Ver.6/第44話

 転移門の置かれた広場は、通常は結界で囲まれ、通行証を持たない者は利用できないそうである。

 広場から出る際に現れた管理者も、長いこと門番をしてきたが、通行証を持たずに中から出てきた人間は、初めてだと驚きを隠さなかった。

 おそらく、本来は何かしらのクエストを経て、通行証を手に入れなければ、シャーザーキには入ることも許されないのだろう。

 想定としては、ヌソッキ側からプレイヤーが押しかけ、数年後に海底ルートからの侵入方法を見つける者が現れるはずだったのだろうが、ここを通った最初のプレイヤーが、よりによってレアケースの方を先に見つけてしまったのだろう。おかげで、何ともチグハグな対応になってしまっている。

「そういえば、アクアがいた泉以外にも、小さな出入口があるって話してたけど、他のエリアにもシャーザーキから行けるのか?」

「行けますよお。でも、この辺にまでクラーケンが出たということは、南にある出入口を使うと、また襲われる可能性がありますかねえ」

「クラーケンって、割と数がいるのね」

「そうですねえ。普段は群れで行動していると聞いたことがありますよお。でも、キングクラーケンが南の海を縄張りにしているので、この辺に現れたのは、数百年ぶりじゃないでしょうかあ?」

「キングクラーケンなんているのかよ。俺達が倒したクラーケンも、あれで小型だったんだよな?」

「私も実際に見たことはありませんがあ、島と見間違う大きさらしいですよお。でも、大きくなりすぎて、滅多に自分から動こうとはしないみたいですう」

「ユララも聞いたことがあるのですぅ。クラーケンは乱暴者が多いですが、キングクラーケンはとても大らかな方らしいですよぉ」

「そうなんですう。なので、魚人国家マルフィセーラとも友好的な関係を築いていて、この辺でも襲われる心配はなかったんですけどねえ」

「もしかしたら、あのクラーケンは、群れを追い出された野良クラーケンだったのかもしれませんねぇ」

 アクアの言葉に、ユララが推察する。

「もしくは、キングクラーケンに何かしら異変が起こっているか、か。そのうち、キングクラーケンがらみのクエストもありそうだな」

 転移門からヌソッキを目指し移動しながら、新たな情報を手に入れ、まだ見ぬ遠い地へと思いを馳せる。今いるエリアが、大陸全体のどの辺りなのかも不明だが、半分くらいは踏破できているのだろうか。

 またしても初めて聞いた魚人国家なる存在も、まだまだ先の話であろうから、冒険の終わりも見えてきそうにない。しかも、大陸は6つあるのだ。

 サービス終了までに、本当に全ての大陸を制覇できるのか、不安すら感じてしまうほどだ。

 そんなことをふと考えていると、〈発見〉のスキルに反応が出る。

 このエリアで初めて遭遇するモブモンスターだ。

「ランクE+? +が付いてるのは初めて見るけど、EランクとDランクの中間ってことだよな? この辺でもEランク出るんだな」

 程なく現れたモンスターに、特に警戒もなく戦いを挑む。

 +の表記があろうが、所詮はDランク以下のモンスターだと侮っていた。


 ……のだが。


「こいつら強っ! 全然Eランクの強さじゃないぞ!?」

 見た目だけでは判断できないのは、このゲームに限った話ではない。一見すると、かわいらしい外見であっても、容赦なく即死級の攻撃を繰り出してくるモンスターも少なくないものだ。

 今回も、そんな相手であった。

「ガンダルヴァはマーメイドの天敵と言われる魔物ですから、私はちょっと分が悪いですう」

 人と鳥の混ざった体をしたモンスターは、ヤタジャオースと1対1で互角に近い戦いを見せる。しかも、今回は3体同時に出現したため、かなりの苦戦を強いられた。

 ハルマも攻撃に参加したいところだったが、身を守るのに手一杯で加勢にいけない。どうしたものかと悩んだが、出し惜しみしている場合ではないと判断し、アクアに早速〈雷撃〉を使ってもらうことになった。

 雷神の槍を介して放たれた放電は、効果てきめんで、雷系の大ダメージだけでなく、麻痺の効果までもたらしてくれたのだ。

 アクアも、一気にMPがなくなり、何もできなくなってしまったが、そこからは他の仲間が一気に勝負を決めてくれた。

 何とかガンダルヴァ戦に勝利したものの、ハルマは軽く混乱してしまう。

「確かにE+ランクだったよな? 何で、こんなに強いんだ?」

 確かに、タチウオモドキと戦った時に、この辺りでは弱い方だとは聞いていた。にしても、あれはBランクからAランクに相当するモンスターだと思っていたのだ。

「とりあえず、戦闘は避けた方が良いな。毎回こんなんじゃ、身が持たないぞ」

 そこからは、慎重にモンスターを回避しての移動となった。

 とはいえ、シャーザーキからの転移門と、ヌソッキは距離が近かったため、さほど苦労することなくたどり着くことができたのだった。

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