Ver.7.0/第36話

「これ、どーしようか?」

 魔界限定のレア素材を惜しみなく消費して進化させたカッパーゴーレムとアイアンゴーレム。戦力は、一気に上昇した。このまま強化ゴーレムを増産すれば、簡単には攻め落とされることはなくなるだろう。

 しかし、無尽蔵には増やせない。マカリナも、そのことを理解した上で、悩ましいというのが本音である。

「ゴーレムを進化させるのと、城門をランクアップさせるのは、どちらが我々の利となるか? ってことですね?」

 ネマキもどちらに天秤を傾けるべきか、それとも、傾けさせないバランスを保つべきかと意図を理解する。

「選択肢は3つ。城門の強化は無視して素材全てをゴーレムの進化につぎ込む。城門のランクアップを優先する。城門の強化を視野に、ゴーレムの進化は最低限に留める。ってところですか?」

 ハルマ達は本城エリアのランクアップは進めていない。そのため、今後必要な素材数は明確になっていないのだが、チップ達の情報によって把握はしている。現状、城門のランクアップに必要な数の魔瘴銅も魔瘴鉄も全く確保できていない。

「何々? 何か悩むことなの? って、別に悩んでないんだね」

 ひとり楽しそうに生まれたばかりのアイアンゴーレムを見上げ、色々な角度から観察していたモカは、不思議そうに3人に視線を戻す。そこには、緩んだ表情で同じようにアイアンゴーレムを見上げている3人がそろっており、最初から選択肢などなかったことを悟る。

「はははは……。まあ、そうですね」

 ハルマも、モカの指摘に照れ笑いを浮かべる。それは、マカリナも同様だ。ネマキにかんして言えば、絶品スイーツを前にしてヨダレを垂らしているように緩んだ表情のままである。

「わたしは普通にゴーレムを進化させた方が利があると思ってるだけですよ? その方が面白そうだとか、オモッテイマセンヨ?」

「それ、思ってるってことですよね。まあ、俺もなんですけど」

「へへへ……。あたしも」

 4人に共通点があるとすれば、自分の感覚に正直なことだろうか。

 その中でも面白そうだと思う感覚は最重要な部分である。

「それじゃあ、うちは採取に行ってこようかな。それとも、ゴーレム捕獲しに行った方が良い?」

 増産が決まれば、行動に移るのも早い。モカは早速行動に移ろうとする。

「それなら、ゴーレムの捕獲をお願いした方がイイですかね? 採取は俺達がやった方が効率良いと思うんで。それに、荒野まで余裕で移動できるのモカさんくらいですからね」

 ゴーレムのポップする荒野はエリア外縁部の山岳地帯の裾野にある。山岳地帯まではモカ以外だと3時間近くかかってしまい、荒野までも早くて2時間強といったところだ。ゴーレムはコモン種とはいえ、亜人系みたいに大軍勢で群れているわけではないので、1体ずつ地道に捕獲しなければならない。

「ハルの提案ももっともなんだけど、魔瘴銅も魔瘴鉄も荒野の方が多く採れるっぽいんだよね」

 モカの移動速度と自分達の採取能力を秤にかけての提案だったのだが、マカリナによって条件が新たなものに上書きされるだけでなく、モカから更なる情報がもたらされる。

「たぶんだけど、山岳地帯の方がもっと採れるよ? この前ちょっと探しただけだから確かなことは言えないけど、その時はリナちゃんと変わらないくらい集められたからね」

「え!? そうなんですか!?」

「うん。まあ、でも、うちでも隅々まで採取して回れるほど時間は残らないから、時間単位での話になっちゃうけど。山岳地帯って歩きにくいしね」

「となると……。山岳地帯を中心に採取した方がイイんだろうけど、あたしは〈発見〉あるけど足が遅い。モカさんは足は速いけど〈発見〉が育ってない。やっぱり、ハルが行くのが最適解でしょうね」

「ハハハ……。結局、俺が山岳エリアを探索することになるのか」

 ゴーレムを素材として使う前に、もともとハルマとマカリナで手分けして未探索エリアに向かう予定だったのだ。目的であった〈じょうぶな物質〉は見つけてしまったとはいえ、未発見の何かがないとも言い切れない。

 何しろ、たった今、新しい発見があったばかりなのだ。

「ハルちゃんが山登るなら、うちはゴーレム集めに専念した方がイイ感じ?」

「そうですね。でも、俺ひとりで集められる数には限度があるので、今まで通り、フィールド全体の探索を続けてもらって、時間が余ったら少しずつ補充してもらう程度で大丈夫じゃないですかね。攻防戦始まっても補充や強化は今まで通りできるとはいえ、準備期間も明日で終わりですし」

「じゃあ、あたしも予定通り水の中の探索、だね」

「そうだな。進化させられるモンスターがゴーレムだけってことはないだろうから、探せる場所は探しておきたいもんな」

「それもそうですね。魔界限定の他の素材でも強化あるいは進化させられる方法があるかもしれませんものね。問題は、どのモンスターをどうやって、ですけど」

 この瞬間、いや、カッパーゴーレムを目にした時から、4人の目的は勝ち残ることから未知を探すことに切り替わっている。そもそも勝ち残ろうという意識は希薄であったので、自然なことだろう。

 こうして、お爺さんは山にしば刈りにお婆さんは川に洗濯に……、もとい、ハルマは山にレア鉱石を探しに、マカリナは川にまだ見ぬ何かを探しに行くことになった。その間、モカは機動力を活かしてフィールドを駆け回り、残されたネマキも豊富なMPでゴーレムの強化を担当することになった。

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