Ver.7.1/第28話

「あれっ?」

 トンネルが開通したのだから、行かない訳がない。

 封魔の一族が暮らすエリアへのルートよりも、だいぶ川底の移動は短く、特に苦労することもなく到着した。

 ハルマ達の拠点に隣接するエリアであるため、最優先で味方が攻め落としてくれたおかげで、バックアップに回ったプレイヤーの中でも耐久値の高い本城エリアを持つ陣営に置き換わっている。

 ……はずだったのだが、水から顔を上げてみれば、目の前に見える防壁は、見慣れた城下町のものとは違うとすぐにわかった。何しろ、城下町の規模も外観も、全プレイヤー共通なはずなので間違えようがない。

 間違えようがないといえば、立地からしてまるで違う。マップを見ながら進んでいたので、変だなと思いながら向かっていたのだが、防壁のすぐ側まで水場が迫り、小さな島の上に砦を築いているという状況なのだ。

 他のプレイヤーのエリアなので、外堀の水場もハッキリと表示されているのかと思ったが、全くの別物であった。

「そうか……。フィールドの広さがそもそも違うから、単純に拠点だけ置き換わってる訳じゃないんだな」

 どうやら、魔物の陣営が治めているものの、周囲に影響のないエリアとなっているらしい。言わば、バックアップメンバーの拠点エリアと同じように、同じサーバー内にありながら、別空間となっているようだ。

 そうやって魔物の砦にたどり着くと、ひとつ困ったことが判明した。

「うわっ! こっちは結界ないのか!? そりゃ、そうか。普通にフィールドにいる連中だもんな」

 門番の所まで駆け込んでも、魔瘴メーターの増加が止まらなかったのだ。

「いや。マジか……。この中を探索するのもタイムリミットあるって、けっこう厳しいぞ?」

 そして、当然、ここでも門番が立ち塞がる。

 かと思いきや、注意事項だけ伝えられ、すんなり通ることができた。

「お前達、ここいらじゃ見かけない連中だな? 見たところ、封魔の一族って訳でもなさそうだし……。まあ、イイ。ようこそダルクパラズへ。ここでは、厄介事を起こさない者なら、誰でも受け入れる。その代わり、この中では魔法もスキルも使えないから、注意しろよ」

 悪魔系なのか亜人系なのか判断の難しい、見たことのない姿をしたモンスターの門番NPCからの注意だけでなく、視界の中にアナウンスが表示された。

「パッシブ系のスキル以外は、強制的に解除されるか使用不能になるのか。ってことは、こっちはこっちで、何かやることがあるってことだよな?」

 じっくり考えたいところだが、フィールド探索と同じように魔瘴メーターは増え続ける。ゆっくりしていられる余裕はない。

 早速、ダルクパラズと名付けられた町の中を探索することにした。

「こっちの方が、封魔の一族の町より平和そうだな」

 ならず者というかごろつきというか、そういう見た目のモンスターばかりが目に付くため、どことなく治安が悪そうに見えてしまうが、どこを回ってもトラブルに巻き込まれることもなければ、トラブルが起きる気配もない。

 ただ、トラブルだけでなく、イベントらしいイベントも発生しないため、何も起こらない。

「ええぇ……。何もないってことはないと思うんだけどなあ?」

 時間だけが過ぎていくだけならじっくり腰を据えて探し回るのだが、制限時間が決まっている。ここに来るまでには魔瘴の影響がほとんどなかったとはいえ、この日は朝からアチコチ巡って魔瘴メーターは増えたり減ったりを繰り返しているので、残された時間はあまり多くなく、どうしても焦らされてしまう。

 しかし、結局、町の中では気になるものは何も見つけることができなかった。

「マジかあ。後は、砦の方だけだぞ?」

 もちろん、全てのNPCに話しかけた訳でもなければ、全ての場所を調べられた訳ではない。さすがに、細かい所までつぶさに調べて回るには広すぎる上に、3時間丸々残っていたとしても時間は足りそうにない状況だ。

 大した収穫もなかったが、残り時間も気になってきたので行くだけ行ってみようと町外れから砦の方へと向かうことにした。

「おっと……。こっちは進入禁止か」

 細い一本道を進んでいくと、こちらに門番や守衛といったNPCはいなかったものの、大きな扉があり、あからさまに鍵がかけられているのが見えた。過去のイベントで見たことのある巨大な錠が鎖につながり、見ただけで特殊なものだとわかる。

「〈開錠〉のスキルで開けられないかな? って、そうか。スキルも魔法も使えないんだったな。このタイプじゃ、マリーでも開けられないもんなあ……」

 カギが開けられなくとも、防壁を越えたみたいに〈クライミング〉を使って侵入できないかと思ったが、どちらもスキルが使えないのでは今のハルマだと無理な話だ。

 鉤縄でよじ登れる場所がないかと周囲を見回していると、変化は急にやってきた。

「何だ? オマエらも宝を狙いにやって来たのか?」

 ふいに背後から声をかけられたのだ。振り返ってみれば、町中でよく見かけるNPCが知らぬ間に立っていた。

「宝?」

「ああ。何でも、この砦には魔界を揺るがすとんでもない宝が眠ってるって話でな。ここの城主は宝を奪われないように、こうやって至る所に鍵をかけて、見張りを巡回させてるらしいぜ」

「へー」

 興味深い話が聞けたことに満足したが、重要NPCであろう男の台詞はまだ終わっていなかった。

「きっと、これだけの警戒を突破するには、伝説の桃太郎でもなけりゃ、無理だろうよ」

 は? と、理解が追いつかないうちに、男はそのまま立ち去ってしまった。

「桃太郎、見つけないとダメってこと?」

 何があるのかもわからないが、こうして桃太郎を探すことになったのである。

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