Ver.6/第42話

「あー。すっかり忘れてた。これでクラーケンの毒墨浴びても無事だったのか」

 学校から戻ってすぐにインすると、昨日の不可解な現象の謎を解き明かすために、自分のことをじっくりと振り返っていた。

 装備品に対応しているものがないことは把握していたが、取得しているスキルを見直したのは、久しぶりだった。

 加えて、〈ドラゴンスレイヤー〉の称号で取得した〈竜鱗〉などは、全ての属性耐性が10%上がるという部分の印象が強すぎて、他の効果は完全に頭から抜け落ちていた。

「よくよく見たら、〈電光石火〉って風と火属性のダメージ上がる効果付いてたんだったなあ。俺の範囲攻撃スキルに恩恵ありまくりじゃん」

 取得した当時でも〈ファイアーブレス〉は使っていたが、新たに取得した〈ロックギター〉の〈ギターソロ〉も風属性攻撃のため威力が上がる。〈ウッドベース〉の〈重震〉よりもダメージが大きいとは思っていたが、こちらは行動阻害がメインのスキルだと思い、気にしていなかったのである。

「しかし、1年以上もやってれば、スキルも増えるわな。全然使ったことないのも、ちらほらあるけど」

 常日頃、無意識も含めて使っているスキルだけでも40を超えている。それ以外にも、初期クエストの報酬でどんなプレイヤーでも取得しているだろうスキルまで合わせると、60近いだろうか。武器スキルに内在する個別のものまで数えると、キリがなくなるほどだ。

 中には、何のために存在するのかわからないものも少なくないが、これら全てを正確に把握しておくのは、難しくなってきた。

「しかも、これからクラス追加したら、更に増えるんだよな? 定期的に、しっかり復習しないとだな」

 ただでさえトリッキーなスキルを多く取得している上に、ハルマには他のプレイヤーと決定的に違う点もある。

 自身のスキルだけでなく、仲間の持つスキルも管理しなければならないという、極めて特殊なものが。

 そして、そのNPCも、またひとり増えた。

 昨日は、何かとやることが続いてしまったせいで、しっかりと調べることができなったため、改めてアクアの能力を確認する。

 基本的には、本人から聞いていた通りだったが、知らぬスキルも所持していた。

「水系の魔法だけじゃなくて、歌唱スキルもあるのか」

 マーメイドが歌うのはイメージ通りなので、むしろしっくりくる。しかも、趣味スキルの〈歌唱〉とは違い、れっきとした戦闘スキルである。

 歌の種類は、〈応援ソング〉〈ハッピーソング〉〈子守歌〉〈パニックソング〉〈セクシーボイス〉〈鎮魂歌〉の6種類。

 何を歌うかは、基本的にアクアの気分次第でランダムらしい。

 それぞれ効果は異なり〈応援ソング〉と〈ハッピーソング〉は味方にバフが乗り、〈子守歌〉〈パニックソング〉〈セクシーボイス〉の3つは、それぞれ相手に状態異常が確率で入る。

 ひとつだけ性質が異なるのが〈鎮魂歌〉で、これだけは条件がそろえば必ず歌うらしい。効果は、自身よりも弱いアンデッドを浄化するというもので、対アンデッドのザコ戦では、かなり重宝することになりそうだ。

 何しろ、アンデッド系モンスターは弱いほどよく群れる。強いアンデッドほど、弱いアンデッドを召喚する。と、たいてい乱戦になるからだ。

「そういえば、昨日のクラーケン戦、知らぬ間にバフかかってたのって、これのおかげだったのか」

 仲間達にターゲットが向かわないよう、距離を保つことを最優先で動いていたこともあり、正直、あまり気にしていなかった。実際、ハルマ自身には、バフの恩恵は全くと言って良いほどなかったので、誰が何をしているのか把握している余裕はなかったのだ。

「まあ、あのバフのおかげでギリギリ回復が追いついてた感じだったから、これがなかったら、勝てなかったか、勝てたとしても時間がめっちゃかかったんだろうな」

 特殊な事情が重なっての勝利だったのだと、改めて実感する。

 そのままアクアにかんする情報は見終えたかと思ったが、もうひとつ特殊な案件があったことを思い出した。

「そうだ。最後に雷神の槍もらったんだった」

 このパターンは初めてだったこともあり、うっかりスルーしてしまうところだった。

「槍は槍だな。ちゃんと武器だ。ってことは、アクアも物理攻撃の手段が手に入ったってことか。それと……?」

 ズキンも天狗のうちわというアイテムを所持しているのだが、こちらは武器というよりも道具で、直接攻撃に使うわけではなく、内包されているスキルを発動させるためのスイッチみたいなものだ。

 対して、雷神の槍は長槍に分類され、アクアの専用特殊武器で、攻撃力も上がる。

 ただ、アクア自身のSTRがあまり高くないため、ダメージの期待値は低い。そもそも、直接攻撃で使うことの方がオマケと思われる性能だ。

「やっぱり、MP消費してスキル使えるんだな。〈サンダーボルト〉と〈雷撃〉か。対象が単体か範囲かの違いかな。しかし、消費MPエグイな」

 魔力が豊富にあると自負するアクアでも、ごっそりなくなるレベルだ。ハルマ印のMPハイポーションでも1度では回復し切らない量である。その分、威力も期待できるが、使いどころは限られそうだ。

「でも、この〈避雷針〉って効果は、かなり優秀だな。いや、優秀過ぎるな」

 スキル名のイメージ通り、相手が使った雷系のスキルや魔法を無効化するものである。しかも、ただ無効化するだけでなく、MPとして吸収するというのだから、ありがたい。

「水系魔法のエキスパートってだけでも優秀だったのに、歌唱スキルも雷神の槍も助かる性能だなあ。シャーザーキのエリアが最前線よりも2つか3つ先のエリアだから、それに合わせた能力ってことなんだろうな」

 ハルマの予想の通り、アクアの能力は現状では過剰とも思えるほどだ。そもそも、泉から海流に乗ってシャーザーキに移動できる手段が、本来は見つかっていないはずなのだ。その上で、クラスも追加していないプレイヤーがクラーケンまで討伐できるなど、想定されているはずもない。

 そのことを裏付けるように、この日、ハルマが学校で眠気と戦っている時間帯、開発運営スタッフは、大わらわとなっており、最終的に安藤の「不正があったわけじゃないんだから、修正を入れるのはダメだよ。このまま好きにさせよう」という、諦めともとれる対応で落ち着くことになっていたことを、彼が知るはずもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る