Ver.6/第47話(Ver.6/終話)
「如何にも! 世界一の音楽プロデューサーにして、火の大陸の森の守り神ゼレアム。それこそ、ミーの正体なのデース!」
「そんなスゴイ神様が、何だってこんな寂れた場所で街灯やってるのさ?」
「ッンー! 魔王ちゃんのせいでこんな体になっちゃったのデース。でも、落ち込むなんてナンセンス! と、意気込んでプロデューサー業で成功を収めていたのデースが、生きがいを失ってしまったのデース」
前半は意気揚々とランプを輝かせていたゼレアムだったが、最後の方は意気消沈とばかりに輝きを失うと同時に支柱までもへにょりと折れ曲がってしまった。
そう言えば、このクエストの名前は〈灯せ、情熱の明かり〉であったと、メニューで確認する。
「それなら、我々と共に行くかい?」
ピインが慰めるように問いかける。
「そういう気分ではないのデース。それに、この人間からは、スター性を感じないのデース」
「悪かったな、平凡で」
実際には、この世界で最も有名なプレイヤーであろうことは、ゼレアムには関係ないようだ。ジト目でゼレアムを見やっていたハルマだったが、横から割り込んできた者がいた。
「でもお~。ハルマさんの演奏は、スター性に満ち溢れていましたよお。何しろ、あのナルカミ様の神器を使いこなしたほどですからあ」
アクアのこの言葉に、ゼレアムの反応はわかりやすかった。一瞬にして、ピカッとランプの明かりが広がったからである。
「ナルカミちゃんに会ったの!?」
興奮しているのが、ランプの明かりだけでなく、うねうね具合からも伝わってくる。
ゼレアムの反応を目にし、頭の中に木魚を叩くような擬音が鳴り響く。
ポクポクポクポクポクポク……ちーん。
「音楽プロデューサーってことは……。もしかして、プロデュースしてたのって、ノイジィファクトリーなのか? ナルカミだけじゃなくて、ジェイとコンバスにも会ったぞ? 再始動に向けて合流してるんじゃないか?」
「んまー! それ本当なのデースか!?」
これまでで最高のテンションになったのだろうか。ランプから炎が噴き出すほどの明かりになっている。
「なんじゃ、そういうことか。本当じゃよ。何なら、ここでジェイ殿秘伝の〈ロックギター〉を披露してやったらどうじゃ?」
バボンに促されると、ゼレアムも期待の眼差し――らしきもの――を向けてきた。
どうやら、これがクエストのクリア条件に関係するらしいことを感じ取る。
「で、あれば……」
ジェイから教わったロックギターを取り出し、曲を選択する。
演奏するのは、ハルマが選べる中で最高難易度の曲である。難しければ良いというものでもないだろうが、他に尺度もわからないので、シンプルに決める。
スッと息を整え、演奏を始める。
とはいえ、動き出し以外はほとんどスキル任せなのだが……。
戦闘中の曲とは違い、2分半ほどの演奏が終わった。
オーディエンスがNPCだけというのは、もったいない演奏なのだが、ゲーム内なのでちょっと離れるだけで音は消えてしまう。
そのため、街中にいた他のプレイヤーに知られることもなく、誰かが聞きつけてくることもなく、その場には静けさだけが残った。
かと思ったら。
「マーーーヴェラス!!」
胸を張るように支柱を反らせ、両手のランプから炎を吹き上げる。だけでなく、全身から炎が吹き上がったではないか。
「うおっ! 大丈夫なのか!?」
炎に包まれるゼレアムに驚き、声を上げてしまうも、ライブの演出に使われるファイアーワークスみたいに周囲にまで炎が噴き出し始める始末。それだけでなく、自身がミラーボールにでもなったかのようにピカピカと幾本もの光線を放っていく。
どうやら、満足してもらえたようである。
「ッンフー! やるじゃないデースか! うおおおおおおお! イメージが、イメージが溢れてくるのデース! こんな所で、ジッとしてる場合じゃないのデース! ミーも、一緒についていくのデース!」
長かった。というべきではない。
むしろ、1年と2ヶ月では、早すぎると言うべき事件である。
『クエスト/灯せ、情熱の明かりをクリアしました』
『クリア報酬として、火の大陸の森の守り神ゼレアムとの盟約が結ばれました』
『詳細はなかまメニューから確認できますが、テイムモンスターと同じ扱いになります』
『特定の条件を満たすと、能力が解放されていきます』
これにより、全ての大陸の森の守り神との盟約が結ばれた。それは、続いて表示されたテキストでも、明確なものとなった。
【称号〈森の管理者〉を獲得しました】
『スキル〈ふくろうの加護〉を取得しました』
『常時INTが5%上がる』
『常時MDが5%上がる』
『常時全ての属性耐性が10%上がる』
【取得条件/全ての大陸の森の守り神との盟約を結んだ者に与えられる】
ゼレアムとの盟約は予想の範疇であったが、新たに称号を獲得できるとは思っていなかった。
「う……うん。何か、ゴメン」
ハルマは、誰にともなく、謝罪を口にするのだった。
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