Ver.7.0/第33話

「〈じょうぶな物質〉って、けっこう範囲広いよな」

 物質という表現がクセモノである。真っ先に思い浮かべるのは鉱石系なのだが、石材系も宝石系も木材系もある。それだけでなく、草系や食材系にもあるかもしれない。系統が絞られていないので、物質全般から探さなければならないのだ。

「でも、今のところ見つかってる素材は、魔界限定のも含めて、手当たり次第に試してみたよ?」

「このレシピの書き方だと、組合せなんて高が知れてる。なのに、正解が見つからない……。ってなると、〈特殊な石〉が魔界限定素材じゃない?」

「えー? でも、他に〈特殊な石〉なんて見つかってないよ?」

「まあ、俺もそんなもの見つけちゃいないんだけど」

 ハルマは魔界で採取できる素材をメニューで呼び出し、ひとつひとつ確認していく。とはいえ、ゲームを始めた時から馴染みの素材ばかりであるので、新しい発見も何もない。

 そうなると、自然と魔界限定の素材に手が伸びる。


【魔瘴銅】

【魔界限定素材/取引不可】

【魔界の瘴気を帯びて銅鉱石が変質したもの。様々な強化に使える】


【魔瘴鉄】

【魔界限定素材/取引不可】

【魔界の瘴気を帯びて鉄鉱石が変質したもの。様々な強化に使える】


【魔重石】

【魔界限定素材/取引不可】

【魔界の瘴気を帯びて重さを増した砂岩。重くて非常に丈夫なため、加工には国宝級の技術が必要】


「どれも元は普通の素材だったんだな」

「ん? ああ、フレーバーテキストのこと?」

 ハルマのつぶやきに、マカリナもすぐに反応するところをみると、彼女も穴が空くほど素材を調べたことがあるのだろう。

「これを見ると、確かに〈特殊な石〉って、どれか、もしくは、どれも、なんだろうな」

「でしょ?」

「そうなると、やっぱり見つかってない〈じょうぶな物質〉があるのかねえ?」

「ねえ、どこか素材を探してないエリアない? もしかしたら、まだ見つかってない魔界限定の素材があるのかも」

「探してないエリアか。でも、リナはネマキさんと一緒に草原、平原、荒野エリアを中心に探索してるだろ? 俺は森林エリア中心に探してる。ってなると、残ってるのは山岳エリアと水の中、か」

 フィールドの大半を占めるのは草原、平原、荒野である。山岳エリアに足を運べていないのは、場所に難点があるからだ。

「山岳エリアかあ。あたしらの鈍足ステータスだと、片道だけで3時間近くかかっちゃうもんね」

「モカさんなら採取できる時間が残るけど、俺らと違って〈発見〉スキル育ってないもんな。そうなると、俺が〈覆面〉使って強行突破するしかないか……」

「そういえば、兎ちゃんになれるんだったわね。じゃあ、あたしが水場の方を担当する?」

「兎ちゃん言うな。でも、それが適任かな? モカさんもネマキさんも〈水泳〉スキルは取ってないはずだから。でも、水中もけっこうモンスター多かったぞ? ひとりで大丈夫か?」

「最初は心配だったけどね。あたし、魔界だと無類の強さよ? エンカウントの必要ないから〈DCG〉使い放題みたいなものだもん。さすがにネマキさんみたいに一度にバーンって一網打尽にはできないけど」

「そういえば、プレオープンの時も人変わってたもんな」

 マカリナの〈DCG〉は敵対する相手の攻撃回数によって使えるコストが増え、高コストの強力なモンスターを召喚できるようになる。普段は戦闘毎にコストがリセットされてしまうため、立ち上がりが遅くなるのだが、魔界では常に戦闘状態であるため、一度戦闘を行えば、以降はコストが溜まった状態から始められるのだ。

 しかも、魔界では大規模な群れで行動するモンスターも多いため、すぐに使えるコストがカンストする。

 初手からコストをフルで使える状態のマカリナを相手にしたら、ハルマとて容易には勝てないだろう。しかも、彼女も〈DCG〉だけでなく、新たなスキルを取得している。ただし、このことは、マカリナ本人以外は、彼女のリア友であるラキアしか知らない情報だ。

「あ、あの時は、初めてだったから、ちょっとテンション上がっちゃっただけよ。でも、マカロンもいるし、あたしが直接水の中で戦闘する必要もないだろうから、大丈夫だと思う」

 そう告げながら、マカロンを召喚する。それだけで、狭くもない作業場だというのに、一気に窮屈になる。むろん、それはハルマの連れる仲間が多すぎるというのが原因でもあるのだが。

「なあ? また育ったんじゃないか?」

 ハルマのシャムよりも大きなテイムモンスターは、今のところマカロン以外に見たことがない。あまりに大きいので、デザイン的に突起している部分は天井と壁を突き抜けてしまっている。それでも天井も壁も破壊されないのは、デジタルの体ならではといったところか。

「だってえ。この子とあたしの相性ピッタリなんだもん」

 マシン系のテイムモンスターはレベルアップによる数値の上昇は低めに設定されているが、〈鍛冶〉によって作られた防具を装備することで強化される。

 この特徴をマカロンも引き継いでおり、装備品によって強化される。しかも、ゴーレムの高いHPとVITを有する特徴も同時に引き継いでいるため、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない存在に成長している。

「ホント、マシン系と物質系の良い所取りの優秀なテイムモンスターだよ……な」

 ハルマはマカロンを見上げながら、自分で口にした言葉をキッカケに何かが閃いた。その様子を、マカリナは不思議そうに首を傾げながら見つめるのだった。

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