Ver.6/第46話
転移オーブを使い、まずはファイアールに戻ることにした。
ロックスターに出会った星砂の浜辺に向かうことも考えたが、移動時間を考慮すると、こちらのクエストを先に終わらせてからで良いだろうと考えたからだ。
転移が終わり、周囲を見回す。
相変わらず、人は少ない。
前回、〈演奏〉スキルを取得するために立ち寄った時は、冒険者ギルドの近くだけはにぎわっていたのだが、今回はそこも含めて閑散としていた。
さすがにアプデから日数が経ち、クラス追加も落ち着いてきたということだろう。逆を言えば、ハルマは完全に取り残されたということでもある。
「やっぱり、早いところクラス追加できるようにならないとだな……」
クエストに必要な素材がそろっていることを確認してから、故障中の街灯がある場所を目指す。道中、今後の予定を考える。
「レベル上げもしたいけど、やっぱりノイジィファクトリーの3人がそろってるのかは、確認しておきたいよなあ。ところで、スリーピースバンドなのか? 他にもメンバーいるのかな?」
ロックスターのジェイのスランプが、本当はまだ続いているのか? であるとか、3人そろったところで追加のクエストが発生するかもしれない、であるとか、何も起こらないかもしれない、であるとか想像を膨らませる。
何かが起こりそうなワクワク感は、長年ゲームを続けていても、楽しいものだ。
例え、何も起こらなかったとしても、すでに〈ロックギター〉と〈ウッドベース〉という報酬は手に入れている。加えて、アクアという新たな仲間に出会うキッカケも作ってくれたのだ。物足りないということはない。
チェーンクエストなのかどうかを考えるのも楽しかったが、ヌソッキ方面の攻略も、やっぱり頭から離れなかった。
ヌソッキの周辺は、モブモンスターでも手強いことがわかったが、そこから先に進むのではなく、本来のルートを遡るとどうなるのかも気になるところだ。
本来のエリアボスを討伐しなければならないのか、クラーケンを倒したことで、免除されるのか。行ってみないことにはわからない。
もしも免除されるのであれば、先に立ち寄るはずだったであろうムーヌムーヌにはぜひとも足を運びたい。
が。やはり、それもレベル上げを終え、クラスを追加できるようになってからであろうと自制する。
こんなことをあれやこれやと考えながら、街外れまで到着した。
「〈修復〉で一気に終わるよな?」
タイミングを計ってきたわけではないので、外はまだ明るい。
ただ、外壁に近く、影になる場所も多いからだろうか、日が沈んでいない時間帯でも薄暗かった。そのため、設置されている街灯は全て、一日中点灯しているようだ。おかげで、ひとつだけ明かりの灯っていない街灯を見つけるのも、苦労はしなかった。
ハルマはクエストが発生した時と同じように、街灯に触れてみる。
すると、クエストの進捗状況が表示され、修理が可能であることが通知された。
「このままイエスで良いよな?」
通知が届いた直後に、修理しますかの問いが表示され、イエスとノーの選択画面に切り替わった。
街中でのクエストということもあり、特段警戒することなくイエスを選択する。
これがフィールドやダンジョンで似たようなクエストが発生した場合は、ボス戦が待っていることも多い。
とはいえ、クエストの内容は、難易度が高いと感じるものではなかったので、ボス戦に突入したとしても、クラーケンより強いということはあるまい。
そんなことを考えながら、修理が終わるのを待つこと数十秒、街灯から明かりが発せられた。
……かと思った矢先だ。
「ミーに何の用でアリマースか? 貧乏臭い仕事は、お断りデースよ」
突如、誰かが話し始めた。
誰かが、と思ったのも束の間。
目の前の街灯が、背伸びするみたいに動き出したかと思ったら、クネクネとうねり出したではないか。
「……。え?」
「ユーが依頼人じゃないんデースか? ミーは、世界一の音楽プロデューサーと名高いゼレアムと申しマース。どうやら、ただのお人好しさんみたいデースね」
支柱をうねうねさせながら、両腕のようなランプ部分をマラカスみたいに振り回す。どこに顔があるのかと思って見上げると、目が合った。
支柱のてっぺん付近にあった模様に紛れて、顔が潜んでいたらしい。ただ、基本は石柱なので、目と口を開いても、石膏像みたいな無機質なものだ。
突然の出来事に、どうしたら良いのか戸惑っていたのだが、反応は別のところから発せられた。しかも、ひとつやふたつではない。
「ゼレアムとは、あのゼレアム殿か?」
「おや、まあ……。長いこと見ないうちに、不思議な体になったものだね。いや、それは、お互い様か」
バボンとピインだけでなく、トワネとユララまで挨拶を始めてしまった。
「なんということデースか!? こんな所で再会できるとは! 感激デース!」
ゼレアムも、一層うねうねとした動きを大きくして、喜びを表現し始めた。
「これは……。もしかしなくても、火の大陸の森の守り神?」
さすがに目をパチクリとさせてしまうハルマであった。
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