の洞くつを調べること、何回目なのかも覚えてないほど同じ作業を繰り返しているが、未だにベビーサラマンダーの捕獲は成功していなかった。
この方法で簡単にレアモンスターが捕獲できてしまっては、いくらゲームバランスは気にしていないと公言していても、イベントとして台なしになってしまうのだろう。そのため、可能性はゼロではないが、かなり低いだろうとはモカでなくとも予想している。
みんなと相談した結果、もしかしたら、拠点エリアから離れた場所なら確率も上がるのではないかという意見が出たため、時間がある時に他の場所にもいくつか追加で掘ってある。
ただ、あまり多くの場所に掘ってしまうと、モカが把握し切れないということもあり、検証はかなり雑なものとなっていた。
「えーと? あの山にこのまま向かえば良かったはずだよね?」
ハルマが方向音痴のモカのために、目立つ目印のある所をチョイスしてあるとはいえ、やはり苦手なものは苦手なので、慎重に行き先を確かめながら移動を再開する。
そうやって4か所目の洞くつを目指していた時だった。
「ほえ?」
コナに騎乗してとてとてと走っていると、草原エリアのど真ん中に、何やら真っ白い塊が見えてきた。
獣系のモンスターが群生するエリアであるが、白い毛皮のモンスターは見たことがない。最終ラウンドに入って、新種のモンスターが追加されたのかと走り寄ってみると、この場所には似つかわしくない四足歩行の獣がちょこんと行儀良く座り込んでいるではないか。
「犬? ……だよね?」
赤い舌をベロンと垂らし、ハッハッハッハッハと小刻みな息づかいでモカに期待のこもった視線を送ってくる。
狼系のモンスターというわけではなく、その姿は完全に犬であった。
どういうこっちゃ? と、モカはチャットで助けを求めることにした。
『ハルちゃん、ネマキちゃん。犬がいた! 何だと思う?』
『ふぇ? 犬?』
『犬、ですか?』
『そう。犬。真っ白でお利口さんっぽい感じ』
『犬型のモンスターでなく?』
『あー、ちょっと待って。今、スクショ送るよ』
モカも自分が対峙している犬に困惑しているのだ。見ていないふたりでは、尚更のことであろうと、急いでスクショを撮って使い魔に送る。
『犬ですね』
『犬ですねえ』
反応はすぐに返ってきた。
『でしょ? 何だと思う?』
こういう時、自然と正解を見つけるのが、ハルマという人物だった。
『キビ団子あげたら、お供になるんじゃないですか? 持ってますよね?』
『え?』
果たして、手持ちのキビ団子を犬に使ってみると、ハートのエフェクトが犬から飛び出し、完全に懐いてしまったのだった。
『うち、桃太郎なの? 犬君。キミ、鬼退治、手伝ってくれるの?』
退治する鬼がいるのか知らないが、目の前で尻尾を大きく振る犬に対して問いかけると、ワンと気持ち良い返事が返ってくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます