Ver.7.0/第9話

「チッ。やっぱり最高ランクの強度にするには、魔界で取れる素材も必要か」

 配信を終え、集まった素材とゴールドで、本城、城壁、城門、見張り台を一気にランクアップさせる準備を終えたところで、フィクサは忌々し気に呟いた。

 石材、木材、金属素材といったものは、レア度の低いものが重点的に必要となり、ネックとなるのは、完了までに要する時間だが、それ以上にゴールドの支払いが莫大な点だ。

 1段階ランクアップさせるのに、最低5万ゴールド。これがパーティ人数によって振り分けられる大きさに合わせて変化する。

 セゲツ達は3人で参加しているので、拠点の大きさは8人パーティの陣営の6倍ある。これは単純にソロで8区画、最大人数の8人で1区画というものだ。

 ただ、ランクアップは1区画ごとに必要で、1段階上げるのにトータルで30万ゴールドが必要になった。これが、本城、城壁、城門、見張り台すべてに適用されるルールのため、120万ゴールドが消えていった。

 更に2段階目のランクアップには、1区画ごとに10万ゴールド必要になり、240万ゴールド。合わせて360万ゴールドが費やされた。

 寄付がなかったら、金遣いの荒いフィクサ達では、最初のランクアップだけでも破産している金額だ。しかも、この上の最高ランクにするためには、更に480万ゴールド必要になり、さすがにそこまでは寄付も集まっていない。

 フィクサの苛立ちも、思うように寄付のゴールドが伸びないことにも起因している。セゲツとしては、何もせずに500万ゴールド近い額の寄付が集まっていることに戦々恐々となっているのだが、フィクサには、そんなことを気にかける素振りもない。むしろ、自分達に貢献できたことを誇れと言わんばかりの態度であるし、実際、そういう風に考えている男だ。

 そういう意味では、満足そうである。

 セゲツも、フィクサくらい割り切れる性格であれば、後ろめたいモヤモヤした感情も気にならないのだろうと思うのだが、そんなに簡単なことではない。

「えーと? とりあえず、これで18000まで兵士を集められるんだな? 2~3日もありゃ、数だけは何とかなるか」

 本城の大きさと、ランクによって配置できる兵士の上限数も変化する。

 とはいえ、ソロと8人パーティで8倍の差が生じると、さすがに勝負にならないのだろう。全体の上限数が決められ、1区画ごとにランクによって200から1000増やせる程度である。それでも、互いに最高ランクに上げた場合、最大で7000の差があれば、大きな戦力差となるだろう。

 また、常駐兵とは別に、城下町に兵士を待機させておくことができ、防衛戦の際には、追加で援軍を呼ぶこともできる。

「数そろえてから、3人でレアモンスター探しに行くんだよな?」

 魔界でポップするモンスターにはレアリティが存在し、レア度によって強さに差があることが事前に知らされている。

 コモン、アンコモン、レアの3種類。

 また、モンスターの系統によって生息地は固定され、得意分野も設定されている。

 獣系であれば草原エリアに出現し、機動力を活かした攻撃が得意であるとか、物質系であれば山岳地帯麓の荒野エリアに出現し、強固な守りを得意とするとかいった感じである。

「ゴブリンばっかり集めてもクソザコすぎるからな。チッ。こういう時にザコども使って人海戦術使えないのがクソゲーだぜ」

 フィクサの言うザコどもが、彼をチヤホヤしてくれる取り巻きのことだと知っているため、反応に困りながらも、こういう時のセゲツの対応は決まっていた。

 ただ黙ってニヒルな――というよりも、ニヒルっぽい――笑みを浮かべるだけだ。

 後は、自然な流れで話題を変えるように努力する。

「ゴブリンだけじゃ話にならんだろうから、面倒でもオレ達で使えるモンスターを探さにゃならんのは良いとして、城下町エリアの方はどうする?」

「あん? んなもん、無視無視。攻略情報が流れて来てからやりゃいいんじゃね? どうせ、特定の施設を作れば兵士の忠誠度が上がりますよ、とか、優秀な指揮官を紹介されるようになりますよ、とか、ふざけた仕様に決まってんだからよ。そういうのは、情弱な連中に踏み台になってもらうに限るだろ」

「ま、だな」

 フィクサの言い方は悪いが、内容はセゲツも同意する。そもそも、答えがわかっていて振った話題なので、これで良いのだ。拠点エリアの一部ながらも、戦闘エリアとは完全に切り離されるらしく、発展させたところで攻防戦の結果にどの程度の影響があるのか不明なのだ。

 第2ラウンドに入ってからは、プレオープンの時にも発生していた城下町への大規模襲撃イベントがあることが発表されているが、これを鎮圧するのはプレイヤーの役目だ。これによって経験値と熟練度を稼げるという触れ込みで、期限内であれば希望のタイミングで発生するものらしいので撃退に失敗する可能性も低いだろう。

 プレオープンでの情報もいくらか漏れて来てはいるが、〈大魔王決定戦〉に参加したチームが生産職系の分野に優れているとも思えない。

 セゲツを含め、三皇の3人も生産職の分野には疎いこともあり、何から手を付ければ良いのか、情報待ちなところはあった。

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