Ver.7.0/第45話

「〈売り込み〉の申請? え!?」

「そう! それ! 通知一覧の方じゃなくて、外交通知って項目の方だとわかりやすいかも!」

 マカリナに言われメニューを操作すると、見開いていた目を更に見開く結果になった。

「どどど……、どういうこと? 何で、こんなに一杯〈売り込み〉の申請が届いてるんだよ!?」

 外交通知のページを開くと、ずらりと見知らぬプレイヤーの名前が並んでいた。〈スカウト〉もいくつか届いていたが、そのほとんどが〈売り込み〉の申請であり、残りは〈同盟〉の申請だ。要は、ハルマ達の配下もしくは仲間になりたいという申請ばかりであったのだ。

 自分達は狙われこそすれ、助けてもらえることはないとばかり考えていたので、青天の霹靂といった思いだ。

「あたし経由で来てる申請は少ないけど、たぶん常連さんだと思う。後、モカさん経由の人はファンだと思うわ。掲示板で名前見る人ばかりだから」

 マカリナもスタンプの村に拠点を構えるようになってから変化があった。それまでは各地の職人ギルドを回らなければならない関係で職を絞っていたのを、少しだけ緩和した。

 ハルマと出会った時には時間がないからと諦めていた〈細工〉も、今では一人前にまで上がり、ツルハシも自分で作れるようになっているほどだ。

 それにともなって、防具の性能だけでなく、デザインも〈細工〉で調整できるようになり、マカリナが作るものには固定客が付くほどになっている。

 ちなみに、一番のお得意様は、アヤネである。

 アヤネ曰く、マカリナのデザインする装備品はハルマの作るものと違い、どれもこれもカワイイため、ついつい買ってしまうのだそうだ。ただし、これは自分が着るためではない。そのほとんどが、ユキチや他のフレンドに着せてデヘデヘと愛でることを目的に使われる。

「リナ……って。モカさんの情報、掲示板で調べてるの?」

「っ!? それは、別にいいじゃない!」

「はいはい。じゃあ、ネマキさん経由も、同じ感じかな?」

「もぉ~。……でも、そうね。ネマキさんの魔法は見ていて気持ち良いものね。モカさん並みにファンがいても不思議じゃないか……。ってなると、ハル経由のも?」

「ええぇぇ? 俺にファンなんかいるのか?」

 モカのシンプルな強さは、映画や漫画のヒーローに近い雰囲気がある。目標に真っ直ぐな気質も、ファンを増やす要素であろう。

 対してネマキは、昼行燈とした雰囲気がある。一途に強さを求める姿は見せずに、ダラけた姿ばかりを強調する。それでも、ここぞという時は他を圧倒する力を見せる。こういうモカとは違った気質に惹かれるプレイヤーも多いだろう。

 そこにきてハルマである。

 自分が他のプレイヤーからどのように見られているのかなど、考えたこともない。みっともない姿は見せたくない、というネガティブ寄りの思考は持っているが、実際に誰かに感想を尋ねることはない。あくまでも、自己評価が全てであるのだ。

 一応、大魔王という公式の肩書を持っているので、ファンがいない、ということはないのだろうが、モカやネマキのように憧れからくる性質のものではない気がした。自分が、どちらかといえば邪道であることを自覚しているからだ。

 不落魔王として、顔を隠してイベントに参加していた頃は、魔王プレーと称してヒールに徹していられたが、それも顔バレしてしまってからは影を潜めている。というか、顔バレしてからは、まともに〈魔王イベント〉に参加できていない。

 考えれば考えるほど、自分にファンがいるとは思えなかった。第一、ファンだとしたら、数が多すぎる。モカとネマキの数を合わせても足らず、倍以上の申請がハルマ宛てに届いているのだ。

 そんなことを考えていると、モカとネマキも立て続けにインしてきた。


「やっほー。まだ残ってるんだね」

「おはようございます。さすがは大魔王の城だけのことはありますねえ。どんな裏技使ったんですか?」

 ふたりとも、ハルマ同様、すでに〈征服〉された後だと思っていた様子だ。

 4人そろったところで、現在の状況を再確認する。


「え? ハルちゃん、何かしたの?」

 モカも言われるがまま外交通知の項目を開き、瞠目する。ネマキも似たような反応だ。

「何もしてないですよ。ってか。他の人の陣地にはNPCの所にしか入れないんだから、何もできないですって」

「じゃあ、なーんでこんなに沢山?」

 ハルマと同じ疑問をモカが持つのも無理はない。なので、マカリナが改めて立てた仮説を披露することになった。


「うちのファン?」

「わたしのファン、ですか。言われてみれば……」

 モカは心当たりがない、というよりも、普段から気にしていないせいでキョトンとする隣で、ネマキは申請を送ってきたプレイヤーの名前を確認していく。

「街中で声をかけられたことがあるような気もしますねえ」

「ネマキちゃん、声かけられるんだ?」

「ええ。たまにですけど。がんばってください、とか、応援してます、とか、当たり障りない範囲のものばかりですよ?」

「へぇー。スゴイねえ」

「むしろ、モカ姉様は経験ないんですか? その方が驚きなんですが」

「それって、たぶん、モカさんが早い内にハルの村を拠点にしたからですよ。街中での目撃情報が出ること自体、レアっぽいですもん」

「あーっ、なるほどね。ハルちゃんの村って居心地良いからねえ。必要なものもハルちゃんに頼めばそろえてくれるし。リナちゃんの言う通り、街に行くのなんて月に1回あるかな? ってくらいにはレアかも」

「それもそうですねえ。わたしも、最近は他の街に行くのは減りましたもの」

「あたしとハルは、職人用の素材を買いに行かないといけないからそうでもないですけど、おふたりはイベントやクエストでもない限り、行く必要あんまりないですもんね」

「俺は、素材以外にも買い物してるぞ?」

「え!? そうなの? 何を?」

「皆のお菓子とか、季節限定の家具とか」

「そうなの!? お菓子って、買ってたんだ? 自分でも作れるのに?」

 ハルマの思わぬ行動に、マカリナだけでなく他のふたりも少し驚いた様子を見せる。この中では、一番のインドア派に見られていただけに、意外であったのは間違いないだろう。

「いや、ズキンとか勝手に仕入れてくるけど、何となく?〈大工〉スキル取った時にお世話になったお菓子屋とか、ちょいちょい新作出るから立ち寄るようになったんだけどな。最近も、ハロウィンっぽい新作出てたし。それに、村の住人NPCの家族とかがあちこちにいるから、お使いクエストも頻繁に頼まれるんだよ……。って、そんなことは、どうでもよかった。この申請、どうします? 受けても大丈夫なんですかね?」

 話が逸れまくり、妙にまったりしてしまったところで、ハッとする。

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