第4章 街の灯り

Ver.6/第41話

「ふぁっ、あああぁあああぁあああぁ……」

 学校に到着して早々、大きなアクビが出てしまった。昨夜は、マーメイドの集落、シャーザーキの転移場所を登録して、すぐにログアウトしたものの、時間は深夜を大きく回ってしまっていたのだ。

 おかげで、寝不足である。

「俺が夜更かしするのはいつものことだけど、ハルマが眠そうなのは珍しいな」

 ぼんやりと靴を履き替えていると、背後からチップに声をかけられた。

「おう。おはよう。いやー、何か、クエストに必要なアイテム探してたら、雷神が降ってくるわ、マーメイドの集落に行くことになるわ、途中でクラーケンに襲われるわで、ログアウトできるタイミング逃してな」

「……何してんの?」

 ハルマの説明に、チップは唖然となる。

 その後、事の顛末を語って聞かせることになるのは避けられなかった。


「世の中、クラス追加で盛り上がってるのに、マジで、何してんの?」

 話を聞けば聞くほど、チップの表情は曇っていった。片や、追加されたクラスを育てるために奮闘しているというのに、聞いたことのないクエストをこなし、〈演奏〉スキルを取得して遊んでいると言う。

 そうかと思ったら、ショートカットを見つけて、誰も到達していないであろう遥か先のエリアに進んでいるという。しかも、またNPCの仲間が増えたと言うではないか。

 呆れたら良いのか、褒め称えたら良いのか、反応に困る。

「い、いや。俺だって、早くクラス追加できるレベルにまで上げたいんだぜ? ただ、ちょっと〈レア運上昇〉の効果を検証してみたくなっただけで、こんなことになるとは思ってなかったんだよ」

「あー。そういうことか。にしても、さすがだな。展開が意味不明すぎる」

「俺も、今回は時々ついて行けねーって、なってたよ。で? クラスの方はどうなんだ? 面白いの見つかったか?」

 クラスが追加されて、まだ数日しか経っていない。それでも、新情報は続々と出てきている。

「いや。俺達は、レアクラスは見つけてないな」

 そのまま、チップは自分も含め、シュンとアヤネのクラスについても教えてくれた。

 チップは、前衛職の中で比較的オーソドックスなナイトを追加。初期クラスにファイターや剣士といったクラスもあるようだが、〈ナイト〉の称号を得ていたことで、少し上のクラスを追加できたようである。

 STRやVITにボーナスが付き、重鎧と呼ばれるフルプレート系の装備を身につけた際にも追加のボーナスが発生するようだ。

 これにより、火力だけでなく、打たれ強さも増したとのこと。

 シュンは、もともと回避盾系のプレースタイルだったこともあり、前衛職の中では、少し珍しいフラッシュナイトというクラスを追加したらしい。

 チップと同じナイト系のクラスでありながら、回避を重視しており、STRの基礎値が下がる代わりにAGIがだいぶ上がり、回避率とガード率も上がったそうだ。また、STRが下がるものの、下がる前のSTR値が反映された重さの武器と防具を装備できるという特性もあるようだ。

 アヤネは回復も攻撃も行う魔法職だったことで、少し面倒なことになっているようだ。クラス追加で、回復魔法寄りのプリーストと、攻撃魔法寄りのウィザードが追加されたものの、両方をカバーするクラスが見つかっていない。

 そのため、熟練度の成長を遅らせてでも両方取るか、片方を交代しながら育てていくかで悩んでいるようである。

 ちなみ、多くの魔法職が同じ悩みにぶち当たっているようである。

「プリーストとウィザードが別のカテゴリーなら問題ないんだけどな。似たようなクラスが別のギルドにないか、探しちゃいるんだが、そう都合よくは見つからないんだよな」

「プリーストになったからって、攻撃魔法が使えなくなる、とかじゃないんだろ?」

「そうだな。どっちかだけを追加しても、基本的に今までよりは強くなる。だから、状況に応じて、どっちを優先するか決めれば良いんだが……」

「どっちも強化したくなるのは、サガみたいなもんか」

「そういうこと」

 その後も、クラスにかんしてわかってきたことを中心に、話をしながら始業の時間を待つことになるのだった。

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