Ver.6/第33話
マーメイドの集落には早いところ向かいたいが、ここでの目的は達成しておきたい。後日に回して、再度ここまで訪れるのは、少々面倒に感じられたからだ。
丁度いい機会だからと、アクアも戦闘に参加させることにする。
「アクアは、ここの見張りを任されるくらいだから、戦闘は得意なのか?」
「任されていると言っても、ここから外敵が侵入したことなんか、今までないんですけどねえ。他にもいくつか出入り口はありますし~。でも、魔力には自信がありますから、ちゃんと戦えますよお」
「たぶん、ニノエと同じ扱いだよな? ニノエの場合は、短剣と弓、風魔法と光魔法が使えるバランスが良いタイプ。アクアは、武器は何を使うんだ? 物によっては、俺が作るけど」
「水魔法が専門なので、基本武器は使いませんよお。強いて言えば、鱗ですかねえ? 後は、ゴーレムを作って戦わせることもできますう」
「ん? ゴーレムを作る?」
アクアの言葉に、これから戦おうとしていたゴーレムに視線を向ける。ここにゴーレムが多いのが、もしかして、彼女のせいなのではなかろうかと思ったからだ。
「あー、いやいや。私が作るゴーレムは、ウォーターゴーレムかアイスゴーレムですよお。そんな無骨なゴーレム、趣味じゃないですからあ」
あら、やだ奥さん、みたいなノリで告げてくる。
「なんだ、ビックリした。水を材料に作るのか」
「はい~。ちなみに、アイスゴーレムの方が丈夫ですが、魔力の消耗が激しいので、長時間は維持できません~。注意してくださいねえ」
「ふむふむ。クレイゴーレムとゴーレムみたいなもんか。了解」
軽くレクチャーを受けた後、実践に移る。
相性的には、水属性は土属性に弱い……はずなのだが。
「めっちゃ強いな」
早速生み出したアイスゴーレムを戦わせてみると、最前線付近のエリアで見かけるゴーレムの上位種と同等の戦闘力に思えた。
相性の悪さも、それだけ格が違うと誤差みたいなものになる。
試しに、ウォーターゴーレムでも戦闘させてみたのだが、それでも完全に相手を上回って見せたのである。
ウォーターゴーレムでレベル35相当、アイスゴーレムでレベル55相当といったところだろうか。最前線のエリアで戦わせるには不安の残る強さだが、これはアクアの作り出した消耗品である。一度に1体しか作れないとはいえ、使い捨てだと思えば、強力過ぎるほどだ。しかも、アクアはレベルが上がるので、それに合わせて強化されていくことだろう。
更に、アクア本人の魔法も強力であった。
他のマーメイドよりも魔力が高いと話していた通り、水系魔法のスペシャリストと呼べる腕前である。威力だけならネマキに劣るが、水魔法は攻撃だけでなく、回復や阻害系の魔法も豊富なので、戦闘の幅は大きく広がったと言えるだろう。
そうやってアクアの能力を確かめながら戦闘を続けていたが、ふと気になることを思い出した。
「そう言えば、あの金の太鼓と銀の太鼓は、どうやって用意したんだ? 事前に準備なんか、できないよね?」
「あー。それは、簡単な話ですよお。私は、水魔法が得意なので、それを応用した、水錬金というスキルを使えるんですう」
「水錬金?」
聞いたことのないスキルに、首を傾げる。
「そうですねえ。口で説明するより、見てもらった方が早いですかねえ」
アクアはそう言うと、早速実演してみせた。
「まずは、こうやって材料になる水を用意しますう」
まとっている水から、コポンとサッカーボールサイズの塊が宙に浮かび上がる。
「あとは、粘土で形を作る要領で、水で骨格を作って、仕上げに水をイメージ通りの材質に錬金すれば、出来上がりですう」
宙に浮かんだ水の塊は、アクアが説明している間にうねうねと形を変え、一振りの剣になった。そうかと思ったら、〈水錬金〉のスキルが発動したのか、金属の剣へと変貌したではないか。
「おー。すごい」
これには、ハルマだけでなく、シャム以外全ての仲間たちも感嘆の声を上げた。
「へえ。ワタシも長いこと生きてきたが、初めて見るスキルだ」
森の守り神最年長であろうピインですら、素直に感心している。
「あ、いやー。実は、これ、私のオリジナルスキルなんですう。なので、私しか使えないんですよお。それに、錬金とはいっても、魔力を通してそう見えるようにしているだけなので、すぐ水に戻っちゃうんですけどねえ」
神の1柱に褒められ、露骨に照れながら謙遜して見せる。
「いや、ユニークスキル持ちとか、なおさらスゴイじゃないか。それも攻撃に使えるのか?」
「使えないことはないですけど、材質を真似ても水は水なので、氷以上の強度にはならないですよお?」
「なるほど……。使い捨てのちょっとした武器って感じか。それに、武器以外でも何かできそうだなあ……。じゃあ、水以外の液体でもスキルは使えるのかい?」
「水以外……。ごめんなさい。やったことないですう」
ハルマの問いに、考えたこともなかったという表情になって項垂れる。
「ああ、いや、気にしないでくれ。俺も、水以外の液体なんて、この世界じゃ見たことないから」
思わぬ反応に、ハルマもあたふたしながら慰める。しかし、この時、頭の中では、液体金属みたいなものがどこかにないかと、ちゃっかり考えていたのだった。
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